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アクアリウム21

また二人は、首を傾げたが
牧村の笑顔を見ていたら、疑問も霧散してしまった。
納得しているのは、鍋の中のおでん一同だけだ。


微笑ましい風景に風が通り過ぎた。
サワリと木々が揺れ始めている。

(今夜もあの娘は、現れるのだろうか?)

ここのところ毎日のように、スズカケの木の下で
目にする娘のことだ
誰と待ち合わせしているようでもないし
探し物をしているようでもなさそうだ。
何故か木の根元にしゃがみこんで、しきりに地面を撫でる

いったいどこの娘なんだろうな。綺麗な娘だから
きっと女優さんかモデルさんなのだろうか?

「牧さん、後ろ後ろ。」唐突に鍋の中から
声が聞こえた。

佐藤と長坂に気づかれぬよう、牧村はそっと声のする方向に
目を向けた。

厚揚げが、興奮した様子でこちらに手招きしている。

「牧さん、ほら、またあの娘だよ。また来てる。」

ゆっくりと振り返ると
驚くほど白い肌をした、若い娘が、しゃがんでいた。

「本当だ。今日もしゃがんでるねぇ。」

「ちょっと理由を、読んでみるわ。」厚揚げが予言を
しようと彼女の姿をとらえ、それから遠い目になった。

「どうだい?やっぱり女優さんとか、モデルさんなんだろ?
綺麗だもんなぁ。」牧村は鼻歌を歌い始めた。

「あれ、牧さんご機嫌ね。」佐藤が鼻歌に気づいた

ニコニコしながら、鼻歌を奏でる牧村

「あれ?・・・・あ・・・・あれ?」
激しく 狼狽する厚揚げの声

「何これ?どうしてかしら?」

鼻歌を止めて、牧村が鍋に目を向ける。

大きく目を見開いて、これ以上ないという驚きの表情をした
厚揚げが、震えるように牧村に告げた。


「あの娘、全く読めないのよ。過去も未来も・・・・。」

牧村は、放り投げた鼻歌をどうしようと目をしばたいた。

「ニィニィニィ」
長坂と子猫達はすっかり打ち解けて
長坂は3匹とも抱き上げ、すっかり上機嫌で満面の笑みだ。

その姿を、佐藤が眩しげに見ていた。


牧村と厚揚げだけが取り残された
微笑ましい空気。

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