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自治体職員必須知識 その2:高齢者医療保険→介護保険→ケアラー支援の流れを押さえよう

日本の一般歳出67.4兆円(2022年度)のうち、約54%を占めるのが社会保障関係費だ。公共事業費(9.0%)や防衛費(8.0%)を大きく超えて最大の支出領域である。
その社会保障費の増大が現在の日本の大問題の一つである。急激に進む高齢化によって医療費・介護費の額がとんでもない額になっている。

給付費としての社会保険料は2022年度予算ベースで131.1兆円であるが、実は2000年度は78.4兆円だった。22年で1.67倍になったのだ。なお、このままいくとによれば2040年には190兆円(!)になるらしい(厚生労働省試算)。日本は社会保険料の負担で国家財政破綻を起こすのではないかと心配になる数字である。(財政学的には破綻する可能性はかなり低いらしいが…)

もちろん国としても何もしてなかったわけではない。2000年に当時問題になっていた『社会的入院』(=家族親族で面倒見れない高齢者を病気でもないのに入院させておく問題)の対策として、介護保険制度を導入した。これによって、一定数の高齢者が病院から介護施設に移り医療費が減少する。介護施設は民間企業の市場競争原理でより安く適切な介護が提供され、結果として社会保障費の拡大を抑制できると期待された。

実際これがどの程度抑制として働いたかの資料は見つからなかったが、数字を見る限りあまり効果が上がっているようには見えない。
いっぽう、全ての要介護者(障害者等を含む)に手厚い介護支援が行われているわけではない。多くの世帯では家族が介護を行っているのが現状だ。実際に日本の介護者の7割は家族が担っていると言われている。これがいわゆる『ケアラー問題』だ。

ケアラー問題は実は放っておくと個人の自由と幸せが大きく損なわれるだけでなく、国家の経済に悪影響を与える大問題だ。
一般にケアラー問題はヤングケアラー若者ケアラーワーキングケアラーの3種に大別される。

ヤングケアラー:18歳未満の子どものケアラーを指す。彼らを支援しないと、心身への過剰な負担・学習機会の喪失・学力の低下・進学機会の喪失などが発生し、結果として貧困のループを発生させる可能性が高い。
若者ケアラー:18歳以上30歳代のケアラーを指し、進学や就職、キャリア形成、人生設計などに悪影響を及ぼし、貧困のループ発生や出生率の低下につながる可能性が高いと考えられている。
ワーキングケアラー:働きながら家族親族の介護を行っている人を指す。一部は若者ケアラーと重なっているが、特に50代から60代を指して使われることが多い。働き盛りの彼らが介護のために離職を選択することが多く、結果として生産労働人口の減少につながり、経済的な損失を生んでいると言われている。

生産労働人口が減少している中、これでは泣きっ面に蜂である。にもかかわらず日本にはケアラーを保護する法律がいまだない。
これに対して、問題意識の高い自治体が始めたのはケアラー支援活動の実施とそれを制度として支えるためのケアラー支援条例の制定だ。
全国で初めてケアラー支援条例を制定したのは埼玉県(令和2年3月31日公布/施行)で、埼玉県議会議員の吉良英敏氏が中心となって作り上げている。
彼は(一社)幸手青年会議所の歴代理事長であり、私は2013年当時市民討議会の開催をちょっとだけお手伝いしたことがある。地方議員でありながら国家レベルの政策を常に見据えて行動しているたいへん優秀な人物である。
彼の熱心な啓発活動もあり、全国の自治体が次々にケアラー支援条例制定に動いている。多分この動きはさらに広がっていき、最終的にはケアラー支援法につながっていくだろうと考えられる。

社会保険費の抑制をどうするかは何かと議論されるが、未来を見据えてこのケアラー支援も真剣に考えないと地方の経済は深刻な人材不足からガタガタになる可能性が高い。今後より多くの自治体がこの『ケアラー問題』に目を向け、支援に乗り出すことを大いに期待したい。

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