ぼくのライブエイド研究3
我々がフジテレビ生中継で見たものは何だったのか?
1985年7月13日土曜日に世界が共通体験したはずだけど・・
■ 世界はひとつ、ではなくバラバラでなきゃいけなかった!
ロック史上最大のチャリティコンサート、ライブエイドは1985年7月13日・土曜日に全世界140カ国に中継されました。(ライブ中継は84カ国で、他は録画だったようですが)アフリカの飢餓を救う募金を集めるため、世界がひとつとなったのです。
宝島社から2005年に出版された「ライブエイドの軌跡」という単行本があります。ちょうど公式DVD4枚組がリリースされた20周年のタイミングに合わせた、攻略本的なライブエイドの解説本でした。
正直言って、全体的には音楽評論家の方の独断的な文章が多くて、資料として参考になるのは後半のタイムテーブルやアーティスト解説なんですが、最も興味深い記事が、フジテレビのプロデューサーでライブエイドの生中継を担当なさった石田弘氏の回想インタビューです。これは現場にいた人の証言として、大変貴重なもの。これによると。。
主催者のボブ・ゲルドフからは「その国のアーティストが強いところは、国内でライブをやって募金を集めてくれ」
と言われたらしいです。イギリスとアメリカの、世界的に有名なスターたちが出るライブを中継するだけでよいのかと思ったら、それぞれの国で、そっちでもイベントやってくれ、と。まあ、また世界にそれが中継されるのならアピールになるから、みんな嬉しいですよね。
オーストラリアやドイツやロシアなどでは大規模なライブが行なわれ、その模様が少しづつ中継されました。そして、それぞれの国で、その国のアーティストが集ってワンフレーズずつ歌ったりするチャリティソングの新曲を、ライブエイドまでに合わせてPVを作ったのが、カナダ、ノルウエー、オーストリア、ユーゴスラビアなど。(ボブ・ゲルドフは「結局、ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマスみたいなイイ曲はひとつもなかったけどね!」とひどいことを言っていたw)
こういうとき、まとまらないのが日本という国で、いちおう、ラジオ中継を担当したニッポン放送のスタジオに公募のアマチュアバンドが集まってライブをやったくらい(当時はインディーズという言葉が生まれる前だったので「出たがり素人バンドのみなさんです!」と言われていたw)。これは海外には伝わらず。
そして世界向けの中継には、日本のアーティスト集合の絵はなく、4組のアーティストそれぞれの、フジのスタジオで撮ったPVのような映像がダイジェストで順番に流れるだけ。で「なんかカオス」とイギリスでも言われてたw まあ当時、日本では一番売れてたオフコース、モトリー・クルーの前座でマジソン・スクエア・ガーデンでの公演などアメリカツアーも控えていたラウドネス、アメリカでも知名度のあった矢沢永吉、チャリティなどに意識の高いミュージシャンの代表であった佐野元春、という、納得のいくラインナップではあります。
それと別に日本の中継では、独自の日本のアーティストの楽曲が18組、やはりスタジオで撮った映像で紹介されました。ほとんどのアーティスト達はスタジオでのトークにも参加していました。それを差し込んせいで、せっかくの英米のスターたちの演奏もカットしなきゃいけなかったんじゃないか! と生中継現場では、たいへんな批判やクレームの電話もフジにあったらしいんですが、それは主催者のボブ・ゲルドフも望んだことなんだし、おそらく他の国でもそういうことがあったのだろう、と想像しますね〜。
当日の生中継では、新宿スタジオアルタ前、渋谷代々木公園、用賀デニーズ環八店前(当時はアメリカ風レストランがたくさん並ぶ人気通りだった →当時を語る方の好ブログ アメリカ村の思い出)
などで、パブリックビューイングも行われいて、そこでのインタビューでは、日本のアーティストの出演を楽しみにしている、という声もあったので、いたしかたなかったのかな〜。
結局、世界はひとつにつながりながらも、それぞれの国がバラバラに、その国なりの中継をしていたのだろうな、というのが、あらためて思うところではあります。
■ ライブエイド研究への思い。。
ぼくが、なぜライブエイドを研究するに至ったか、というと、
あの1985年にフジテレビの衛星生中継で見たものがコマ切れな印象だったため、あれ以外に日本のオンエアに乗らなかった楽曲や名場面などが、他にたくさんあったのではないか? という疑問がずっと残ってました。
90年代になって海賊版VHSの8本組で、イギリスBBC放映バージョンが手に入るようになり、これを見て、ついに解明されたとは思いました。やっぱりカットされてた曲がいろいろあったんだなあ、と。でも逆に日本では見れたはずのアメリカでのライブがいくつか欠けてるような? と疑問も残り。
2000年代になり、2005年の20周年にやっとリリースされた公式DVD4枚組を見て、さらに補完されました。やっぱイギリスでは放映されてなかったアメリカのライブもけっこうあったのだと。しかし、これでコンプリートなのかと思ったら、DVDでもカットされたシーンがけっこうあった。出演アーティストによっては当日の演奏に納得いかず「自分のは入れないで」て人もいたようだし。全曲入れると長いから、とカットされた人も。
まあ、ライブエイドは映像は残さない、というアーティストとの契約のもとに行われたらしいんですが、イギリスBBCもアメリカMTVもアーカイブは消さずに録って残していたから、DVDができたそうで、ボブ・ゲルドフも海賊版が横行しすぎたので、公式映像をリリースせずにいられなかったらしい。
2010年代、本格的ネット時代になってから、さらにいろんな情報が明らかになり、youtubeにアメリカABC放映バージョンが多数アップされたりして(また後で削除されたものもある)、ようやく細かいとこまでオリジナルの全容が浮かび上がってきました。2015年の30周年になると、youtubeには公式のLIVEAIDチャンネルができたり。正式な演奏映像もクリアにいつでも見れるので、日本で放送されたものはどうでもいいような気がしていた。
この頃、イギリスでライブエイドを研究しつくしてるサイトがあるのを発見しました。実はもう2005年の20周年のときにできてたみたい。http://liveaid.free.fr
という、これは熱心なファンが作っている非公式なサイトですが、ライブエイドについて世界で唯一、ほとんど完璧に詳細に記録を残そうしていたページでした。wikiも見る必要ない、このページだけでじゅうぶん。
当日の両会場における正式な出演順、演奏時間、司会者などについてわかりやすく表組みされたタイムテーブル「who played what」があり、イギリスBBC(ヨーロッパ全体)、アメリカ地上波ABC、アメリカケーブルテレビMTV、の3つの生放送ではどんな順番で何が放送されていたか、それぞれのタイムテーブルも載っている。
そして「who played what」を見ながら、根本的な疑問に気がついたのです。それまで「イギリスとアメリカのステージにそれぞれ交互に出演者が登場し」という、とよくある紹介文が頭の中に刷り込みのようになっていたので、イギリスのステージが終わったら、そのタイミングですぐアメリカのステージ、という構成だったと思いこんでいました。
しかし、それでは全体の演奏時間などがどうも合わない。
実はイギリスとアメリカで、かぶっている時間がけっこう長かったのだ。「交互」じゃなく「同時」の部分が多い!
しかし「who played what」を見ても、表組み自体はイギリスとアメリカで出番を交互にやってる構成になってて、どこの時間で誰と誰がかぶっていたか、把握しにくいんですね。そこでぼくは、一回「who played what」を全部プリントアウトして、紙の上で切り貼りすることによって、全体を俯瞰してみました。自分の背より高いよ。
そうすると、シャーデーとブラック・サバス、スティングとランDMC、ニック・カーショウとフォー・トップス、ブライアン・フェリーとCSN、
ハワード・ジョーンズとREOスピードワゴン、ポール・ヤングとジューダス・プリースト(いずれも前者がイギリス、後者がアメリカ)などなど、
前半はいろんな部分がかぶっていました。それで中継も国によって、放送された曲が異なってたのだな、と。
そして、紙の切り貼りじゃなくて、ちゃんと「who played what」をexcel上で整理し直して、かぶってる部分を細かく重ねるように直して、セットチェンジの待ち時間もその部分に空白の枠も入れ、ぼく自身の備忘録的なタイムテーブルを作ってみたのが2017年です。
ライブエイド・タイムテーブル完全版
そして2020年代になってみると、コロナ禍のせいもあって、ヒマになった人が世界じゅうで古いVHSをデジタル保存し始めたようで、internet archive などのサイトに、イギリスBBC放送やらアメリカABC放送やら、いろんな中継バージョンのライブエイドが、まるごとアップされるようにもなったんですね。一気に研究が捗る! みなさんもヒマな日に一度、16時間かけて見てみてください。
https://archive.org/details/@liveaidfanbackup
そうなると、あらためて、あのフジテレビで放送された日本バージョンが気になったりして。
余計な日本のアーティストの曲とトークがふんだんに挟まれて、オリジナルの英米アーティストの演奏シーンが半分くらいカットされていた、洋楽ファンが激怒した、あの日の放送も振り返ってみよう、と。
昔はVHSで日本中継版のブートも出てたと思うんだけど、買い逃していた。今になって検索してみたら、youtubeにもいくつか当時の映像はブツ切りでアガってるんですが、最近になってフジテレビ中継版が、全編入ったブート版が、DVD8枚組で4000円くらいのがヤフオクで手に入りました!(ときどき売ってたり、なくなったりします)
これを最近、全部見直したことで、上記のようなアメリカ、イギリスの放送内容とつき合わせてみて、けっこう日本の放送も悪くなかった、のを確認できました。そして、BBC、ABC、MTV、とフジテレビをすべて横並びにして内容をチェックした、新たなタイムテーブルもいちおう作ってみました!
LIVEAID JAPAN TL
前述の、参考にしていたLiveaid.free.frのサイトから引き写しつつ、けっこう曲順やタイムで間違ってるとこも見つけて直しながら作りました。こんなことは全世界で、ぼくしかやってないハズ! まあ、また新たな発見や訂正・追加などして更新するかもしれませんが。。
■ あの日、自分は4畳半の部屋の、14型の小さなテレビで世界を・・
1985年の当時あの日は、ぼくの下北沢のアパートで中嶋勇二と常盤響と一緒に見ようと準備してたんだけど、ぼくは下北ドラマ(古本とレンタルビデオ屋)のバイトが遅番で、夜12時まで仕事だったのだ。12時半くらいに帰ったら、もう始まって3時間経ってて、中嶋と常盤に「ああ〜、もうブライアン・フェリイ終わっちゃったよ〜」と言われた。
悔しかったけど、でも、そっからは一睡もせずに、翌14日(日)の昼の12時まで見たよ。終わった後すぐ始まった「クイズ!ドレミファドン」も見たよ。
そのときは自分はまだビデオデッキ持ってなかったから録画もできなかったんよ。
で、当時ドラマの同僚で音楽仲間だった大西さんが、全編録画してたというので、大西さんちに遊びに行って、見てなかった部分を全部見せてもらったよ。見直したいとこも見直した。しかしトークの部分とかは、どうでもいいや、と思って早送りしてた。
なので今回あらためて海賊版DVDで、初めて見るシーンも多かったです。ま、見た部分も大半は忘れてたかもな。今になってから気づくことも多い。
こうすると、叩かれまくった日本での放送もそれなりに苦労はあったんだな〜、当日バタバタしながらの、ぶっつけな構成だろうから、放送関係者も生中継の間、どの映像を生かすか、誰を録画で後に回すか、空き時間に何をやるか、など工夫されたのがわかってきた。いろいろな日本のアーティストの映像やインタビューも、案外いらなくもなかったのかもしれない〜。。
当時フジテレビのスタジオにレコード会社の宣伝マンが集められ、次に誰が何の曲を演奏するかの情報もないから、その場で曲が聴こえたら、曲名のテロップを入れる、みたいなクイズみたいな状態だった、と前述の「ライブエイドの軌跡」でも語られてますが、その状況を綴ったブログも見つけました。エルトン・ジョン担当だった方のライブエイドの裏話。
当時は非常に評判の悪かった、逸見さんと南こうせつの司会も、今見直すと、それなりに誠実にがんばってたんじゃないかなあ、と広い気持ちで見れるようになった。
そして、まず特筆すべきことは、長野智子がかわいい。ぼくと同い年で現在58歳で、今は貫禄たっぷりの熟女アナですが、この年は入社3ヶ月の新人で初々しく、たどたどしい。一生懸命、募金電話の案内を呼びかけてる。ほんとに美少女って感じです。
You Tubeにスタジオの部分だけアガってる5分30秒くらいのとこ。
一方、このとき2年目の寺田理恵子は落ち着いた感じでキャスター席に座って、洋楽詳しいんです〜みたいな雰囲気でトークしている。
寺田は年取ってからも若い時と印象があまり変わらないので、長野より後輩じゃないかと錯覚しそうだけど、1個上だった。
あと、この映像は合間のCMやニュースも編集されずに全部入ってるので、掛布やクロマティのホームランとか、グリコ森永事件とか、面白い映像もいろいろある。
しかし、なぜか日本人アーティストの楽曲だけがカットされていた。海賊版のくせに!(でもトーク部分はまったくカットしてないw)
でも、このへんは、ある程度youtubeにもアガってました。外国の人がアップしてるので、イルカさんが「Dolphin」になってるw
海賊版サイトのリンクも貼っておきます。(いいのか?)解説文が労作。すごく面白くて参考になるよ! 内容見なくても見た気にさせる。
ライブエイド・フジ版1-2
ライブエイド・フジ版3-4
ライブエイド・フジ版5-6
ライブエイド・フジ版7-8
他に英米アーティスト演奏のみに絞って、日本のスタジオ司会などカットしたバージョンの海賊版もあるようでした。このページの解説も読み応えある。だけど、曲だけだと逆につまんないかね?
とか言ってたら、アメリカ版放送について詳しく解説する余裕がなくなってきたので、また次回に続きます!
2021年4月6日 かとうけんそう
■ ぼくより詳しい方がいらっしゃったら、間違いの訂正、情報提供、あらたな補足ください! いつでもフィードバックして、また文章を修正・追記します!