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アクアリウム19
臆病な僕は、動揺して記憶をたどってみたものの
彼女のように美しい女性は、やはり初めて見る。
少女のようでもあり、分別のある大人のようにも見える。
底知れぬ不思議な魅力に、僕はゆっくりと瞬きを一回した。
すると
彼女は跡形もなく消えていた、魚影が再び回転を始める。
ここで恐怖を憶えるのが、いつもの僕だけど
なぜかそんな気がしていたので
「あぁ、やっぱりな。」と口だけ動かした。
鮮やかな姿が、瞼の裏に張り付いて離れない。
恥ずかしいくらいに上気したであろう僕の顔
なるべくアクリルの反射に注視しないように歩いた。
ここへ来るたび、挨拶するような気持ちで眺めていた
フェアリーペンギンの尾羽の震えも
白イルカの頷きも
大きなエイの宇宙人のような裏側も
今日に限っては、上の空だった。気がついたら市バスに揺られ
家路についていたという有様だ。
母親の「お帰り」という言葉を耳の裏側で聞きながら
自分の部屋で、ごろんと寝転がった。
目を閉じ落ち着こうとするも、彼女の姿に捕えられっぱなしだ。
どうしよう
認めたくないが、どうやら僕は
一目惚れしてしまったらしい。
相手は人じゃないかもしれないのに
なぁ、力亜 お前ならどうするよ?
そう呟くなり、光が頭をかすめた気がした。