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アクアリウム11

牛乳を飲み終えた僕は、テレビの音に逃げた。
最近露出が目立つ、お笑い芸人が
東京の有名な洋菓子店を、得意のギャグを交えながら
紹介していた。目を伏せ、溜息を噛み殺す。

「どこの大学行きたいのよ?ねえ。」
母が僕の後頭部に話し掛けてきた。

「いやぁ。どうしようかなって、さ。」軽い調子がうまく出せたかな。

バサリ
父が新聞を置いた。

コーヒーに手を伸ばして、詰まるような声で

「まず、何をやりたいか だ。」と言った。

芸人のおどけたギャグで笑おうとした。うまく笑えない。

バサリ
もう一度新聞を広げる音

「医学部以外は認めないからな。」強い語気だ。
父はまた、あの目をして言ったに違いないんだ。

テレビを消して、自分の部屋に戻った。

ドアを占めるとき、母の困ったような
「お父さん」という声が聞こえた。


部屋に入ると、携帯電話がメールの着信を知らせるランプを
点滅させていた。力亜からだ。
やっぱりあいつはいつも欲しいタイミングで
メールをくれるな。

メールを開くと

「グーテンモルゲン!裕ちゃん。素敵な休日には
素敵なおっぱいを。もうすぐ梶邸に到着にて。」

携帯電話を閉じると同時に
上品なクラクションの音と
「裕ちゃーーーん。遊びましょう。いろんな意味でぇぇぇ。」
という力亜の声が聞こえた。

急いで、着替えて
家のドアから出ると

真っ赤な アウディから
真っ黒の服を着た力亜が、満面の笑みで手を振っていた。
「おぉー早く早く!美しい自然科学日よりだよ。」

「おはよう。」玄関に向かって出かけてくるー。と言うと
バスケットシューズを突っかけて、力亜の乗るアウディへ向かった。

空は高く、刷毛で一筋書いたような雲が見えた。

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