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メールマーケティングを成功に導く配信リストの作り方
すこし前のお話ですが、WACUL社とラクス社の共同で以下のような研究レポートを発表いたしました。
また、このレポートを受けて日経クロストレンドさんからも取材いただきました。(会員限定記事です)
タイトルだけ読んで誤解する人が出ちゃったらどうしようと軽く心配はしていたのですが、案の定、極一部ではありますが「こんなのスパムメールと同じじゃないか」という反応をする人が出てしまったので、改めてこのレポートの前提条件である「配信リスト(以下:リスト)はどうあるべきか」について書いておきたいと思います。(配配メールのセミナーに参加したことがある方は復習のつもりでお読みください)
メールマーケティングの成果を決める3要素
メールマーケティングを実践するにあたり、当然ながらただ頻度高くメルマガを配信するだけでは高い成果は望めません。
なぜならば、メールマーケティングは以下の3つの要素の掛け算で成果が決まるからです。
メールマーケティングの成果
<リストの質> × <タイミング> × <コンテンツ>
配信頻度の調整は「タイミング」という一要素にのみ影響を与えるものであり、その他の重要な構成要素である「リストの質」「コンテンツ」をなおざりにしていては元も子もないのです。
そこで、今回はこの「リストの質」に焦点を絞ってお話をしたいと思います。
メールマーケティングの目的と役割
そもそも営利企業に勤める皆さんは何を目的としてメールマーケティングを実施しているのでしょうか?「限定セールの案内」「資料請求をして欲しい」「認知を獲得したい」etc…色々な目的があるかと思いますが、それらは最終的にはすべて「売上を上げたい」というひとつの目的に繋がっていくと思います。
売上を上げるための1手段としてメルマガを利用しているのです。
とはいえ、メルマガでは直接的に売上を作ることは出来ません。(AMP for emailなどはまだ一般的ではないので除外)
メルマガは商品詳細ページや資料請求フォームなどと言った企業側の目的を果たすことが出来るランディングページへと一人でも多くの読者を誘うのが課せられた役割です。
そしてこの「一人でも多くの」という点が誤解を生む原因となっています。
逆ピラミッド型という誤解
メールマーケティングにおいてメルマガを受信した読者が行動を起こすまでのプロセスを単純化すると「受信 → 開封 → クリック → CV(コンバージョン/目標達成)」となります。
このプロセスをイラスト化すると以下のようになります。
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上図のようにプロセスの全体像は逆ピラミッド型のファネルになっていますので、ファネルの入口である受信対象者を増やす(=配信リスト数を増やす)ことでその次のステージの分母も一定の割合で増加していき、最終的に成果を最大化することが出来ます。
はい、嘘です。
こんなきれいな逆ピラミッド型にはなりません。
実際のプロセスは以下のようにいびつな形となっています。
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メルマガの開封率(開封数 / 配信成功数 * 100)の平均は15%と言われていますが、これはどんな企業でも15%の読者が開封してくれるというわけではなく、開封率が50%を越える企業もいれば逆に一桁%しか開いてもらえない企業もいて、その平均が15%ということで非常に差が激しくなっています。
この開封率の違いは、リストの質の違いによるものです。
読者と企業との関係性(エンゲージメント)が濃い企業では、読者数と開封者数の差異が小さくなるため開封率は高く出ますが、反対に関係性が薄い企業では読者数と開封者数の差異が大きくなり開封率は低く出ます。
メールマーケティングの成果のプロセスをきれいな逆ピラミッド型で捉えてしまうと、リスト数を増やす = 成果も最大化される と思い込んでしまうため、エンゲージメントを無視してリストの量を増やす方向に舵を切りがちです。
そもそもリストの量を増やすと言っても、エンゲージメントの濃いリストを増やすことはとても難易度が高いので、展示会でノベルティを配ったり、プレゼント企画を実施したりして、エンゲージメントの薄い読者をかき集めるしかないのです。
エンゲージメントが薄いリストにメルマガを配信することで開封率が低く出るのは理解できるけれども、配信母数が大きくなるのだから結果としてCV数は増えるんじゃないのか?と思いますよね。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという考え方です。
しかし、これは明確にNoです。
なぜならば、エンゲージメントが薄いリストへ配信したメルマガは読者のメールボックスに届いていない可能性があるからです。
配信成功してるのにメールボックスに表示されない?
メルマガを迷惑メールとして誤判定されないようにするために、配信結果をもとに配信リストを継続的にクリーニングしている企業は多いと思います。
念のために解説すると、メールを配信した際に相手先のサーバーからエラー(Bounce)が返ってきたら、エラー内容を吟味したうえで今後届く見込みのないメールアドレスをリストから除外することで「有効なメールアドレス」のみのリストを作っていくことをクリーニングと言います。
迷惑メール業者はメールアドレスを色々なところから大量にかき集め配信しています。そのリストには、すでに使われていないメールアドレスやそもそも存在しないメールアドレスも大量に含まれているため、エラー率が非常に高くなります。
そのため、スパムフィルターは迷惑メール判定のひとつの基準としてリスト内のエラー率を見ているので、リストの継続的なクリーニングはとても重要なのです。
リストのうち、エラーが返ってこなかったメールアドレスの数のことを配信成功数というのですが、配信成功数 = 相手のメールボックスで正常に表示されている ではないので注意が必要です。
■配信成功数
配信リスト数 *(1 - 不達率)
※不達率(Bounces Rate)
バウンス数(エラー数) / 配信リスト数 * 100
ちょっと言葉では伝わりづらいのでイラストを作ってみました。
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これはメールを送信してから読者のメールボックスに届くまでを簡略的に説明した図になるのですが、送信サーバから送られたメールは受信サーバ側で「メールアドレスが存在しているかどうか」という選別を経るため、配信リストのうちすべてが届いているわけではありません。(配信リスト数 ≠ 配信成功数)
上述した「配信成功数」を多くの方は上図の ”A” の範囲(相手のメールボックスで表示されている)でイメージするかと思いますが、実際には ”B ”の範囲(宛先の有無を確認)のことがほとんどです。
配信成功したかどうかは送信サーバに返ってきたエラー(Bounce)をもとに判断しますが、"C" のエラー(宛先の有無)はほぼ確実に返ってくる一方、”D” のエラー(迷惑メールかどうか)を返すかどうかはスパムフィルター次第です。
つまり、エラーは返ってきていないけれども迷惑メールフォルダに振り分けられてしまい、相手のメールボックスに正常に届いていない場合もあるのです。(配信成功数 ≠ 相手のメールボックスで正常に表示されている)
迷惑メールに振り分けられるのはどんなケースか
では、どんな時にスパムフィルターは迷惑メールとして判定しているのでしょうか?それについては以前下記のnoteを書きました。
詳しくは上記noteに書きましたが、ざっくり申し上げますと、以下のようなポイントに注意する必要があります。
・エラーアドレスの含有率
・Fromアドレスの正当性
・購読解除導線の有無
・コンテンツ内の禁止ワード出現数
上記は一般的なスパムフィルターであれば共通の注意事項なのですが、実は最近、Gmailなどではこれに加えて「エンゲージメントをチェックしている」と思われる事象が報告されており、恒常的に開封率が低いメルマガは、スパムフィルター側の設定値を越えると迷惑メールとして判定されているようです。
設定値の詳細については公開されていないのですが、私の予想では「開封率が5%未満」の状態が「3か月以上続いている」あたりが怪しいのではないかと思っています。配信回数も関係しているのではないかと思いますが、それよりもやはり一回あたりの開封率の影響が大きそうです。
つまり、成果を最大化しようとエンゲージメントが薄いリストを作ってしまうと、以下のような流れが出来上がるのです。
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メールアドレスの量を追い求めたことが、かえってメルマガの成果を下げる原因になる。こんなことも起こりえるということを理解しましょう。
質の高いリストを作るためには
さて、前置きが非常に長くなりましたが、質の高いリストの作り方についてお話いたします。ポイントは3つです。
①登録導線
②開封モチベーション
③セグメンテーションとリエンゲージメント
それでは一つずつ解説いたします。
①登録導線
読者がメルマガを受け取るためにメールアドレスを登録する経路は様々ありますが、読者がその後に態度変容をする可能性が一番高いのはサービスサイト経由で登録された方々です。
自発的にOpt-inを行ってくれた読者はあなたのサービスへの興味度がとても高い人たちなのです。
サイト訪問者のメルマガ登録率を高めるためには、ホワイトペーパーなどのオプトインオファーを提示することも有効ですが、そもそもメルマガを登録することによってどのような情報提供がされるようになるのかを明示することが重要です。
②開封モチベーション
メルマガに登録した瞬間が読者の期待値が一番高まっている瞬間です。
その期待値をいかに持続させていくかが重要です。
メルマガの登録完了時に読者にメールを送っているかと思いますが、このメール(ウェルカムメールと言います)の平均的な開封率は60%を越えます。「登録完了しました」などという機械的なあいさつだけではなく、心のこもったメッセージにしたり、クーポンやホワイトペーパーなどの特典を付けることも有効です。
③セグメンテーションとリエンゲージメント
配信リストの中には様々な温度感を持った方が混在しているのにも関わらず、配信リストをひとまとめにして丸っとメールを配信しても成果には繋がりません。それどころか自分に関係がないメールが来たと認識され、購読解除する人が増えるのが関の山です。
配信リストはひとまとめにせず、読者の温度感に応じてセグメントを分けて配信するのが基本です。セグメントは細かく分ければ分けるほど成果に繋がりやすくなりますが、比例して作業ボリュームも増えて行きますので、現実的には顕在層と潜在層などで分類し、2~3つのセグメントで回すのが現実的でしょう。
このセグメントは流動的なものですので、例えばセグメントBで良く反応してくれる方はセグメントAに入れる、逆にセグメントAにいるけれども反応が全然ない人はセグメントBに入れるなどの振り分けを行うことで、より効果的なリスト運用が可能になります。
セグメントを行き来させるためのデジタルシグナルについては、開封ではなくクリックという、より能動的なシグナルを採用する方が良いでしょう。
長期間にわたって開封などの反応が全くない人はリエンゲージメントグループに隔離するようにしましょう。無反応者を隔離することで、各セグメントの不達率が改善されるので、迷惑メールと誤判定される可能性を下げることが出来ます。
隔離したこの方々を再度振り向かせるためのメールを「Win-backメール」というのですが、例えば「最近の検討具合はどうですか?」とか「久しぶりに買い物してみませんか?」と言ってクーポンを付けたりすることなどで、再びエンゲージメントできるよう活動をしていきましょう。
そして、どのセグメント、グループにいたとしてももう届く見込みのないHardBounceなメールアドレス、つまり存在しないメールアドレスは、リストから速やかに除外するようにしましょう。
「セグメント配信」「リエンゲージメントグループの活用」「HardBounceなメールアドレスの除外」、これら3つが質の高い配信リストを維持するための日常的な作業になります。
最後に
最初の方にも記載しましたが、メールマーケティングの成果を決めるのは「リストの質」 × 「タイミング」 × 「コンテンツ」の3要素です。
どんなに素晴らしいコンテンツであっても、読者が目にするタイミングにメールボックスに表示されていなければ開封されません。そのため、一通のメルマガにすべてを込めるのではなく、複数回に分けて配信することで読者の目に触れる確率を高めることが重要です。
ただし、これは読者が「情報を求めている人」であることが前提です。あなたのサービスに興味がない人に一方的に高頻度でメールを送り付けるのはそれこそ迷惑メールと変わりません。
また、一時は情報を求めていた人であっても、いつの日か情報が不要となる時がきます。その時のために購読を解除するための導線を分かりやすく提示することも重要です。
メールマーケティングで成果を出すためには、配信リストは「量」ではなく「質」を求めることが重要だということを理解いただければ幸いです。