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おでん屋奇譚14

この街の職人達は皆いい仕事をしている。
俺も頑張らなくては。

車を走らせながら、彼はパンのアイディアを
練っていた。
仕事人間と笑われるかもしれない

それでいいんだ。

俺は納得のいくパンと
喜んでくれるお客さんがいればそれでいいんだ。


信号待ち


ふと

見覚えのある物が。

電柱の張り紙に、サブローの目は釘付けになった。

あ、あれ?

あれって、クロの親猫じゃないのか?

迷い猫の張り紙。

よく見ると、やはりそうだ。
立派な体に、金の首輪が光っている。

迷い猫探しています
真っ黒い黒猫 オス
金の首輪をしています。
名前はシズク

お見かけした方はこちらまで連絡お願いします。
XXX-XXXX 牧村 

探していただいた方は
謝礼をさせていただきます。


あれ、やっぱり
クロの親だ。


後ろからクラクションを鳴らされ
やむなく、アクセルを踏んだ。

連絡先など覚えていない。
しかしながら、今度見つけたら
捕まえておくのがいいのかな??

思案しているうちに、ベーカリーに着いた。

作業台に座り、先ほどのケーキたちを見ながら
パンのアイディアをデッサンしているうちに
午前中の出来事などすっかり忘れてしまった。


連日のアルバイトの疲れも抜けきれぬまま
寝ぼけ眼で、食卓に座ると
テレビ画面に見覚えのある光景が映し出される。

「おはよう。」
「おはよう。」
高低差のある、朝の挨拶を済ませる。

最初はローカル番組の
お勧めの店紹介かと思った。
何しろあのサブローベーカリーの店先が
写っているのだから。

しかしながら、ナレーションが落ち着きすぎている
あ、これはニュースだな。

何の気なしに、食事をしながら
耳だけテレビに向ける。

刹那

弾かれた様に、首を上げる洋介。
少し遅れて、母親の啓子が洋介を見る。

テレビのボリュームを大きくして
眼鏡を掛け直し、画面を注視した。

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