『アはアーケードのア』 第9回『ゲイングランド』(1988年セガ)
傑作『ゲイングランド』3つの特徴
『ゲイングランド』は俯瞰視点の固定画面ゲームです。さまざまな性能を持つ20人のキャラクター(3人からスタートし、捕虜を奪還することで増えていく)を使いわけて、画面に配置された敵、もしくは途中から出現する敵をせん滅していきます。
『ゲイングランド』第一の特徴として、当時にして20人ものキャラクターが登場することが挙げられます。なかには一見すると性能の差異がかなり小さく見えるキャラクターもいます。でも、やり込んでいくとその緻密なゲーム性においては、この小さな差異が大きく影響してくることがわかってきます。
第二の特徴として、その世界には高さの概念があり、城塞や陸橋のような高い位置から攻撃してくる敵もいます。プレイヤー側は一部のキャラクターが弓矢や手榴弾など高所を攻撃できる武器を持っており、これで対抗します。
1988年の作品ですから、3DCGでも立体視でもない疑似3Dでしたし、平均的技量のプレイヤーにとって、この高さの概念を把握するのは簡単とはいえなかったと思います。『ゲイングランド』はマニアックなゲームでした。
第三の特徴として、敵の挙動も挙げられると思います。敵はプレイヤーの座標などを見て、挙動のモードを明確に切り替えます。本当にいきなりスイッチが入ったかのように行動を開始する。そこには、つくり手が明確な意図を持って“デジタル”な思考にしたことが見て取れます。
さまざまな時代の仮想体験施設を舞台に、暴走するロボットを制圧するというバックストーリーは、おそらく映画『ウェストワールド』が元ネタではないかと思います。単にストーリー設定がそうだというだけでなく、敵の規則的で冷たく淡々とした動きもまた同映画を彷彿とさせます。
この特徴的な動きが、アクションものでありつつ、詰め将棋のように一手ずつ敵を追い込んでいく独特のゲーム性を生み出しています。また、シングルプレイもおもしろいけれど、協力プレイもキャラクターの組み合わせの妙がよくできていました(国内版は2人、海外版では3人まで同時プレイ可)。
今回、『ゲイングランド』の動画を久々に見返して、こんなにゆっくりしたテンポのゲームだったのかと驚きました。でも、全体のバランスで見ると辻褄が合っており、これで何の問題もない。むしろこれがよい。これもつくり手が確信を持って挙動パラメータを設定してることがよくわかります。
『ゲイングランド』には「システム24」というセガの高解像システム基板が使われています。当時、開発のかたに「同基板を使った製品には緻密なゲーム性を持つものが多い気がします」と感想を述べたところ、「解像度が高いと細かいところに気が回りやすいのかもしれない」といわれたのを覚えています。
ステージのクリア方法には、敵全滅のほか、手持ちのキャラクターをすべてEXITから脱出させるやり方もあるのですが、これはおそらく捕虜を救出して味方を増やしていくために導入された仕組みの副産物(結果的に生まれたもの)であって、基本的には敵を全滅させることが前提となっています。
ゲーム史に残る“プラス方向にはたらいた”バグ
『ゲイングランド』はステージ4-8のバグが有名です。破壊してもカウントされない敵がいて、全滅の判定フラグが立たないのです。そのため、プレイヤーは、時間内に手持ちのキャラクターをEXITから脱出させるしかありません。脱出が間に合わなかった分のキャラクターはすべて失います。
制限時間内に持ち越せるキャラクターは限られます。ここまでに貯めたほとんどのキャラクターを諦めて少数精鋭で4-9と4-10(最終ステージ)に行くことが強要されるのです。一体誰を連れて行けばいいのか、その葛藤がゲームとしても物語としてもドラマティックです(※後にバグ修正版も出ました)。
バグは本来あってはいけないものですが、時としてゲームにとんでもない劇的な効果をもたらすことがあります。自分が知っているなかで、もっとも劇的な効果をもたらしたバグは『スペースインベーダー』の名古屋撃ちだと思っていますが、『ゲイングランド』のバグも屈指のものといえます(おかしな言い方ですが)。
『ゲイングランド』は個人的に20世紀を代表するアーケードゲームの一つだと思うのです。名作が生まれるのは時の運も大きいといわれます。88年という時代とハードウェアやスタッフの巡り合わせ、そしてバグさえもプラス方向にはたらいた幸運なゲームなのかもしれません。 了