狂言『因幡堂』女がやってきてござる
和ろうてござるか~
本舞台に出るなり、里帰り中の妻に離縁状を送ったと申す男
そのような勝手が通る時代だったのでござろうが
そのまま因幡堂の観世音菩薩へ新しい妻を祈願に向かうと申す
この男の申し様には自身のことはなにも語られておりませぬ
語ったところで狂言がおもしろうなるとは思えませぬが
祈願には御堂で通夜をいたしまする
妻乞いには御堂に籠り”通夜”をするが常でござる
通夜は御堂に座り(按坐)、右手に扇を頭を支えるように持ち
その扇に傾いで目を瞑る(寝る)のでござる
妻乞いモノにはたいていこの通夜がござる
ちょっと変わった方法で妻を探す狂言もござるが(『釣針』)
このほかお願いごとは通夜をするとよく叶うようでござる
わわしいと云う女の登場
暇の状を受け取った女が大慌てで舞台に駆け込みまする
親里へ戻った隙に暇の状を送り付けただけでなく
新しい妻を乞うて因幡堂へ行ったこともバレているようでござる
因幡堂へ向かう道すがら
「あのような男は藪を蹴ても、五人や七人な蹴出しましょうが
去られたと思えば、身が燃ゆるように腹が立つ!」などと申しまする
つまらぬ男とくさすために遣われる定型の文句ではござるが
女性の愛情が顕れた言葉と存じまする
通夜をしている男の元へ着くと
女は通夜をしている男の元へ、余念もなく通夜をしている!とご立腹
女の情念は燃え上がり、復讐へ
「おのれ、、、食い裂いてのきょうか!引き裂いてのきょうか!!」
なんとも物騒な言葉を吐きながら通夜をする男を睨みつけつつ
思案をいたしまする
「イヤ、いたしようがござる」
なにやら不敵な笑みを浮かべ、男に近づく女
男、危うし!!でござる