「常識」を無理やり破壊して新しいアイデアを発想する方法
先日「属人的なナレッジを組織としての強みに変える方法」というnoteを書いたのですが、その続きの様な形で、世界的なサービスデザイナーの濱口 秀司さんの著書を読みながら、その考え方、手法を身に付けられるようアウトプットをしていきます。
今回は濱口さんが「SHIFT:イノベーションの作法」で紹介されていた「バイアス(常識、思い込み)を強制的に破壊し、斬新なアイデアを生み出す方法」を実際に友人とワークショップ形式で試してみたので、そのやり方とアウトプットをご紹介しながら、濱口さんが提唱する手法の効果を検証してみたいと思います。
一応こちらのnoteにも濱口さんの略歴を↓
濱口 秀司(はまぐち ひでし)
京都大学卒業後、松下電工(現パナソニッック)に入社。全社戦略投資案件の意思決定分析担当となる。1998 年から米国のデザインイノベーションファームZibaに参画。世界初のUSBメモリはじめ数々の画期的なコンセプトづ くりをリード。パナソニック電工新事業企画部長、 パナソニック電工米国研究所上席副社長、米国ソフ トウェアベンチャーのCOOを歴任。2009年に戦略ディレクターとしてZibaにリジョイン。2013年、 Zibaのエグゼクティブフェローを務めながら、自身の実験会社「monogoto」をポートランドに立ち 上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動 を行っている。ドイツRedDotデザイン賞審査員。イノベーション・シンキング(変革的思考法)の世界的第一人者。
出展:https://bizzine.jp/person/detail/31/
糸井重里さんとの対談がめちゃくちゃ面白いです。
https://www.1101.com/hamaguchihideshi/2017-11-22.html
濱口さんが提唱しているアイデア発想法
濱口さんの著書「SHIFT:イノベーションの作法」の中で「いかに常識に囚われない革新的なアイデアを生み出すか?」について方法論を紹介しています。すごく大雑把ですが概要はこんな感じ。
▼前提
私たちは常に「バイアス(常識、思い込み)」に思考、アイデアを制限されている。
例えば、今コロナの騒動で一気にリモートワークが浸透しているが、これまで「会社に行かないで仕事なんてできるわけがない!」と考えていた人たちの多くが「あれ?会社行かなくても大丈夫っぽいな…?」と気づいている筈。(やっぱ行かないとダメだな…!の場合もあり)
「仕事=オフィスに行ってするもの」
というバイアスが外れたいま、新しい働き方に対する大きな可能性が広がっている。
▼バイアスの壊し方
①解決したい問題、対象に関する「思い込み、常識」を書き出す
→濱口さんはこのステップを図(ダイアグラム)にする事で視覚化していたが、これは難易度がかなり高く今の私には出来ないので別の方法を試します。
②「①」で書き出した常識を「ひっくり返して」その常識が無かったら何ができるか?を考えていく
③「②」で考えた「常識を壊したアイデア」を実現性、市場(ニーズ)、企業のビジョンなどと照らし合わせながら実行可能なものに落とし込んでいく
▼この方法論の効果
前提で書いた通り私たちの思考は「無意識に存在する思い込み」にガチガチに縛られている。その縛りを「強制的に解除」する事で、既存の枠組みを越えた新しいアイデアを生み出すことを可能にする。
こんな事を書かれても良く分からないと思うので、ここからは友人と実際にやってみたワークショップを例にこの発想法の流れをご紹介します。
今回のワークショップのテーマは「VR」
2016年に「VR元年」なんて言われて注目されてから早4年。エロと一部のゲーマー以外に普及する様子の無いVRは既にオワコンなんでしょうか?
濱口さんの手法を使いながら「VRの新しい可能性」について探ってみます。今回は特にCGよりも制約の多い「実写VR(撮影した映像を使ったVR)」に着目してワークショップを行ってみました。
以下、ワークショップの流れは「SHIFT:イノベーションの作法」に記載されている内容を咀嚼して、自分なりに「実践できる形」に落とし込んだものです。
①解決したい問題、対象に関する「常識」を書き出す
まずは10分間と時間を区切って「実写VRの常識=思い込み」をポストイットに書いていきます。上の写真はそのポストイットをまとめた1つのグループです。
続いて「このグループが何に関する常識なのか?」を分かりやすくする為、青字で共通する内容を書いてみました。
VRの実写は「動く」に向いていない
これがこのグループに共通する常識です。VR空間で移動が行われると、体が動いていないのに視覚情報だけ動いている状態になり脳が混乱してVR酔いが発生してしまう問題についでです。
②「①」で書き出した常識を「ひっくり返して」その常識が無かったら何ができるか?を考えていく
『VRの実写は「動く」に向いていない』という常識をひっくり返して
もしVR空間で自由に動けたら?
という「アイデア発想のお題」を赤字で書き出します。これはあくまでも常識に縛られないアイデアを出す為の「お題」なので、この時点で現実可能なのか?を考慮する必要はありません。そのステップは後回し。
※経験値が増えれば増えるほど「新しいアイデアに対する現実的なダメだしが早く、的確」になりますが、それが斬新なアイデアを生み出すことの障害にもなってしまいます。
①②のステップを各常識グループで行い、アイデア出していきます。わざわざ小田原に遊びに来てくれて、私の趣味に付き合ってくれた友人に感謝。
(※こちらはコロナ騒動の前にやったワークショップです)
「もしVR空間で自由に動けたら?」というお題で何が出来るかを考えていきます。例えば10秒の移動シーンがあったとして、1秒間に30フレームの動画の場合、300枚の静止画が連続的に表示される事で人間には「10秒間の動画」として知覚されます。この移動する動画をVRゴーグルをつけて体験すると「VR酔い」が発生します。
いろいろと話しながら考えていくと、例えば「1秒間に1フレームだったら酔うのか?」という疑問が出てきました。また、仮に「1秒間に1フレームだったら酔わない」場合、そのスライドショー的な移動を使ってどんな体験が生み出せるのか?が新しいコンテンツのアイデアの種になります。
こんな流れでいろいろな「常識」をひっくり返しながらアイデアを考えていきます。
実写VRが主観じゃなかったら?
→ 「VRゴーグルをつける=主観的な映像体験」になるが、その枠を壊して主観と客観を行き来するような体験が作れないか?
VR映像が安いコストで作れたら?
→ 高精細なVR動画を撮影するには、それ相応に高価な機材、スタッフが必要になるが、それが解決できれば「マス」に向けたコンテンツではなく「あなた」に向けたコンテンツが作れるようになる。
○○○が日本だけでなく世界をターゲットにビジネスをしたら?
→ VRをあくまでも「一つのチャンネル」にしたインバウンドビジネスができる?
※○○○は友人が所属する会社で勝手に名前を出して良いのか分からないので一応伏せてあります。
こんなふうに「常識 → もしそれが無かったら?」を出発点として新しいVRコンテンツ、ビジネスのアイデアを考えていきました。
本来ならこの手法を使って一度「常識を壊したアイデア」を考えた後、それを徐々に実現可能なアイデアに近づけていく、アイデアを絞っていく工程が必要になるのですが、そこまでやるのはかなり難易度が上がるのでこの日はここまで。
実際に濱口さんの発想法を試してみて
まず率直な感想として、2人だけでやったにも関わらず非常に面白いワークショップになりました。自分達を縛っている「常識」を可視化して、それを無理やり外す事で、普段考えられていない領域に対して脳がフル回転していくのが実感できます。
デザイン思考では「観察」から解くべき問題を設定しますが、その問題を「どう解くのか?」についてはあまり言及されていません。濱口さんの方法論は非常に実践的で扱いやすく、デザイン思考がカバーしきれていない領域を強く補完してくれる手法だと感じました。
「人間の特性=無意識に様々な常識に縛られている」ことを前提に、メタ視点でその解決策をフレームワークとして用意しておく、ってとても面白い試みですよね。脳の習性をハックするような感じ。
Withコロナとか、Afterコロナなんて言われ、本当に「明日どうなるか?」が分からない日々が続いていますが、今回試してみた手法は現在のような「今までの常識が通用しない世界」においてもとても有用そうだな、と感じています。社会やビジネスの課題だけでなく、自分自身の課題整理&解決策を考える時にも使えそうですね。
皆さまも「どうもありきたりなアイデアしか出ないな…。」とお悩みな時は是非試してみてください。