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Mr.Bungleと私
2024年2月28日、Mr.Bungle初来日。
Mr.Bungleとの出会いは衝撃的なものであった。
まだ10代の頃、今はなき大手CDショップにてアルバイトをしていた私に、仲の良かった上司が貸してくれたアルバムがMr.Bungleの1stアルバムであった。
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1991年リリースの邦題「オペラ座の変人」である。
一応紹介しておくと、Mr.BungleとはFaith No Moreのご存じマイク・パットン御大が高校生の時(1985年頃)に結成したバンドである。そもそもマイク・パットンが既に売れ始めていたFaith No Moreにメインボーカルとして加入したのはMr.Bungleを売るためであり、彼の「核」となるプロジェクトと言って差し支えない。
結成当時はどうでもいい感じのメタルバンドだったらしいが、1stアルバムリリースに至るまでに謎の変態覆面アヴァンギャルド・バンドへと変化。ホーン・セクションやオルガンを入れ限りなくデスメタル寄りのザッパ、みたいな様相と化した。
音楽性も作品ごとにおかしな変貌を遂げ、メンバーも出たり入ったりとつかみ所がない。ちなみにあるあるですがこういうバンドに限って全員演奏クソうまい。
さて1stアルバム「Mr.Bungle」である。
音楽性を割合で表すと「メタル:5/ファンク:2/コラージュ:2/サーカス:1」。地味にジョン・ゾーンプロデュース。
1曲目「Quote Unquote」は冒頭数十秒が無音であり、おかしいなと思って音量を上げたところに急にガラスの割れた音と共に爆音でイントロが始まるという嫌がらせが仕掛けられており、当然初見で私は耳を潰した。Mr.Bungleファンのあるあるネタである。
(さらに言えば私が初めて聴いた時は曲名が「Travolta」だった筈だが、どうやら訴えられそうになり変更したとのこと)。
それまでにもアヴァンギャルドなバンドはいくらでもいたが、「前衛」を小難しい文脈を使用することなく、「ほ~ら変態だよ~(チャックを下げながら)」「ウンコ投げちゃおっかなあ~(注:本当に投げたこともあります)」みたいなわかりやすい変態性が素晴らしい。
私は凄まじい衝撃を受け、その後まともな音楽人生を送れないきっかけとなったのである。
Mr.Bungleはその後2枚のアルバムを出し、2004年に解散。ついでにその2作も紹介しておこう。
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1995年の2ndアルバム「Disco Volante」。
1stアルバムからたった4年でアホみたいにハイレベルな音楽性に進化。割合でみると「フリージャズ:3/宗教音楽:2/コラージュ:2/オペラ:1/電子音楽:1/メタル:1」みたいなよくわからないバランスに。
モリコーネやピエール・アンリをスラッシュ・メタルに落とし込んだ上でフリージャズに変換、若者特有の軽薄さが完全に消失し、一気に高尚なものに昇華した感があるが、やはりトレンチコートの下は全裸な名盤。
っていうかジャケットのセンス凄くないですか。
その後Faith No Moreが解散し、少し経った1999年に3rdアルバム「California」をリリース。
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せっかく前作で成熟したアヴァンギャルドをかなぐり捨て、音楽性は「サーフロック:6/民族音楽:2/メタル:2」というさらに謎の割合に。タイトルの如くカリフォルニアそのもの、ビーチ・ボーイズ的な軽い西海岸ロックをアロハシャツで演奏するというスタイルに急変し、メタルフェスにてめちゃくちゃスベることとなる。
横道ではあるが、マイク・パットンはRed Hot Chili Peppersと長年の確執があり、Faith No More時代にアンソニー・キーディスと発声法やクネクネした歌い方が似ているとか言われたせいで仲が悪かったのだが、本作「California」とレッチリの「Californication」が同日リリースとなるというレーベルの悪手によりさらに確執が激化、レッチリが出演予定のフェスからMr.Bungleが一方的にキャンセルにされたり、その報復としてレッチリを思いっきり馬鹿にしたカバーライブを行ったりと場外乱闘も有名。まあそれぞれインタビューでも「クソ!」「死ね!」みたいなバカみたいな罵倒合戦を繰り広げており、どっちもどっちである。
Mr.Bungleはバリエーションに富みすぎた上記3作を残してダラッと解散。伝説という程ではないけれどカルト的なファンを残す。
マイク・パットンだけで言えば、その後Fantomasや再結成したFaith No Moreなどで来日、定期的にお顔は拝めた。しかしMr.Bungleに関しては、まあ黒歴史化しているのかしらん、などと思い、既に誰も期待はしていなかった。
…と思っていた2019年、まさかの再結成のニュース。そして1986年のデモテープ「The Raging Wrath of the Easter Bunny」を新しい布陣で再録した4thアルバムがリリースされた。
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本作を聴いた、15年以上心待ちにしていた世界中のMr.Bungleファンはこう突っ込んだ。
「ただのスラッシュ・メタルじゃねえか!!」
そう、音楽性は「スラッシュ・メタル:10/他:0」である。それもそのはず、本作は結成初期のデモテープの再録である。つまり楽曲は、冒頭に述べたように「どうでもいい感じのメタル」なのである。
しかし再結成後のメンバーを見てほしい。マイク・パットン及び初期メン2人に加え、ギターにスコット・イアン(ANTHRAX)、ドラムにデイヴ・ロンバード(SLAYER)が加入。本気の人選である。スラッシュ四天王の1/2がいるのである。S.O.D.のカバー「Speak Spanish Or Die」とか垂涎ものである。
あまりに良質すぎるスラッシュ・メタルは今までのアヴァンギャルド・スタイルは何だったんだ、まあ格好いいからいいか、というファンの急激な心境の変化を舵取りした。
そして今年、とうとう初来日。「なぜ今??」という突っ込みはさておき、
私はチケットをゲット、十字を切りながら豊洲PITに向かうのであった。
結果は予想通りであった。
怒涛のように繰り出されるスラッシュ・メタルに飽き始めた私はハイボールを煽りまくっていたものの、まさかの1stアルバムからの唯一の楽曲「My Ass Is on Fire」が演奏された途端タガが外れ、豊洲にいたのに気がついたら相模大野にワープ、終電をなくし、あんなに楽しかったのに夜中に快活クラブでカレーを2杯食らうはめになったのであった。