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アクアリウム16

「まぁ、でもさ、さっきのおっぱいでも十分癒されたよ。」
笑顔をつくって言ってみた。

「あはははははは。でもダメ押しの癒しはこれからだよ
さぁ行ってらっしゃい。」力亜はニコニコして手を振りだした。

「なんで?来ないの?」そういえば力亜と中へ入ったことはなかった。

「ん?帰りも無免許運転の助手席に座るの?
分かっていて乗るのは犯罪ですよ?」

「あ・・・。」右手でかぶりを振った。

「でしょ?」小首を傾げた力亜は
まるで黒い柴犬のようだ。
「いってらっしゃいな。」

「力亜にはかなわないなぁ。」と自然に呟くと

「一体何年友達やってると思っているんだよ。」と胸を張り出した。

「バーカ。」この天才にこの言葉を吐けるのは
多分僕だけだ。

(たったの二年じゃないか。)

そういえば、力亜は高2のかなり中途半端な時期に
僕の母校私立松野高校へ編入してきたんだっけ。

気がつくと小さく手を振って、アウディを発進させる
力亜の姿が あっという間に見えなくなっていった。

地下にある入り口の横で入館チケットを買い
館内へ入ると、まず、大きなサメ達が出迎えてくれる。
サメの大きさや、優雅な動きよりも
青に包まれてゆく感覚に、魅了されてゆく。
水槽は無音の世界。心なしか毛足の短いカーペットを
踏みしめる音も遠慮がちに聞こえてくる。

日曜日ということもあってか、家族連れが目立つ
しかし、特に長期休暇のシーズンでもないため
自分のペースが保てるほどの人出だ。

角を曲がると現れる、ひときわ華やいだ水槽。
色とりどりの魚やサンゴが、みごとにライトアップされ
目にまぶしい。ここはさすがにカップルが多い。
彼らは皆一様に、水槽に顔を付け合いツンツンとアクリルを叩いている。
にこやかな風景だ。

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