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新憲法試案(第3章 基本的人権の保障)

第3章   基本的人権の保障
 

第1節 通則


 
第19条     国民は、すべての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として与えられたものである。
第20条     この憲法が国民に保障する基本的人権は、国民の不断の努力によって保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に他人の権利を尊重し、公共の利益のためにこれを利用する責任を負う。
第21条     (1)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(2)国は、人間の尊厳と価値を保障し、その人格の自由な発展を保護する義務を負う。
第22条     (1)国民の基本的人権は、憲法及び法律の規定に基づき、又は裁判所により正当に下された判決に基づく場合でなければ、これを制限することができない。
(2)基本的人権に対する制限は、憲法の基本原則を守るため、又は公共の利益、公の秩序、善良の風俗、他人の権利の尊重のため、民主的な社会において必要な最小限度の場合においてのみ行われるべきであって、国民の権利を不当に制限するようなことがあってはならない。
(3)この憲法のいかなる規定も、国、集団又は個人が、基本的人権を破壊し、もしくはこの憲法に定める制限の範囲を超えて制限することを認めるものと解釈してはならない。
(4)いかなる場合においても、基本的人権の本質的な内容を侵害してはならない。
第23条     (1)個人は家族を構成し、家族は地域社会を構成し、地域社会は地方自治体を構成し、地方自治体は国を構成し、国は国際社会を構成する。それぞれの構成員は、互いに自立し尊重し合う。構成員はすべて、共同体の一員として共生し、公共の利益のために責任を負う。
(2)すべて国民は、人間の尊厳が保障される民主的な社会に対して、その連帯を維持するために必要な義務を負う。
(3)この憲法が保障する基本的人権は、私人相互の関係にも適用されなければならない。
第24条     (1)父又は母が日本国民である者は、出生したときから日本国民となる。
(2)日本国籍の取得については、法律で定める。
第25条     国外に滞在する日本国民は、日本国政府の保護を受ける権利を有する。
第26条     日本国に滞在する外国人は、国際法、条約及び法律の定める基準に従い、基本的人権が保障される。
 

第2節 平等権


 
第27条     (1)すべて国民は、法の前に平等であって、人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(2)栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第28条   人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害に対して、差別、憎悪、脅迫、暴力又は侮辱を扇動する言動は、これを禁止する。
第29条   少数民族に属する者は、その伝統文化及び言語の保護を受け、多様性が尊重される権利を有する。
第30条   身体的又は精神的に障害のある者は、その尊厳が守られ、自立して社会参加することができるように、国及び社会の支援を受ける権利を有する。
 

第3節 精神的権利


 
第31条   思想及び良心の自由は、これを保障する。
第32条   (1)信教の自由は、これを保障する。
(2)すべて国民は、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
(3)いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
(4)国及びその機関は、いかなる宗教的活動もしてはならない。
(5)公の財産は、特定の宗教団体の使用又は行事のために支出してはならない。
第33条   (1)集会、デモ行進、結社、言論、出版、報道、放送その他一切の表現の自由は、これを保障する。
(2)検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない。
(3)すべての報道機関は、真実に基づいた公平な情報提供に努め、個人の名誉及び人権を尊重し、社会倫理を守る責任を有する。
(4)報道機関に対する不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作は、これを禁止する。
第34条   すべて国民は、自己の個人情報を守り、それを管理する権利を有する。
第35条   (1)学問の自由は、これを保障する。
(2)国は、文化遺産、景観、伝統文化、科学技術、知的財産、芸術及びスポーツを保護し、文化及び学術の発展を奨励する。
 

第4節 政治的権利


 
第36条   (1)公務員を選定し、罷免することは、国民固有の権利である。
(2)すべて国民は、法律の定める基準に従い、ひとしく公務につく権利を有する。
(3)すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。公務員は、公共の利益のために勤務し、国民に対して責任を負う。
第37条   (1)すべて公務員は、清廉と公正をもって、その職務を行わなければならない。
(2)総理、閣僚、国会議員及び裁判官は、法律の定めるところにより、その在任中、報酬のある他の職務に従事することができない。
(3)総理、閣僚、国会議員、裁判官及び法律に定めるその他の公務員は、その在任中毎年、活動の収支及び資産を国政監査院に報告しなければならない。
(4)公務員の職にありながら、贈収賄罪、選挙に関する犯罪及び法律に定めるその他の犯罪により刑に処せられた者は、その判決が確定した後10年間は、公務員となることができない。
第38条   (1)公選による公務員に対する普通、平等、自由、直接及び無記名選挙は、これを保障する。
(2)満18歳以上のすべての国民は、公務員の選挙及び国民投票において投票する権利を有し、義務を負う。
(3)満18歳以上70歳未満のすべての国民は、公選による公務員の被選挙権を有する。
(4)立候補における供託金制度は、禁止する。
(5)すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。
第39条   (1)国外に居住する日本国民は、法律の定める方法によって、選挙及び投票に参加する権利を有する。
(2)日本国政府により永住を許可された外国人で、満18歳以上の者は、法律の定める基準に従い、その居住する地方自治体の公務員の選挙及び住民投票に参加することができる。
第40条   すべて国民は、一人一人が主権者としての自覚を持って政治に参加し、意見の多様性を尊重し、互いに理解し合い、十分に話し合うことによって、健全な民主政治の発展に努めなければならない。
第41条   (1)すべて国民は、政治的意思の形成に参加するために、自由に政党を結成する権利を有する。
(2)政党活動の自由及び複数政党制は、保障される。
(3)国会に議席を有する政党は、法律の定めるところにより、その活動の収支及び資産を、毎年国政監査院に報告しなければならない。
(4)政党及びすべての団体は、憲法の基本原則を擁護しなければならない。
(5)団体の活動目的として、刑法律に違反する活動、又は憲法の基本原則を暴力によって破壊する活動を行った団体に対して、憲法裁判所は、その活動の停止、又は団体の解散を決定することができる。
第42条   すべて国民は、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、その請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第43条   すべて国民は、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第44条   (1)すべて国民は、国の機関又は公共団体に対して、法律の定めるところにより、その事務に関わる情報の公開を請求する権利を有する。
(2)前項の権利は、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがある場合にのみ、制限を受ける。

第5節 社会的権利


 
第45条     (1)家族は社会の自然的かつ基礎的な単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。
(2)結婚は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
(3)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚、結婚及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。
第46条     女性は、雇用、社会活動及びその他の分野において、男性と均等な機会及び待遇が確保され、妊娠、出産及び育児において、特別の保護を受ける権利を有する。
第47条     (1)子どもの生存、成長、安全及び参加に対する権利は、これを保障する。
(2)胎児の生命は、受胎したときから保護される。
第48条     (1)すべて高齢者は、健康を維持し、治療及び介護を受け、社会に参加し、尊厳を守られる権利を有する。
(2)すべて国民は、自分の親を敬い、高齢となった家族を介護しなければならない。
第49条     (1)すべて国民は、健康で文化的な生活を営む権利を有する。
(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(3)すべて国民は、国民皆保険制度に加入することによって、病気、けが、事故、老齢、障害、配偶者の死亡、失業、災害、貧困その他の生活困窮の場合に、必要な補助を受けることができる。
(4)すべて国民は、適切な住居に住む権利を有する。
第50条     (1)すべて国民は、安全で快適な環境を享受する権利を有する。
(2)国の全ての機関、国民及び事業者は、安全で快適な環境の保全に努める義務を負う。
(3)森林、湖沼、河川、海岸、野生動植物、その他の天然資源及び自然環境は、法律の定めるところにより、国の保護を受ける。
第51条     (1)すべて国民は、その適性に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
(2)すべて国民は、自分の子どもを保護し教育する権利を有し、その義務を負う。
(3)公立の学校教育は、満6歳から満18歳に至るまで無償とする。
(4)大学及び私立学校に通う学生は、法律の定める基準に従い、学費の補助を受けることができる。
(5)国及び地方自治体は、満5歳以下の子どもに対する教育及び保育のための施設を整備する。
(6)国は、生涯学習の振興に努める。
第52条     (1)教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な日本及び国際社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の尊厳を重んじ、勤労と社会責任を尊び、自主的精神に充ちた、心身ともに健康な人間の育成を目的として行われる。
(2)すべての学校は、各自の教育方針を定め、教師、学生及びその保護者が協力し合って自治的に運営することができる。
(3)国は、各学校の教育内容に対して、不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作をしてはならない。
第53条     (1)すべて国民は、労働の権利を有し、義務を負う。
(2)賃金、就業時間、休息、有給休暇その他の労働条件に関する基準は、法律で定める。
(3)児童を酷使してはならない。
第54条   (1)労働者の団結する権利、団体交渉をする権利及び同盟罷業その他の争議行為によって団体行動をする権利は、これを保障する。
(2)前項の権利は、一般公務員にも保障される。但し、警察官、自衛官及び法律の定めるその他の公務員は、この権利について一部制限を受ける。
 

第6節 経済的権利


 
第55条   (1)すべて国民は、公共の利益に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
(2)外国に移住し、又は国籍を離脱する自由は、これを保障する。
第56条   (1)財産権は、これを保障する。
(2)財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律で定める。
(3)私有財産は、相当な補償の下に、公共のために用いることができる。
第57条   消費者の安全、情報入手、選択機会及び被害救済に関する権利は、これを保障する。
第58条   国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
 

第7節 身体的権利


 
第59条   すべて国民は、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第60条   すべて国民は、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
第61条   (1)すべて国民は、裁判所において公平で迅速な裁判を受ける権利を有する。
(2)裁判にかかる費用は、国から補助を受けることができる。
第62条   すべて国民は、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第63条   (1)すべて国民は、理由を直ちに告げられ、かつ直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。
(2)すべて国民は、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
(3)警察署に設置する留置場は、刑事施設として代用することができない。
第64条   (1)すべて国民は、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を有する。
(2)前項の権利は、現行犯として逮捕される場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
(3)捜索又は押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により行う。
第65条   拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。
第66条   (1)すべて刑事事件においては、被告人は、公平で迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
(2)刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
(3)刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自ら依頼することができないときは、国でこれを附する。
第67条   (1)すべて国民は、自己に不利益な供述を強要されない。
(2)強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
(3)すべて国民は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第68条   すべて国民は、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。
第69条   すべて国民は、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
第70条   他人の犯罪行為によって生命若しくは身体の被害を受けた者、又はその遺族は、法律の定めるところにより、国の救済を受けることができる。


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