「かがみの孤城」という居場所
はじめに
これから、これまで読んできた本の中で一番大好きな、『かがみの孤城』の読書感想文を書きます。
私は『かがみの孤城』という小説そのものが読んでいる読者にとっての『孤城』であり、『居場所』であると感じました。
転じて、小説とはページを開いた瞬間に読者それぞれの居場所になるのではないでしょうか。
簡単なあらすじ
気になるあらすじはこちらです。(引用元:ポプラ社様 https://www.poplar.co.jp/pr/kagami/)
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
あらすじに書いてある引きこもり7人の印象を簡単に紹介します。
アキ:自由人。協調性皆無。非行に走りそうになったり、周りに迷惑をかけることが多い彼女は、常に自分を必要としてくれる居場所を探している。
スバル:没個性(一番悩みました・・・)誰とでも仲良く、聞き分けのいい彼は非常にいい子ですが、あまり記憶に残らなかった。
こころ:繊細。臆病。人一倍優しく、相手のことを思いやることができる子。その反面、考えなくてもいいことで相当悩む。
リオン:クール。大人びている。クールな性格は周りからはかっこよく見えるけど、どこか無理をしている気がする。
マサムネ:かっこつけ。虚勢。周りから注目されるために虚言を言い続けてオオカミ少年になった彼は、常に周りからの承認欲求を求めている。
フウカ:生真面目。ひねくれ者。誰かに甘えることが苦手で、本当は人に優しくされたい。ピアノの秀才として育てられ、重圧に嫌気がさした。
ウレシノ:惚れ性。天然。人に優しくされるとすぐに惚れる。根は優しく、純粋なのでどこか憎めないキャラクター。
以上です。
こうして見ると、それぞれの性格が見事に分かれていて面白いです。
和、協調性の欠点
和を以って尊しとなしてきた我々日本人ですが、ここにきて多様性の重要性が謳われています。「相手の考えを尊重しよう」とは口では言いますが、現在も多くのシーンでは「多数決」「弱肉強食」「出る杭は打たれる」の理論がでかい顔をしています。
「多数決の少数」「弱肉強食の敗者」「出る杭」の彼らは、学校ではいじめの標的。社会においては腫れ物、浮いた存在として扱われます。
どこに行っても重宝されるのは、その場の空気に上手に合わせて、立ち回れる器用な人です。今後も不変であり、このタイプの人々が世界を回してくれているのが事実なので感謝しかありません。
やめる勇気と演じる辛さ
問題は腫れ物として扱われてしまう方です。本書では、7人の不登校児です。
現代では、社会・グループにうまく馴染めない人は大きく分けて2つの方法で自分の身を守っているのではないかと思います。
1つは「何かをやめる、行かない」ことで自分を防衛する人。もう一つは、「何かを演じて生きる」ことで防衛する人。2つを比較すると圧倒的に後者の方が辛いと思います。辛いのに、多くの人は後者なのではないでしょうか。何かをやめることはエネルギーが必要で、相当勇気がいる行為だからです。
本書では、7人はそれぞれ「学校へ行かない」ことを選択しました。大抵は学校をやめることでコミュニティから外れてしまい、どんどん孤立してしまいますが、彼らには「孤城」がありました。
孤城ルール3箇条
ここで、ルールのおさらいです。
本書に出てくる「孤城」では、以下のルールが存在します。
1. 5月から3月までの間、自室の鏡を使って自由に城にこれる※門限はある
2. 城の奥に一人しか入れない”願いの部屋”があり、最初に鍵を見つけた人しか入れない
3. 城に来ることも、鍵を探すことも参加者の自由。決して強制はされない。
大まかには以上です。
私は3つ目のルールの存在が大きいと感じます。
現実では出社も登校も強制されていき、欠席すれば「皆勤賞を逃す」、「周りから白い目で見られる」といったデメリットが生じます。
「かがみの孤城」ではどうでしょうか。
ルールはもちろん、7人の参加者は他のメンバーがしばらくこなかったとしても、咎めることはあまりしません。久しぶりに来た子に対して、温かい言葉を投げかけてあげています。
「一人になりたい時は自分の部屋で過ごし、つながりたい時にいつでも歓迎してくれるちょうどいい関係」を築きあげたことが、7人が足繁く孤城に通った理由なのではないかと思います。
本書のようなちょうどいい距離感の関係性を築きやすく、やめたくなったらいつでもやめられるような環境の構築が、息のしやすい社会なのではないでしょうか。
最後に
人間関係で悩んでいる貴方へ。
やりたくないことはやめてもいい。ただ、やめることや環境を変えることは怖くて、勇気が出ずに仕方なく続けてしまう人が多いのも現実です。
すぐにやめることができない人は、学校や職場にいる時にリラックスできる趣味や場所を一つ見つけて、熱中してみてください。
学校や職場でリラックスする趣味や場所がない人は、読書に熱中することをおすすめします。
読書は本さえあればいつでもあなたを別世界へ連れ出してくれます。ゲームや漫画よりも、場所を選ばずに楽しめること本という媒体の良さではないでしょうか。
また、読んだ内容はあなたの頭の中に蓄積されて、見識が広がり、知識という財産も必ず与えてくれます。
そして、読みたくなくなったらすぐにやめられます。しかも、栞のページからいつでも再開することができます。
そう、この3つの特徴は孤城そのものです!
小説は、孤城なのです。
夢中になれる本とは、自分に似ている主人公や、趣味が登場するものだと思います。
そんな自分の写鏡を通して、我々を好きな孤城(物語の世界)に連れて行ってくれるから、私は読書が大好きです。
今、読んでくれている貴方にとって、お気に入りの孤城が見つかることを願っています。
そして、同じ孤城を好きな方々と感想を語り合ってみてください。きっと、貴方の支えとなるような繋がりが生まれるはずです。
もし語る相手がいないのなら、私に熱く語ってくださいね。
…と、そんな優しい気持ちにさせてくれた『かがみの孤城』おすすめです!漫画版もあるので、活字が苦手な人も読んでみてください!
かがみの孤城は、いつでも貴方をお待ちしております。