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アクアリウム34
白衣を翻し、リノリウムの床を足に馴染んだサンダルで
速足で歩く。看護婦の詰め所を通る時、照れ笑いで会釈した。
若い看護婦が、ニコリと笑う。
404号室
無機質な、直線で構成された病院の風景は
いつも冷たく感じて、よそよそしいが
今日は違う。
数日前、脳外科手術を行った患者はギリギリのところで
一命を取り留めた。だが、まだ意識は戻らない。
部屋番号の隣に記された
患者の名前を右手で一撫でして呼吸を整えた。
ノックして、引き戸を静かに開ける。
燃えるようなオレンジ色。
誰かが窓を閉め忘れたようだ。
夏の夕暮れは特に眩しい。
ヒグラシがカナカナと鳴いていた。
白衣の裾が膨らむ。
キャスター付きの丸い椅子をベットサイドに置いて
座った。
しばらく、機械的な呼吸音を聞いていたが
夕焼けに照らされた、横顔は照れたように口を開いた
「久しぶりだね、さぁ、昔の話でもしようか。」
窓の外で、雨でもないのに黒い傘を差した影が
揺れた気がした。
終わり