見出し画像

アクアリウム14

松野研究水族館
研究学園都市の名に相応しく、規模の大きな水族館
研究目的の施設が大半を占める為、一般客が見学できるスペースは
全体の4割ほど。それでも十分に見ごたえがある水族館だ。

遠くで風が鳴る音が聞こえる
巨大な直方体の建物は、視界から空を隠している。
ぼんやりと眺めていると

バタム

アウディの扉が閉まる音
我に帰るといつの間にか力亜が横に並んでいた。
両の手をブラックデニムのバックポケットに突っ込んで

「重心が左寄りだったんだよ。」と話し始めた。
裕一は力亜の横顔を、声も出さずに眺めた。

「人は身体の左に真実、右に虚構を置くんだ。
家から出てきた裕ちゃんの左肩が心持ち下がっていたんだ。
何か言いたくない事とか、嫌な事があったんじゃない?」

「うん。」図星だけに反論も不毛に感じて、首肯した。

「顔もさ、なんだか無理な笑みだったし。お父さんとまた喧嘩したとか?」

「そう。またいつもの調子さ。」父が新聞をめくる音が聞こえた気がした。

「やっぱりそうか。」

「うん。」力亜にはかなわない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?