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歩-イ】狂言の役名はたいてい立場でござる

和ろうてござるか~

一貫してわたくしの語るところは
‘ござる調'となっておりまする
これはおおむね狂言の登場人物が
客席に向こうて話す口調を旨としてござる―

狂言との出逢いから馴れ初めのお話しはまだ少々続きまするが
このあたりで主題を替えようとぞんずる
狂言そのものについてお伝えしとうなってまいりましてござるによって
此度より
 歩】の段 として狂言そのものの特徴や楽しみ方に
ふれてまいろうと存ずる

狂言は基本として笑劇、喜劇でござる

ことば遣いが少々今とは違うてはござれども
解説などなくとも十分に楽しめるものではござる
少しでも知っていただくことで、狂言を楽しめるツボが殖えることを
願うて描きまする

狂言の登場人物は固有名詞を持たないことが多ござる

ご覧になった方ならばピンとくるところかも知れませぬが
登場人物の名前はたいてい立場を表すのでござる
すなわち、主人、大名、出家、すっぱ、女、男、田舎者、山伏、太郎冠者…

太郎冠者というのは太郎さんという人の名ではのうて
召使い一号、くらいの呼び名だそうでござる
次郎冠者は召使い二号、三郎冠者は召使い三号となりまする

これは登場人物が、特別な“だれか”ではなく
どこにでもいる”だれか”、そのだれかは観てる人に思い描く余地を
持たせているのではないかと思うのでござる

なんだったら役名もそれほど気にすることなく
「こんなこと言う人居るいる」「こんなヤツ居るよな~」
とか自由に想像して見られる芝居なわけでござる

中には固有名詞の人も居るにはいるのでござる
例えば『金藤左衛門』の金藤左衛門、『右近左近』の右近(と左近)、『左近三郎』の左近三郎、『重喜』の重喜などなど
タイトルに名前が入っているものが多いようでござる

この名前もとりわけ知られたものではのうて
”男”などと表現されていても問題ないように思えまするが
なにとやら故あって、名前が残ったものでござろう

能にては源氏物語や平家物語の登場人物はじめ数多の有名人が出てござるが
狂言では数えるほどなのでござる
そんな中狂言に登場いたしまするのは
『業平餅』の在原業平や『朝比奈』の朝比奈三郎義秀などがござる

もしかすると古くはもっと大勢の有名人が居たのかもしれませぬが
能のごとく物語に沿ったお話しではなく
部分を切り取って面白う展開する狂言では
その人のイメージから切り離して観ることがより選ばれたのかもしれませぬ


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