過疎地における農地維持と働く場づくりをする収穫代行のしごとを紹介
地域おこし協力隊の活動として5〜7月の約2ヶ月半ほどの期間、地域の農産物収穫代行団体の支援をしています。遊休農地の活用や地域の働く場づくりに繋がる取り組みであり、高齢化と耕作放棄地の増加が進む中山間地域での取り組みのひとつといえます。
気候や地形その他地域性により収穫物や活動期間などは異なるでしょうが、日本の多くの過疎地ではおそらくこういった取り組みが行われているのではないでしょうか。
今回は活動に取り組む中で感じている良い面や課題などについて、収穫作物や活動内容と共に紹介します。
活動のメンバーは10人程度。メンバーはすでに一度定年された方、子育て世代で兼業をされている方などが中心で、勤務は各自の都合に可能な限り合わせており、ほぼ全日程に参加される方や数日のみの参加の方もいらっしゃいます。
主な収穫物はフキと朴葉(いずれも下の写真参照)であり、私たちが取り組んでいる収穫代行とは、地域の遊休農地の活用のため地区会が栽培したフキの収穫と下処理、および地域内の住民がそれぞれの所有地で育てているホオノキの朴葉(ホオバ)の収穫と下処理を行う業務です。
収穫して下処理をしたこれらの作物は、同じ地域内の総菜・弁当・加工品を製造・販売する企業さんへ買い取ってもらう仕組みとなっています。
「フキ」キク科の多年草。春の味覚「ふきのとう」はこの植物の花。葉茎、葉いずれも食用になりますが、現在は葉茎のみを使用しています。
名前には諸説あるが柔らかく大きな葉が尻拭きに使われたからとか・・・(食べ物の話なのにすいません・・・笑)
まだ雪が残る初春に芽吹く「ふきのとう」は花茎といい、上記の大きな葉が付く葉茎とは異なります。
フキは平地に比べて日射量が少ない中山間地域の水田でよく育ち、一度植えてしまえば比較的手間が少ない植物。そのため数年前から地域で農地を持て余している方の休耕地を使って、地域ぐるみでフキの栽培を始めたそうです。
ただし栽培の手間自体はかなり少ないものの、鎌で屈みながら手作業で収穫し、葉を落として使用する茎を束ねていく作業と、収穫したフキを水洗いし下茹でしてアク抜きする作業はなかなかに負担があります。
出荷されたフキは伽羅蕗(きゃらぶき)や煮付けといった商品へ加工され、弁当の具材や真空パック製品として販売されています。
「朴葉」モクレン科の落葉高木「ホオノキ」の葉。つややかな緑が水を弾く
円周上に大きな葉が毎年付きます
こちらはホオノキから取れる朴葉(ほおば)です。朴葉は岐阜県中央部の奥美濃や北部の飛騨地方で古くから料理に使われており、現在では郷土料理である朴葉ずしに多く利用されます。また、落葉した枯れ朴葉の上に飛騨牛と野菜を味噌に絡めたものを乗せて焼き、朴葉の香ばしい香りをつけて食べる「朴葉味噌焼き」もこれらの地域の旅館や飲食店で人気です。
緑の朴葉で散らしを包んだ朴葉ずし(食べる寸前ですが・・)
手前味噌ですが、試しに自作してみた朴葉味噌焼き。枯れた朴葉を塩茹で・乾燥して保存。使う前に一度水を染み込ませる事で焼く時に葉が燃えなくなり、芳醇な香りが食べ物に移ります。
葉は大きく、芳香性と殺菌作用のある成分を含んでいる(実際、論文としても有効成分についての研究が発表されている)ため、古くから米や餅を包んだり食事の際の皿の代わりとして使われてきました。岐阜県の奥美濃や飛騨地域の食文化と密接に関わってきた植物です。そのため地域の多くの家庭には自家製の朴葉ずしを作るために敷地に1、2本のホオノキが生えていることが多いです。
ただし現在は全く使わない家庭やわずかな量しか使わない家庭がほとんどです。また、家主が都市部になって空き家となっている場合は完全に資源が余っている状態です。これを収穫代行で各家を回って収穫します。収穫した朴葉は水洗いし下茹でしたあと減圧して冷凍保存し年中使用できるように加工します。
こちらもフキ同様なかなかに体力を使う仕事です。ですが、同時に余っていくだけの作物を商品として地域の経済活動に組み込むことができます。
どちらの作物も基本的に収益は収穫者と栽培者で分けています。収穫代行者は農地管理や栽培の手間を省け、自分の都合のつく範囲で労働をすることができます。一方、体力的・居住地またはその他の事情により所有者で収穫が困難になった作物を活用できるのは利点だと思います。
また、経済性以外の良さとして、仕事を通じて地域内での交流が生まれることも挙げられます。休憩中にみなさんが楽しそうに会話を弾ませているのはとてもいいことだと思います。
ではこの取り組みが上手く行っているのかというとやはりそんなうまい話ばかりではありません。やはり収穫量に対して売り上げが支払われる以上、作業時間に対しての給与はかなり低い水準となってしまいます。
これを上げるためには、最終的な加工品の価格を上げることや現在一箇所だけの売り先を他に増やす、あるいは自主的な販売をなどが考えられますが、加工品価格は収穫側ではどうにもなりませんし、売り先を増やす場合は収穫量を増やす必要がありますが、すぐには圃場を増やせません。
しかし、地域として農地を維持し、遊休資源を活用し、製品を作っていく取り組み自体は大切だと思います。現状すぐに解決の糸口は見出せませんが、私自身も少しずつ圃場の拡大や高付加価値化を目指して取り組んでいきたいと思います。
このような課題と取り組みは日本中のほとんどの中山間地域でも起こっていることだと思いますので、情報共有しました。何かの参考になれば幸いです。
また、郡上を初めて岐阜県の山間部へおこしの際は、ぜひ山の香りを感じるきゃらぶきと大きな朴葉に包まれた朴葉ずしをお試しください。