
紅茶と猫のいる風景。
体毛は鮮やかな白と茶色が薄っすら混ざっているせいで、触らなくてもスベスベしているのがわかる。私の足元のそれはふわりとくるぶしに寄りかかり、呼吸に合わせてゆっくりと持ち上がり、ゆっくりと静かに沈んでいく。
ルイボスが我が家にやって来たのは今から18年前。私が生まれた次の年。一緒に育ったけれど彼はあまり大きくならず、それでも顔つきだけはあっという間に私を追い越し、凛々しく、ステキな気品のある大人の猫になった。
彼は母の猫だった。母が帰ってくるとルイボスは玄関へ走った。母がトイレに入ると、扉の前でじっと待った。母の入浴中は風呂桶のお湯で舌鼓。就寝は母のお腹の上と決まっていた。
母ががんを患ったのも今から18年前。私が生まれた次の年。がんにはルイボスティーが効くらしいと父がどこからか噂を耳にして、子猫はルイボスと命名された。そして、その日から朝の食卓にルイボスティーが並んだ。朝、母の朝食には、こんがりとまではいかない6枚切りのトーストと、バター、ゆでたまご、10分煮出したルイボスティー、それと足元にじゃれつくルイボスがセットでついた。闘病中の母の紅茶と猫のいる風景。それは父の優しさだった。毎朝、父は母の為にルイボスティーを煮出し、トーストを焼き、たまごををゆで、ルイボスにご飯をあげる。母はゆっくりとティーカップに手を伸ばし、足元で転がるルイボスを見下ろしては、微笑む。父の作り出した風景は、母を、そして私を救った。
あれから18年、母が亡くなった今でも、朝食には、こんがりとまではいかない6枚切りのトーストと、バター、ゆでたまご、ルイボスティー、それと大人になり、戯れることの少なくなったルイボスが私の足元でそっと横になる。父の優しさはまだ続いている。紅茶と猫のいる風景。ゆるやかな日差しが柔らかいルイボスのお腹に注ぐ。お腹はゆっくりと持ち上がり、ゆっくりと静かに沈んでいく。ルイボスティーの香りをわずかに絡ませながら。
#紅茶のある風景 #愛猫に捧ぐ
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