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アクアリウム9
あれ?厚揚げの預言は絶対なんだけどな。と心の中で首を傾げる
牧村。
「その論文はね、今私達が取り組み始めたばかりの論文なのよ!
まだ仮説を立証する段階なんだけど。それにしても・・・牧さんの口から
アルゴリズムなんて言葉・・・当てられちゃったことが凄過ぎて
なんだか。突き抜けちゃって、可笑しくなっちゃた。あははははははは。」
「佐藤先生と牧さんてどういう関係なんですか??」自分の知らないところで
上司と牧さんが繋がっていると思った長坂は、嫉妬に似た声を挙げている。
「おでん屋とお客さん以上の何でもないよ。」牧村はフフフと笑った。
厚揚げめ、読んだのは過去じゃなくて、未来だったんだ。
「牧さんは凄いのが分かったし。その牧さんのお告げで
今の研究が、良い方向に向かいそうだってことも分かったわ。
なんかそういうの嬉しいじゃない? えっとこれお代わりね。
あと卵とゴボウ巻き。」祝い酒に拍車がかかる。
「まだ飲むんですかぁ?
まぁ僕も嬉しいんで、一杯付き合いますよ。」モヤモヤした気持ちを
一掃したそうな声だ。
「それでこそ、チーム佐藤だよ、長坂先生。
では、次の研究の成功を祈って 乾杯!」
「乾杯!」
長坂を見る、佐藤の目に少し色気が出てきたことに
気づいたのは、まだ厚揚げと牧村だけだった。
秋風が木々を揺らし、冬の気配をちらつかせた頃
牧村は景気よく飲む、二人の客の相手をしながら
ふと 何の気なしに振り返った。
公園のフェンス越しに見えた影。
いや光だろうか?スズカケの木の下に何かがいる。
内側から光るような白い影が・・・人?だろうか
しゃがんでいるようにも見える。
木の根元をしきりにさすっているようだ。
(誰だろう?若い女性のようだが・・・。何をしているんだ。)
「ちょっとちょっと牧さん、牧さーんてばぁ」
すでに呂律のあやしい佐藤が、手を招く
「今度はあたしの結婚相手を教えてよぅ。もう三十路超えそうなんだから
焦ってないって言えば嘘になるわけよ。たまには数式とプログラム以外に
恋愛に打ち込みたくもなるわけなんだけどさぁ。」
厚揚げと牧村は苦笑した。
もう一度振り返ると
先ほどの影は、あとかたもなく消えていた。