『アはアーケードのア』 第3回『ウィッツ』(1989年アテナ)

『ウィッツ』のオリジンは『ブロッケード』

 今回は『ウィッツ』の話なのですが、じつはぼく、『ウィッツ』自体はあまりプレイしていません……。これの元になったのは米国のゲームで、当時何種類も出ていたのですが、最初に発売されたのは『ブロッケード(Blockade)』(1976年Gremlin)というタイトルだったようです。そちらは当時けっこう遊びました。基本的に『ウィッツ』はそれと同じ遊びです。

 映画『トロン』でも題材になったゲームというと、ピンとくるかたもいるかと思いますが、2人ないし4人が各々カーソルを左右上下に移動させて、固定画面のフィールドの中で、壁にぶつからずにできるだけ長く生き残れば勝ちという非常にシンプルな遊びです。

 プレイヤーのカーソルは停止することができません。常に移動し続けます。そして、プレイヤーが移動した跡にはそのままカーソルが残ります。カーソルがある場所はもう通ることができません。つまり、時間の経過とともに、どんどん動ける場所が減っていくのです。

 このルールの元で、いかに自分の行動可能領域を確保しつつ、対戦相手の進路を封鎖するか、という単純ながら戦略性の高いゲームになっています。『ブロッケード』は当時何度も友だちと対戦プレイで遊んだ覚えがあります。進行方向と逆のボタンを押してもミスになるのが辛かった。

ビデオゲームは常にリメイク・リバイバルされている

 『ブロッケード』が後年『ウィッツ』としてリメイクされたのはむしろマイナーな例で、1970年代の米国の製品にはその後のさまざまなメジャーゲームのオリジンになっているものがいくつもあります。たとえばアタリ社の『ブレイクアウト(Breakout)』が元となって、その後、国内で多くのブロック崩しものが生まれました。

 星を避けて宇宙船をゴールへ導く『スペースレース(Space Race)』は、『ギャラクシーウォーズ』の原型といえます。撃破目標となる敵UFOが存在しないこと、自機は前進と後退ができるが左右に動けないこと、そして2人で競争プレイのできるところなどが『ギャラクシーウォーズ』とは異なる点です。

 ドライブゲームでは『ナイトドライバー(Night Driver)』が黎明期の秀作です。一人称のドライブもので、画面がほぼ真っ暗なので“Night”です。画面上にはコースの左右両端を表現するドットが奥へ向かって2列に並んでいるだけなのですが、それが自在に曲がりくねって見事に3次元的な奥行きが表現されています。

 表現したいものとスペック間の差を埋めるために舞台を夜に設定したゲームでは、タイトーの『ミッドナイトランディング』が思い出されます。また、初期のビデオゲームに宇宙を舞台としたものが多いことも、当時のゲームのグラフィック性能と無関係ではないはずです。

 他にも、迷路で2人で鬼ごっこをする『ガッチャ(Gotcha)』というゲームは、その後の『パックマン』のヒントになっています。これは作者の岩谷徹さんが最初に書かれた企画書に同ゲームの名前が出ていることからわかります。

 『ガッチャ』は本当に迷路の中で追いかけっこするだけのゲームなのですが、迷路の一部の壁がリアルタイムで出たり消えたりする仕掛けがあって、この動きを予測することで相手を一時的に引き離すようなちょっとした戦略が生まれます。とても単純ですが、当時夢中になって遊びました。

さまざまなアブストラクトゲーム

 今回、この文章を書くために『ウィッツ』や『ブロッケード』を見返したのですが、『ウィッツ』がいわゆるピクトさんが主人公の、シュールな感じのゲームになっているのは、元々の『ブロッケード』がいわゆる「アブストラクトゲーム」っぽい遊びなので、むべなるかなと。

 アブストラクトゲームとは、ゲームの舞台世界が抽象化されている遊びのことです。また、これに加えて、遊ぶ上での情報がすべて開示されている、偶然性の関与がない等の定義を含むことも一般的なようです。オセロや囲碁、ダイヤモンドゲーム等がこれに当たります。

 ただ、リアルタイム性があり、反射神経要素の入るビデオゲームに、この言葉を使ってよいのかはぼくにはよくわかりません。『ブロッケード』はかなり近いと思うのですが、厳密には含まれないのかもしれませんね。

 余談ですが、『ブロッケード』や『ウィッツ』に似た考えかたの遊びで、フランスのボードゲームに『ブロックス』というのがあります。有名なゲームなのでご存知のかたも多いかもしれませんが、テトリスのピースのような持ち駒を4人で順に盤面に置いていく遊びで、置ける場所がなくなった人から負けになります。

 オンラインでも遊ぶことができるので、ぼくも何度かプレイしたことがあります。4人がかりでピースを置き合っていくので思うとおりにならず、そこがなかなか熱いゲームです。 了

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