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「奇想の絵師 歌川国芳」展の見どころ

先に永井荷風『江戸芸術論』を通読したが、浮世絵そのものをほとんど見ていないので、いかんせん一知半解にも届かない。「奇想の絵師 歌川国芳」展の開催中を知って、その画業にふれて僅かなりとも解りたいと、うらわ美術館へ足を運んだ。

ためしにチャットGPTに見どころを問うと、「展示されている作品の中でも特に注目すべき点」として次の4点をあげた。(説明略)

①『三十六怪撰』シリーズ ②『南総里見八犬伝』シリーズ ③外国人像 ④ユーモラスな作品

なお、不明な点を問い直すと「私の最新の知識は2021年9月までのもの」と断わりが返って来て、今回の展示の詳細を承知のうえの答えではないと判明した。

「南総里見八犬伝」シリーズは、「八犬伝之内芳流閣」「曲亭翁精著八犬士随一」の展示にとどまるが、圧巻は「通俗水滸伝豪傑百八人」のシリーズである。お馴染みの魯知深、黒旋風李逵、九紋龍史進などの豪傑が勢揃いする。荷風も「国芳は武者奮闘の戦場を描き美麗なる甲冑槍剣旌旗の紛雑を極写して人目を眩惑せしめぬ。国芳の武者絵は古来土佐派に属せし領域を奪ひ以て浮世絵の範囲を広めたるものと見るも可ならんか。」と評するように、じつに勇壮かつ美事である。また、「通俗三国志」の「玄徳三雪中孔明訪図」や「呂布追董卓庭上転」なども凄い。かつて愛読した吉川英治『水滸伝』『三国志』のワクワク感がこみ上げて来るようだった。

荷風はまた「国芳においては時として西洋画家の制作に接する如き写生の気味人に迫るものあるを見る。国芳が写生の手腕は葛飾北斎と並んで決して遜色あるものにあらず。『東都名所』と題する山水画中の人物の姿勢、……よくこれを証して余りあり。」と、その写生力を称えてやまない。

その「東都名所」は4作品が展示されていた。なかでも荷風は、「東都名所新吉原」を取り出して、「東都名所新吉原と題したる日本堤夜景の図を見よ。……その向より駒下駄に褞袍(どてら)の裾も長々と地に曳くばかり着流して、三尺を腰低く前にて結びたる遊び人らしき男一人、両手は打斬られし如く両袖を落して、少し仰向加減に大きく口を明きたるは、春の朧夜を我物顔に咽喉一杯の声張上げて投節歌ひ行くなるべし。」と叙述するばかりではない。

「浮世絵師の伝記を調べたる人は国芳が極て伝法肌の江戸児たる事を知れり。この図の如きは寔(まこと)によくその性情を示したる山水画にあらずや。」と評した後、「幕末の人心のいかに変化せしかを想像するに余あり。」と結ぶのも、この絵を前にして得心した。

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