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アクアリウム18

360°青の世界
深い青の世界
僕はしばらくここにいたい。雛壇上になった床に
そっと腰かけ、しばらく目の焦点もあいまいに浸っていた。

判官びいきの僕は、体が小さくて
尾びれの付け根が曲がってしまい、不格好に泳ぐ
マグロに小さなエールを送りながら 頭の中を青く浸していった。

白イルカに比べれば、ずっと地味な水槽だということもあり
他の客は比較的すぐに飽きて、順路へと移動してゆく。
あっという間に僕はドーナツ型水槽の
最古参になってしまった。

無音と青の世界
銀色の魚群

時間を忘れぼんやりとしていると、気のせいかふと
視線を感じた。射抜くような視線ではない
包むような視線だ。

(なんだろう?)

視線だけその方向へ向けると、何のことはない
アクリルに薄く映った人影だった。
きっと後から入ってきた客だろう。

(あれ?)

かすかな違和感。

もう一度今度は顔を向けてみる。
すると、アクリルに反射した人影ではなかった。
確かにそこには人が立っていた。
透けるようなその姿は、若い女性だった。

髪は長く、毛先がほんの少しカールしている。
ほっそりとした体つき。華奢な肩にワンピースの襟から覗く
鎖骨が絶妙なバランスで、美しいカーブを描いていた。

知香子とは違う種類の美しさだ。
無意識に比べてしまう自分にちょっとした自己嫌悪を覚えた。

人影だと勘違いしたのは
おそらくそのはかなげな雰囲気のせいだろう。
なぜか内側から光りを放っている様にさえ見えた。

見とれてしまう。回転する魚影が一瞬止まった気がした。

なぜかいけない気がして、目が合う前に
慌てて逸らした。

誰なんだろう?もう一度隠れるようにして彼女を見た。
彼女は青をまとって、微かに微笑んでいた。

僕のこと・・・・知ってるの か?

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