見出し画像

年金部会での発言録

勿凝学問346


何を話したのかを忘れる前に、自分のためにメモを


第24回会議(2024年12月24日)

○権丈委員 事務局の皆さん、本当にお疲れさまでした。
 私としては、国際社会保障協会での公的年金シミュレーターと適用拡大サイトの受賞は本当におめでとうと言いたいところです。年金広報の長い歴史、民主党政権下で広報費ゼロ査定の歴史などを知っている者として、本当にこれはうれしく思います。おめでとうございます。
 ということで、今日の議論の整理案ですけれども、私としては、改革のキーワードとして「働き方に中立」に加えて「雇い方に中立」というワードが入って、非常に物すごく大きな前進だなと思っております。そして遺族年金でジェンダー平等、有期化という大きな改革が今回なされること、世の中には高く評価してもらいたいと思います。
 幾つか感想を述べさせてもらいますと、年金制度と世論の関係をどう考えるのかというのはとても難しくて、もし年金制度が世論とかいろいろな人たちの意見の数で決まるのであれば、2004年改革は実現できていないのではないかとも思います。
 ただ、世論が大きく事実と違ってくると、ミクロには多くの人たちが長い人生の中で選択ミスをして、不幸になっていくというのはある。20年前から10年間ほど年金が政争の具とされて、年金世論が物すごくすさんでいたために、当時のうわさを信じて未納を決め込んだり、繰り上げ受給をしてしまった人たちが、どうも大勢いる。その人たちは今となっては何とかならないのかと後悔したりしているのだけれども、彼らの判断ミスの責任は誰が取るべきなのかと考えると、その多くはメディアにあるのではないかと私は昔から言っています。
 今もそうで、3号はお得で不公平だ、年収の壁は大問題で働き損だという報道をすると、普通、人は3号を利用しようとするし、就業調整をしようとします。これは当たり前です。
 問題は、そうした報道が正しいのか、ファクトチェックをし終えたものなのかということになります。
私は若い記者たちには自分でしっかり考えたほうがいいと話しています。考える材料としては、今日も小野委員は難しい話をしていたのですけれども、本質的な話をしていたわけですが、例えば難し過ぎるかもしれないけれども、小野委員の話を時系列で追って理解できるまで自分で考えなとか、あと、今年3月に東洋経済の野村記者が書いた「専業主婦『年金3号』は公平で正当性のある制度だ」というオンライン記事があるのですけれども、そういうオンライン記事も若い記者たちには勧めています。そのオンライン記事には、3号は主婦層からの反発をおそれて廃止できないというような話ではない、というかなり正確な話が書いてあるわけです。彼の予測に基づくと、「専業主婦の年金3号は廃止されることはない」というのを3月に書いているわけですけれども、その論拠を若い記者たちは批判的な観点で眺めてみて、本当に野村記者の論を潰すことができるのかどうかを自問自答していきながら学んでいったらどうですかという話をしています。

 今日の資料にもありますけれども、日本の年金は1人当たり賃金にだけ基づいて設計されているために、片働きとか共働きとか単身などという家族類型とは全く関係ないです。そのことは、賃金以外の状況が歴史的、時代的に変化したとしても、年金制度は対応できるということになってもいたりする。
確かにジェンダー平等にはほど遠い社会なのだけれども、そうした社会が第3号被保険者制度に原因があるのかどうかというところは大きな論点なのですけれども、第3号被保険者制度が原因であるかのような記事が多々ある。
そうした記事が、3号を利用する必然性もない人たち、若い人たちは利用する必然性はあまりないのですが、この議論の中でコーホートという言葉が出てこないということ自体、私は不思議で仕方がないのだけれども、そういう3号を利用する必然性もない人たちに継続就業をやめさせたり、さらには就業調整をさせたりする影響がメディアにあるとしたら、私は罪が大きいと思っています。 
年収の壁や3号周りの報道を信じて、彼らが就業調整をするようになるという現象を「予言の自己実現」と私は呼んできました。この国では一旦仕事を辞めると元に戻るのが極めて難しい状況にまだまだある。そういう残念な状況にあるために、つらいだろうけれどもしがみついてでも就業を継続したほうがいいよとアドバイスするのが大人からのアドバイスになるはずなのですが、今のメディアはその逆のことをやっている。
とにかくメディアの人たちには自分で考えてもらって、3号の利用を促したり、就業調整を結果的に勧めていることになる報道、それは多くは誤報なのですが、そういうのは避けてもらいたいと思っています。 
そして、2008年辺り、年金抜本改革とか破綻とか言われていたあの時代には、幾つもの抜本改革案を政府側が肉づけをして、そして、その肉づけした制度を比較することによっていろいろとその具体案を議論していって、いろいろ言われていた抜本改革案、最低保障年金が必要であるとか、租税方式にするべきであるというただスローガンが掲げられただけの議論というものを政府側は潰していったわけだけれども、3号周りの議論ももうそういう段階に入っているのではないのかと思っています。 
それと、調整期間の一致の話なのですけれども、日本の年金というのは、基礎年金は最低保障年金でもないし、ベーシックインカムでもないですということはまず押さえておこうということです。
最低保障年金やベーシックインカムの観点から見れば、日本の基礎年金は初めから壊れています。何も今年7月の財政検証をきっかけに基礎年金は壊れているということが明らかになったわけではなくて、始めから基礎年金は最低保障年金でもないし、ベーシックインカムでもないということです。 
この最低保障年金とかベーシックインカムを言う人たちは、日本の年金というものをホラーストーリーで語らなければならなくなってくるという論理必然性を持っているわけで、先週も就職氷河期世代の厚生年金被保険者期間の延びは「たらればの話」と言う人もいたわけですけれども、年金の抜本改革とか言っていた民主党の時代の岡田克也さんは、2005年には「国民年金制度は壊れている」と発言していたわけですが、7年後の2012年にはあの発言は「大変申し訳ない」と発言したりもしている。 
就職氷河期の人たちに限らず、非正規就労のグループが、世代にかかわらず、基礎年金は満額かのような前提で話をしていいのかというのは、やはり多くの人たちが疑問を持っている。免除とか若年者猶予とか未納が多いだろうこのグループには、基礎年金の満額を多少底上げして、効果はどのくらいあるのだろうかと。しかし、その改革というのは、満遍なく給付を行うために莫大な財源が必要になる。これは中高所得者にも満遍なく給付を行うベーシックインカムというものに共通する話なのですけれども、それは本当に効率的・効果的な政策なのだろうかというのは、多くの人たちが疑問に思っているところです。 
今回、この年金部会では過去30年投影に基づいて調整期間の一致の議論をしてきましたが、財政検証は予測ではなく投影であって、それぞれの発生確率にウェイトを設けなかった従来の方法を、年金局が自ら否定する形になったのではないのかなと思います。
だから、今年の財政検証でのいい結果、あるいは分布推計とかいろいろなものが出てきて、モデル年金に基づいた議論ではない「さらばモデル年金」の時代に入ったのだけど、財政検証の後、ぱたっとその話が止まってしまい、過去30年投影のモデル年金の話ばかりになった。

そのため、年金世論は何だか大変なことになっているのではないか、抜本改革しなくてはいけないのではないかという形で相当すさんでいると感じます。そうした議論の進め方の年金論的なおかしさ、あるいは政治的な危うさに気づいた人たちが、調整期間の一致はリスクシナリオが実現する場合に発動する備えとして位置づけたということは、私は妥当ではないかと評価しています。 
45年化については、45年化は国庫負担の力も借りて、年金の所得代替率を大きく改善する効果があり、45年化は調整期間の一致と国庫負担で競合し、両方をやると物すごく給付水準が高くなります。ゆえに調整期間の一致というものは、45年化やさらなる適用拡大にとっては、私はトロイの木馬になるだろうと予言しております。 
ということで、全部が感想で、修文の要求、要請は一切ありませんということで終えたいと思います。どうもありがとうございました。

第23回会議(2024年12月10日)

適用拡大、年収の壁、3号

○権丈委員 適用拡大の目的というのは、被用者でありながら第1号被保険者の中にとどめ置かれている第1号被保険者の4割を占める人たちに厚生年金を適用することだと昔から思っております。彼らが厚生年金に入ることができれば、手取りは増えます。これをいつも3号が政治的に邪魔をするので、私は3号制度はそんなにおかしくないけれども民主主義の中で邪魔だというのをいろいろ書いてきたわけです。
 加えて、適用拡大は成長戦略なのです。厚生年金の適用除外規定は事業主負担をしなくても済む安い労働力を雇うことができる、一種のダンピング・システムなわけです。そうした適用除外規定をなくしていけば、企業は付加価値生産性を上げるために企業家精神を発揮せざるを得なくなります。逆に言うと、厚生年金をはじめ、被用者保険に適用除外規定があったために、社会保険そのものが非正規雇用を推奨して、格差を生む原因となっていただろうと。そして、低い生産性のままでも低い労働条件で人を雇うことができたために、日本全体の成長の足を引っ張っていたということがあると思うのですが、そうしたことは絶対にあってはならない。だけれども、そういう状態が続いていた。
 そもそも被用者保険に適用除外規定があることのほうが初めからおかしいわけで、全世代型社会保障構築会議ではこれまで適用除外という言葉が使われています。2022年12月の報告書では「被用者保険の適用除外となっている規定を見直して適用拡大を図る」と書かれていて、適用除外規定そのものが問題視されている。事業主負担に適用除外規定がある限り、厚生年金をはじめとした被用者保険が非正規雇用や格差を生む構図は変わりません。その意味で、今回提案された適用拡大は、一方は前進だと評価しているけれども、ゴールは事業主負担の適用除外規定をなくすことでないと私は支持しません。
 それと、資料にいろいろと書いてあるところで、今後の適用拡大時に「必要な配慮措置や支援策を講じる」という話が幾つも書いてあるわけですけれども、私はその言葉は要らないと思う。これから適用されていく企業やその団体が配慮措置や支援策を求めるのは分かりますけど、それを政策に反映するかどうかは政治が決めることであって、我々第三者が決めることではない。幼稚産業を保護していったら、それが一人前に育っていくという歴史があるのならば考える余地はあるかもしれないけれども、本当にそうだったのかと。過去の配慮措置や支援策は企業に頑張っていこうというような変化を起こさなかったわけです。だから、私は一立場、研究者、公益委員として、必要な配慮措置や支援策は要らないと思う。あとは政治にお任せしますということです。
 今回も年金部会における意見がピックアップされていますけれども、発言者を記載しておいたほうがいいと思う。政策がどのような政治過程を経て決められていくかというのを分かっていないというか、関心がない若い記者たちは、ここの報告書とかに書いてあることが専門家による客観的な論だと勘違いするので、誰が発言しているのか、どの立場から発言しているのかというのはあってもいいのではないかとは思います。無理でしょうけれどもね。
 次に、年収の壁支援強化パッケージの後継の制度について話をします。人が不足すると、賃金をはじめとした待遇改善を図って労働力を確保したり、労働をロボットなどの資本に置き換えて対応するのが市場規律が企業に求める市場の働きです。そして、数年前に就業調整をする人たちがいたときにでも、多くの企業は手取りが減らないように賃金を上げたり、ボーナスで保険料を補填したりして対応していました。そうした企業と労働力の確保の面で競合するライバルに補助金を上げる制度ができるとどうなるか。実際にそうした制度ができたわけですけれども、もしかすると成長戦略と逆方向の、この前も話しましたが、正直者がばかを見る政策になる可能性はある。
 そうした意味で、今回年金局による問題解決のためのプラグマティックな案、要するに今ある制度を終えてその後どうするかというところで、就業調整をする可能性のある人たちを対象として事業主負担割合を高くできる道を準備することによって、今ある支援強化パッケージに置き換えるというのは、私は公平性、効率性、成長戦略の面で妥当なものと評価しております。ただ、これは100点満点ではない。だけれども、何も案を出さなかったら今の政策が継続させられる可能性があることを考えると、先ほど是枝委員が「まし」という言葉を使いましたけれども、今よりもましかなと。
 我々が本当は批判しなくてはいけないのは、今ある制度をつくって、これを2年後ぐらいに見直す時限措置としてやりますと言われていた、その時点で我々はそれはおかしいのではないかと言わなくてはならなかったのだけれども、実際言ってはいたのだけれども、要するに今の制度を見直すための代替案を我々は考えなければいけないということがルールの上で数年前に決まっているので、この年金局案は私は支持していく。
みんなの気持ちは分かる。これをつくると、国民に対するメッセージが世の中にあるべきものと反対方向を向くというのは気持ちは分かる。けれども、問題のスタート地点は数年前に起こっているというのがあります。
 それと、1つ質問なのですけれども、15ページの冒頭に小野さんの意見が書いてあります。そして、17ページの最後に私の意見があります。ここに書いてあるこの2つの話と、1985年に単身者の1階部分、定額分が半分になったことを足し合わせると、これらの話というのは、これまで年金局が財政検証のときに2回「資料4」で説明していた「賃金水準1人当たりが同じであれば、どの世帯類型でも年金月額、所得代替率は同じ」という説明と整合的な内容です。そして、3号を廃止せよという意見は数の上では圧倒的にこの資料の中でも多いのですけれども、そういう話はあの資料の説明と矛盾します。
 ということで年金局に聞きたいんだけれども、年金局は「賃金水準1人あたりが同じであればどの世帯類型でも年金月額、所得代替率は同じ」というこれまで取ってきた考え方は、今日だったらば16ページの3行目にある社会保険の原理原則に反していると考えているのかどうか。この16ページの3行目を言っている人は、今ある3号制度は社会保険の原理原則に反していると言っているのだけれども、年金局は反していると思っているのか。そうだと言うと今までの年金局の説明と矛盾することになるわけだけど、その辺りのところを質問したい。3号という言葉は要らないです。これは原理原則のところの話をしているので、制度の名前は要らない。この原理原則、先ほどの小野委員が言った制度の設計思想という話があったけれども、その設計思想の話として、今ある制度は社会保険の原理原則に反しているのかな。よろしく。
○菊池部会長 それでは、御質問に対してお願いします。
○年金課長 御指摘ありがとうございます。
 ・・・
○権丈委員 いえ、ぎりぎりのラインでどうもありがとうございました。
 ここは極めて重要なところで、3号とか2号とか1号の言葉は要らない。制度を設計する上での考え方、設計思想という抽象的なレベルでみんなで議論したほうが建設的かなと思っております。

調整期間の一致

○権丈委員 昨晩のNHKの『時論公論』を見ていると、「専門家からも大筋了承されています」という解説があって、専門家から外されたかなと思うのですけれども、前回の年金部会も今日のようなこんな雰囲気だったと思います。調整期間の一致を支持する、反対するという論点そのものは、みんなは前回の年金部会と全然変えていないと思います。だけれども、あの日の夜から、あるいは次の日の新聞では、調整期間の一致には年金部会で大筋合意を得られたみたいな報道があったので、ええっと思ったわけです。
先週の全世代型社会保障構築会議で、内閣府の赤澤大臣が過去30年投影ケースだけを取り上げた議論をしていいのだろうかという発言をされていて、ホラーストーリーという言葉を使われていたわけですけれども、この調整期間の一致というのを行いたいがために、ここ数か月間こんなに年金は大変なのですよという話、ホラーストーリーが物すごく一般的になっていったので、最近の年金世論というのは完全にすさんでしまっているというのはあります。
 先日出演した『アベプラ』で、調整期間の一致の特集の中「この案自体が年金制度自体がうまくいってない証拠では」と言う若い人たちに、そんなことはないのだよと説明をする役割をやらなくてはいけない、なかなかつらいポジションに私はいたわけですけれども、そういう年金批判を政治が嫌がるのはよく分かります。財政検証で割とハッピーな未来が描かれたのにホラーストーリー一色になっているのはもったいないと思っております。
 そして今日はホラーストーリーの強化のために、先ほど堀委員も言っていたように、今回突然就職氷河期という言葉が出てくるわけで、それに関する、そもそも就職氷河期という特別な世代があるのかを論じた資料を提出しています。
そうした世代の厚生年金被保険者期間というのが周りの世代と比べてどうなのか。そういうことをはじめ、仮にその世代の10万円未満の人たちとの給付が上がるといったとしても、就職氷河期以外も全部含めて低年金者の年金本体がそもそも小さいので、調整期間の一致をやってもそんなに効果がある話でもないというようなことをちゃんとみんなで議論したほうがいいと思います。
そして、この過去30年投影だけでなく、経済成長のほうに移行してそれが持続していくというケースも含めて考えていくと、そう早急にやらなくてはいけない、あるいは調整期間の一致をやらないと本当に悲劇が起こるというような話なのかどうかということも、私はもう少しみんなで議論してもいいのかなと思っています。
 そういうことで、先週の全世代型社会保障構築会議では、私は今回の改革が調整期間の一致と呼ばれていたように、最近名前が変わったわけですけれども、もともとは調整期間の一致と呼ばれていたように、問題は調整期間の不一致だったわけでして、私は厚生年金の調整期間を延ばしていくことは昔から反対はしていない。それを行うと厚生年金で積立金が上積みされていくのだけれども、その使途を今決める必要はないのではないかというようなことを少し話しました。基礎年金の問題というのはあるわけですけれども、基礎年金を上げる方法というのは、ほかにも45年化とか適用拡大とか、年金部会で私が王道の改革と呼んできた方法もありますので、それをどういうふうに展開していくかというのをこれからの5年間で議論し、次の財政検証の様子を見て決めていけばいいのではないかというような発言をしております。
 前回も経団連の出口委員ととても意見が合っていたわけで、今日もそうですけれども、調整期間の不一致のもともとの原因は、要するにマクロ経済スライドのフル適用を我々が幾ら言っても政治が拒んでいたというところにあったわけです。そういうことを含めて、国庫負担に頼るばかりではなく、しっかりと年金も汗をかくということが大切なのではないかと私は思っております。
 以上です。どうも。

遺族年金

○権丈委員 社会状況の大きな変化、特に働き方、女性の働き方とか、あるいはライフコースの変化、家族の在り方とかに対応して、この3ページにある見直しの方向性、男女差の解消、それと原則5年の有期給付という方向性を私はとても支持しております。
 同じ原因、つまり、社会状況の変化、働き方の変化、そして、ライフコースの変化、ライフスタイルの多様化とかということをベースとして考えるのであれば、タイミング的に間に合わない可能性は多分にあるのだけれども、遺族年金の課税化もやはり視野に入れてもらいたいというのはあります。
 老齢年金は課税で遺族年金は非課税なわけですけれども、2004年のときから、自分の厚生年金と遺族年金との併給時には自分の厚生年金を先に受けて、遺族年金は差額を上乗せするというルールになっています。その結果、共働きで自分の厚生年金がある人はその年金に課税されて、遺族年金しかない人は非課税というような状況があり、共働きとか女性が働くという社会になっているときに、こういうところで差があっていないいのかなと。いろいろな形で課税のところでも、あるいは医療・介護の自己負担とか保険料とか、いろいろなところでも差が出てくるけれども、大きな流れとして女性が働き、共働きも進んでいる状況に対応していないこの状況は、やはり、社会状況の変化という同じ原因で見直していきましょうという男女差の解消とか原則5年の有期化というものと同じぐらいのウエートで視野に入れてもよかったのかなと思っております。
 どうもありがとうございました。

第22回会議(2024年12月3日)

○権丈委員 還暦を超えた私の周りにも結構新たな制度ができたら対象になる人がいると思うのですけれども、そうした彼らに今回こういう制度ができるかもと話をしても、ぬか喜びになる可能性は大だと思っています。というのも、彼らは繰下げ受給を選択すると思います。となると、年金給付への加算という仕組みを採っている限り、今の配偶者への加給年金と同じように給付ができないだろうと思います。
 今の社会において高い優先順位を持つ社会的価値にWork Longerというのがあるわけですが、その目標と整合性を持たない制度、矛盾する制度というのはなるべくというか、可能な限りつくってもらいたくないと思っています。
 そういう問題を避ける、つまり繰下げ受給をしても給付を受けることができるような制度にしていくためには、今回の資料にありますように次世代育成支援とか、さらには子育ての社会化という政策の中で、高齢期の子育てに関しては年金が協力していくというような考え方ができるのかもしれないです。もし、そう考えると、年金支給開始の基準年齢である65歳になったら給付をするという仕組みを考えることができるかもしれないですけれども、そのように変えようとしていくと、高齢期の子育てに関しては年金の受給者ではなく、受給権者の子育てに給付を行うという方向性になるのだろうかと思います。しかし、それはうまくいくのかどうかよく分からないというのがあります。
 こういう形でとにかく繰下げ受給をしたら受け取ることができなくなるとかいう加給年金と同じような欠点を持つ制度を新しくつくらないようにするためには、越えていかなければならないハードルはかなり高いように思えます。
ほかのところでも言っているのですけれども、公的年金保険に他の次元の目標を期待して、それを年金に組み込もうとすると結構おかしな話になってしまうので、私は「混ぜるな危険」というような話をしているのですが、そういう「混ぜるな危険」の範疇に入る問題なのかもしれないと思っています。その辺のところを乗り越えることができるのだったら、私は一歩前進だと思うのですけれども、これはかなり難しい話かなと思っています。
 それとも関連しますが、もし、この話が通っていくときに、年金による高齢期の子育て支援の性質からいって、老齢基礎年金の加算について加入期間に応じた金額の調整という制度を組み込んで複雑にしていき、また、子と親の連帯責任を求める措置というのは本当に必要なのだろうかとも資料を見て思いました。
 もう一つ、配偶者の加給年金についてです。今回の資料で興味深かったのは、9ページの真ん中の囲いに、加給年金が生まれる際の「夫名義の年金で夫婦2人が生活できるような給付設計」と書かれているところです。1985年改革で第3号が生まれたわけですが、あの時の改革で夫名義の定額部分を2人分の基礎年金と読みかえて3号制度が生まれ、85年改革前後の給付水準の継続性を保つために3号の配偶者が65歳になるまでの給付として加給年金も生まれたわけです。そして、あの頃はまだ「夫婦2人が生活できるように」という年金の水準論の話があった。
しかし、あれから40年経って、2004年に給付建てから拠出建てに変わっていって、20年過ぎた今、年金の水準論というのはモデル年金の所得代替率50%と既裁定年金の8割ルールくらいしかないというように私は理解しております。
 そういう側面、つまり水準論で設定されていた加給年金というのは、これを取り巻く社会経済環境が大きく変わっていったと資料の中にもあり、そういうのがいろいろあるけれども、年金論そのものがもう本質的に変わってしまっているわけだから、この水準論をベースとして生まれていた加給年金というのは速やかに廃止すべきだと思っております。
 小野委員も言っていたように、加給年金は繰下げ受給に悪影響を与えます。そして特老厚の年齢の引き上げに伴って、制度の矛盾がこれから加速していきます。今回の資料にも入っていましたけれども、制度の矛盾が加速していくために、加給年金の改革は時間との戦いになっている。問題はどのように改革していくかというのを以前私は発言していて、今回もピックアップしていただいているのですけれども、そういう意味で、廃止していく具体的な日付つきの工程を財源規模も含めた形で年金部会で議論してもいいのではないかと思っております。もうそういう段階になっているのではないかと思っています。
 それと、納付猶予制度とか学生納付特例制度についてです。これはいろいろと御意見があったわけですけれども、今は若い人たちの間では年金をもらえないとか、払い損になるとか、世代間格差があるとか、そういう年金の保険料を若い人たちに課していること自体が、政府そのものを憎む理由となっているというような感覚が、若い人たちの間でSNSの影響もあってものすごく蔓延しているわけです。この状況の中で、この猶予制度、あるいは学特の納付率を高めていくのは極めて難しいけれども、若い人たちが信じているかなりの部分、ほとんど全部と言っていいかな、デマなんですね。
 このデマを年金局は徹底的に排除していかないことには、納付猶予制度の問題以前に、この国の民主主義、いろいろなものがおかしくなっている原因として年金が存在し、そして、年金への不信感を原因として、この納付猶予制度、学生納付特例制度の納付率などにも影響している可能性があります。
例えば適用拡大などでは将来年金がもらえるのだからといって、この負担は壁ではないという説明をしても、将来の年金などは当てにならないのだからという回答が返ってくるような社会に今はなっている。このことを我々おじさんたちは自覚して取り組んだほうがいいかなと思っております。
 感想になりましたけれども、以上です。

第21回会議(2024年11月25日)

基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(マクロ経済スライドの調整期間の一致)について

○権丈委員 大変な資料作り、本当にお疲れさまです。
 今回、基礎年金の水準論の話が資料の中にはないですね。そこはとても評価できると思います。基礎年金の水準論の話というのは、2004年改革で、年金の政治的な持続可能性を確保するために、給付建てから拠出建てに切り替えるというぎりぎりの厳しい決断をしたときに、実はこの国、日本の年金というのは、その問題を表には出さないという決断をすることによって、日本の年金の持続可能性を高めたというのがあるわけですけれども、さすがに年金局はその話、基礎年金のあるべき水準はこうだとかいう話は使わなかったというのを、私は高く評価しております。
 そこで今回は再分配効果というロジックで資料をつくってきた。ただ、既に公的年金の中で広範囲で行っている再分配をさらに表に出すことによって、国庫負担の支出先として競合する例えば子ども・子育てとか介護などと、優先順位を戦えるのかというのはある。
 今日の議論で、調整期間の一致というか、国民年金財政と厚生年金財政を統合するというのが基本的な考え方であるわけですけれども、そういう話に関して、私は一度もよい政策と思ったことはなく、トロイの木馬によるトロイの破滅を予言したカッサンドラの不吉な予言のようなことばかり言ってきたわけです。今日もそういう話になると思います。
 まず、積立金を一緒にするという政策の原動力は、資料1の8ページの中ほどに「王道(適用拡大と45年化)の改革路線と比べて」と書いておりますように、厚生年金のマクロ経済スライドが早々に終了して、基礎年金だけが続いていく状況になったときに、野党などからの批判に耐えられないという政治的理由がどうもあると私は見ています。
 動かしている原動力は、年金論ではないなと。年金論を論じる今日の年金部会で仮に全員が反対しても、この話は進められるのだろうと見ています。
年金論者や年金部会は、昔からデフレ経済にも耐えうるようにマクロ経済スライドのフル適用を言ってきたのですけれども、それを政治は拒んだ。その結果が主な理由となって調整期間のずれが生じたわけです。そうした政治が、今は積立金を統合するとそれが国庫負担増の呼び水になって、調整期間のずれを修復できるという手段に着目している。だから、予言という意味では、この話は年金論とは関係なく前に進むのだろうと見ています。
 ただし、7月3日の財政再計算のときに、年金局長は、「マクロ経済スライドによる調整を経てもなお比較的高い給付水準を将来にわたって確保できる見通しになった」という言葉を使い、同日に厚労大臣は、「基礎年金の拠出期間を延長し、国民に追加的な保険料負担を求めてまで給付水準を改善する必要性は乏しい」と発言しているわけです。それでも調整期間の一致をやるのは、政治的理由があるからだろうなと私には思えるわけです。
 ここで資料1の6ページに「兆円単位の額を国庫に抑えられていたら、あとは政治に委ねられるものは仕方がない。果たしてこれから今回の財政検証の試算、投影どおりに進んでいくのか。政治の投影はできないので予測するしかないけれども、今後の年金に関する予測という意味ではどういう展開になっていくのか」という私の発言があるわけですが、ここで不吉な予測をするとすれば、追加的な国庫負担と引き換えに国庫負担2分の1の原則が壊されるおそれ、そして一度壊されると歯止めなく進められるおそれがある。そうなったとしても、再分配という視点から見れば、例えばクローバックの導入というようなものは、再分配の強化となって現れてくるかもしれないので、年金局が今つくっているロジックと矛盾はしない。
 さらに不吉な予言をするとすれば、今出ている資料1の改革をやるとすると、45年化の改革の芽は消えます。資料33ページにオプション試算の組合せ試算がありますけれども、足元の61.2%が、この適用拡大と調整期間の一致とそして45年化をやっていくと経済が順調なケースでは68.8%になる。過去30年投影の場合でも63%代になり、今の所得代替率を超える。このように45年化という王道の改革を早々に放棄した政治が、モデル年金の所得代替率を、法律にある下限の基準50%をはるかに超えるために汗をかくわけがない。
汗をかくというのは小野委員の言葉なのですけれども、年金は汗をかかなければいけなかったけれども、それをやらなかった。そこで生まれた調整期間のずれを国庫負担という形で今ごまかそうとしているのだよねっと、この話が出てきた当初から言っていたわけです。
適用拡大を④の10時間以上20時間未満のところまでしっかりと行っていく方針を明確に立てましょうという是枝委員の意見に私は賛成です。しかし、年金を動かしている政治には、そうしたインセンティブがないです。
ゆえに45年化も、さらなる適用拡大も、調整期間のずれという政治問題が解決すると葬られることになるという、私はカッサンドラの予言みたいな誰も信じない不吉な予言をずっとしているわけなのですけれども、今年の7月3日の政治的判断を見て、この予言は本当に当たるのかもしれないなと思った次第です。
 以上です。

経団連の出口委員の発言を聞いて

○権丈委員 出口委員と私は似ているところがあって、国民年金、基礎年金のほうで今どんな状況かというところ、予定以上に給付水準が高くなっているということは、こういう議論をする上では、みんなで共有しておいていいのではないかと思います。
 そして基礎年金、これは政治が決めるのでどうしようもないわけだけれども、出口委員がおっしゃっているように、国民年金、基礎年金のほうで何らかの要するに汗をかくというようなこと、そしてその原因をつくった人たちが、ほかのところからお金を持ってきて埋めたらいいという着想というか、発想というか、この展開というのは、私は何か違うよなと思う。年金が抱える問題はしっかりと年金で解決しておかなければいけなかったのだけれども、それを我々が幾ら報告書に書いて、いろいろと言っても動かないという展開になっていたということは、我々はみんな共有しておいてもいいのかもしれないと思います。
 以上です。

在職老齢年金制度について

標準報酬月額の上限について

○権丈委員 高在老の支持者が多いのは、資料2の2ページの図を見て、高所得者の年金を減らすのは再分配なのだから良いことではないかと判断しているところがあるのでしょうね。しかし、この制度の問題は、2019年の『年金部会における議論の整理』にあるように、「同じような所得を得る者の間での公平性の問題」とか、また、「繰下げ受給しても在職支給停止相当分は増額対象にならない」という理不尽さにあるんですね。
どうして対象は賃金だけなのですかとか、本当のお金持ちがいるところの役員報酬とかは何で対象ではないのですかという疑問に対する理由がない。ほかにも、どうして繰り下げても減額されたままなのですかという疑問にも理由もない。そういう素朴な疑問に答えることができないから、みんな初めてこの問題に直面した時にえっと思うことになる。65歳になって、みんなそのことに気づいていって、年金への不信感を高めていったりする。
 そういう理不尽さがこの高在老が抱えている問題で、資料2の4ページに、「高在老の対象者は働くことはあまり苦と感じず、就業調整をしないだろうが、この制度の理不尽さに不満を持ちながら従わされているのが現状ではないか」という言葉があります。つまり、昨年12月に話したように「みんなおかしな制度だと思いながら泣き寝入り状態なわけです。この泣き寝入りはなかなか検証できない」と私は見ています。年金事務所で制度を教えてもらってはじめて理不尽さに気づいた時、一人で制度に抵抗してもどうしようもないですからね。でもみんな年金制度への不快な思い、嫌悪感を抱きながら大方働くんですね。
 この引用に続いて、「この不満を緩和・解消するために、現行の標準報酬月額の上限を超えて賦課した保険料を財源に高在老の改革を行うことが考えられる」とありまして、これかはなり前から言っていたことです。この意味することは、アメリカのように公的年金の中に再分配効果を組み込みたいのならば、昨年12月の第11回年金部会で話しているように、現在の標準報酬月額以上の報酬に年金保険料を賦課して、その財源を高在老改革の財源とする、ということを私は意図していました。昨年12月に話した日本型ベンド方式、つまり今の上限以上の「保険料が全部、自分の給付の算定基礎になるわけではない意味では一種のベンド方式」を考えていました。高所得者問題は高所得者間で解決することにして、高所得者優遇だという批判を封じる。
今の高在老は65歳以上になった時のその時点での賃金とか年金額そのものが基準だから話がおかしくなっています。アメリカでは、生涯拠出してきた平均標準報酬月額を基準として乗率を下げていくわけで、日本の高在老とは全く意味が違う。
 標準報酬月額の上限を上げて高在老撤廃の財源を得ようと長く言っていると、7月の財政検証で、標準報酬上限を引き上げると、拠出と給付の間にタイムラグがあり、その間の積立金の運用などを介して、将来の年金受給全体の給付水準も上昇することが示されたわけです。
もちろん今の高在老を撤廃するためには4500億円の財源を必要として、標準報酬月額を98万円まで上げる必要がある。それは政治的に難しく、上限の引き上げはある程度に留めて、高在老を適用する収入を引き上げるというのはあるのかもしれないけれども、そうであれば標準報酬月額の上限引上げと生涯の平均標準報酬を基準としたベンドポイント方式を組み合わせなどを考えることによって、今、働いている今年、今月の賃金と年金月額にリンクした高在老は撤廃するところまで持ち込んでもらえればと思います。
 高在老に不満を抱いている人たちの多くは、恐らく再分配そのものには不満があるのではなく、年金減額への理由が、保険料率を少し下げるために財源が必要だったから、その財源措置のために繰り下げても支給停止分は繰下げ増額の対象にならないというような、理由が財源措置だからという以外にないことへの理不尽さに不満を持っているのだと思います。繰下げた先の5年後、10年後に、高所得である保証はないわけですし。
 Work Longerが経済社会政策の最上位に位置づけられる今の時代に、それを実行していこうとするとペナルティーが課される。しかも正当な理由もないというような政策は、私は早急になくしていったほうがいいと思います。
 ただ、なくそうとすると高所得者優遇の声が起こって改革が極めて難しくなる理不尽な制度をつくった先輩たちの失策を完全に帳消しにするのは難しくて、昨年12月の年金部会で言ったように、「高在老というゆがんだ制度を政治に求められて過去につくってしまったから生まれた」傷痕がこれからも残るのですけれども、何度もチャレンジしては高所得者優遇だという声に潰された高在老の理不尽さの見直し、それは年金局には頑張ってもらいたいと思います。
 先ほどのマクロ経済スライドの調整期間のところは、私はトロイの木馬だよと言って、年金制度、いろいろなものを壊してしまうよという話をしたわけですけれども、これは年金局に頑張ってもらいたいと思っていますので、応援していきたいと思います。よろしく。
 以上です。

参考 第11回会議(2023年12月26日)

 3つ目になりますが、その上で一人一人の年金給付に反映される標準報酬月額以上の月額のある一定の幅の人たちに年金保険料を賦課して、その財源を高在老改革の財源に用いたいとは思っています。高在老をなくすには規模が要するに届かないわけですが、そのために使う。頑張っていけば届くかもしれないけれども、高在老はみんながおかしな制度だ、賃金だけが対象となるなど不公平な扱いだとみんな思っているのですが、この前も言いましたように、この層の人たちは働き続けます。だから、労働経済学者が就労に悪影響を与えているかどうかを検証していっても、これは結果が出てきません。

 だけれども、みんなおかしな制度だと思いながら泣き寝入り状態なわけです。この泣き寝入りはなかなか検証できない。そうした問題を高所得者たちが高所得者の所得で解決して、Work longerという高い優先順位とインセンティブが両立して、長く働こうとしている人たちへの現在のペナルティーを消していくことに優先的に使っていくことが考えられる。これは保険料が全部、自分の給付の算定基礎になるわけではない意味では一種のベンド方式になるわけですが、高在老というゆがんだ制度を政治に求められて過去につくってしまったから生まれた経路依存的な日本型ベンド方式という形でこれから標準報酬月額の基準を考えていくときには、この観点も私の中では考えていこうかなと思っております。

第20回会議(2024年11月15日)

○権丈委員 小林さんの後でもいいのですけれどもね。まぁ、今、話題の「年収の壁」でいろいろと盛り上がっているわけですが、目下、国のほうで支援強化パッケージがあって、先日は立憲民主党のほうから壁をなくすために補助金を出すという案が出ていました。
この種の話は、企業に補助金を出せば、いわゆる壁と言われる収入の屈折点は埋まる話であることから分かりますように、お金があれば解決する話です。つまり、市場経済の中で生きている民間企業が、人手が足りないなら自分で賃金を上げたり、ボーナスで社会保険料を還付したりすれば済む話で、そういうことをやっているところもあるということです。
 どうも、みんな人手不足とか成長戦略という言葉にはわくわくするところがあるようでして、年金局がつくった悪い制度が成長という正義をもたらす企業をいじめているという構図で物事を理解しているようなのですけれども、この話はなんていうことはなく、付加価値生産性が低い企業に補助金を与えるているだけの話なんですね、我々、政治経済学からみると。
そこでもし何もしなければ、経営者は生き延びるために、アニマルスピリッツを発揮したり、企業家精神を発揮して付加価値を高めようとします。そうしたことをやっている前向きな企業は今、幾つもあるわけですが、そういう企業のライバルである低い付加価値生産性の企業に補助金を与えるというのが今、なされているわけですけれども、正直者がばかを見る政策ですね。
 こういう話が出てきた当初から、私は何もしないのがベストだ。それが国民経済や成長戦略としても一番いいと言っていたわけですが、絶対に避けたいのは、壁でもないのに人のお金を使って穴埋めをすることだということを、周りに話したり、年金局にもそういうことを伝えていました。その意味で、支援強化パッケージは落第点です。立憲民主党の今回の補助金を出そうというものも落第点。
もちろん、就業調整している人たちは、多くは社会保険への誤解と無知に基づいて就業調整をしている面がありますので、これに対しては広報活動を徹底すると同時に、その広報活動に企業にも協力してもらおう。以前にも話しましたように、新しく適用拡大がなされた対象者全員に公的年金シミュレーターを試してもらうように、企業側に義務づける法律をつくるぐらいのことはやっていいと思うし、そして就業調整を考えている彼らに、年収ではなく生涯収入という意識で自分のライフコースを決めてもらうという意識改革をやってもらいたいと思います。
 ここでも繰り返し話しましたけれども、労働市場が弛緩から逼迫に転じて労働力希少社会に入った事実は、それまでの常識を180度ひっくり返してしまいます。
労働力希少社会では人手不足倒産が起こります。起こっても、完全雇用は大体守られます。それで、数少ない労働者を企業が奪い合うわけですから、企業は被用者保険を完備していないと競争上不利になります。今は「年収の壁」を扱うテレビを見ていても、コメンテーターたちは被用者保険があるところに転職したほうがいいよという話をテレビの中でもやっているわけですけれども、だから、労働力希少社会に入った段階の私の言うことも180度変わってくるわけですが、中小企業を守るためにですね、(日商の)小林さんのところとかね、労使合意により任意包括適用の広報活動を、雇う側にも働く側にもしっかりと広報してもらいたいと思います。
 それで、常時5人以上の個人事業所の非適用業種を解消した場合でも、70万人の人たちが厚生年金を利用できないわけです。これを放置しておくと、市場がそういう企業を淘汰していきます。それでいいのですかということで、しっかりと任意包括適用を広報して、小林さんたちもみんなでそれを利用するという、そういう方向にいかないと生きていけなくなってきたんですね。
その話の延長線上で、今回出された49ページの検討の視点にある、事業主が被保険者の保険料負担を軽減する提案は、どの制度がベストかではなくて、今の支援強化パッケージとかよりはましだという話です。何が望ましいかではなくてですね、世の中から、壁だ壁だ壁だと言われて、本当は年金局のみんなは壁だと思っていないですよね。でも壁だと言われて、何か制度をつくれと言われてこの制度をつくったわけだけれども、今、年金局の彼らが提案しているのは、他からお金を持ってこようとしていないんですね。これは私は評価していいと思う。何よりも、壁でもないのに人のお金を使って穴埋めしない原則は守っているので、私は今の制度よりはいいと思う。
 事業主が被保険者の保険料負担を軽減するようなことをやるといろいろ問題があるのではないかという意見もあったけど、コーホートで見ると、この辺りの若い人たちが一体、誰がこれから第3号になろうという人になっていくのかというのがあるので、コーホートで見て、多分、この制度をつくっていって民間で適用していたとしても、40代、50代の人たちが多く利用して、そのあとの若い人たちはあまり利用しないですよねということですね。
 今回の年金局案は、20時間未満の厚生年金ハーフとか、岸田内閣が言っていた勤労社会保険との接続もいいと思います。年金局案も、厚生年金ハーフも労使折半を変えているから、それなりに批判されることは分かっているのですけれども、厚生年金ハーフの着想の源はドイツのミニジョブで、半分しか、使用者側しか払っていない制度をあの国はつくりました。ドイツは必要が制度の形を変えていったわけですが、私はドイツが持っている、そうしたプラグマティズムを高く評価していいのではないかと思う。原理原則にこだわらずということです。
 以前、厚生年金ハーフを小野委員から評価してもらったポイントは、20時間未満の厚生年金ハーフはマルチワークの人たちにも適用できるという点でした。今日はそういう話が複数事業所勤務者に対する被用者保険の適用等を続いているわけで、そこから来ているわけですが、この箇所に標準報酬月額とかいう言葉がいろいろ出てきたりして、いかにもアナログ感があるんですね。
全世代型社会保障構築会議の中間報告にも最終報告にも、「社会保障のDXに積極的に取り組む」とあります。医療DXはみんな有名ですけれども、結構、幅を持って、スペースを持って社会保障DXも書かれているのですが、2022年12月の最終報告書には、「社会保障におけるデジタル技術の導入を積極的に図ることによって、社会保障給付に要する事務コストを大幅に効率化する」。それで、「関係省庁が連携しながら、政府一体となって社会保障制度全体におけるデジタル技術の積極的な活用を図っていく」とあります。ぜひマイナンバーを用いればどこまでできるのかを含めて、デジタル庁と意見交換をしながら、複数事業所勤務者に対する適用あたりはどこまでできるのかを検討してもらえればと思います。時間はあると思いますので。
 第3号被保険者の検討に当たってについてですが、1985年の改革で一体、何をやったのかというと、片働き世帯の定額部分を2人分の基礎年金に読み替えたんですね。だから、1985年の改革で片働き世帯の負担と給付はなんにも変わっていません。夫が自分のものだと思っていた定額部分が半分になって、それが基礎年金として分割されて半分は奥さんのものになっただけで、2004年の共同負担規定で今度は報酬比例部分も半分になったというだけで、1941年の被用者年金創設のときからずっと賃金比例の保険料を払ってきた男性というのは、1階も2階も全部、自分のものだと思っていた年金給付が、いつの間にか半分になったというだけの話なんですね。男性って何かかわいいなと思うのですけれども、年金局はしっかりとこの辺りのことを説明してもらいたいと思う。
そして、前回も言いましたが、配偶者が第3号であるときの共同負担規定は離婚時だけでなく、平時でも徹底して、ねんきん定期便にも反映させてもらいたいと思う。そうすると、男性が抱いている3号はお得だという意識の壁、まあかわいい間違いなのですが、そういうものも崩れていくかなというのがあります。
 今日、学生のアルバイトの話が出てきているわけですけれども、これは表に出ない議論として外国人アルバイトの話が関わってきますので、これはやはり表に出していいのではないかというのがあります。なぜこういう制度がこういう形になっているのかというところで、かなり表に出ない話としてあるので、留学生アルバイトのところも学生アルバイトのところの議論として一緒にやってもいいのではないかと思っております。
 以上です。

第19回会議(2024年11月5日)

今日は「多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方について」となっています。利用者に理解しやすい示し方という意味で理解すれば、示し方は公的年金の一種の広報のあり方とみることもできるのですが、広報のあり方を考える際のポイントは、今の時代、「文字だと人は見てもくれない」ということを前提にしても良いかと思います。
そういう意味で、年金の給付水準を示す際には、どんな場面でも、1ページ目に公的年金シミュレーターの紹介があった方が良いと思います。今日の資料では12頁に参考資料としてありますが、いつもこれを最初におく。次に来るのが、専門家や記者向けの文字が書かれた資料という感じになるでしょうか。
ただ、2019年の財政検証で作られた資料4は、公的年金の誤解を解き、正確に理解してもらうための資料としてかなり良質なものだったのですが、あの資料の重要性は理解されていなかった。世の中、そういうものだという前提で広報活動をした方がいいと思います。
そういう意味で、今日は東京都の活動を配布しています。
権丈委員提出資料
(ここにあり 第19回年金部会配布資料
彼らは年金を扱う部署ではなく、女性の働き方、ライフコースを自ら見直して女性にももっと活躍してもらいたいと願っている部署だから、年収や、年金の給付水準ではなく、「生涯収入」という観点から、動画を用いながら広報活動を展開しています。おそらく、年金を報道されている女性の記者たちもそうした観点だと思います。
東京都は、継続就業コースと出産して離職するコースでは生涯収入が2億円違い、そのうち3千万円が年金というような伝え方をしています。近視眼的認知バイアスを持つ人間が、間違った年金情報を信じ切って生きている世の中では、こういう情報の伝え方でないと、年金に関して、働き方の見直しという、今週、今月、今年の判断に届くようには理解してくれないのだろうと思います。年金局にも、是非とも「生涯収入」という観点も意識しておいてもらえればと思います。
東京都は、イフキャリという働き方によって生涯のキャッシュフローを可視化することができる試算ツールを使って一般公開しています。できれば、あのツールと公的年金シミュレーターを連携してもらいたい。
更に言えば、マイナポータルで自分が払ってきた年金保険料の履歴を全部見ることができますが、できればマイナポータルと公的年金シミュレーターを連携してもらいたい。そうすると、年金を勉強するぞっと構えることなく、いつでも、喫茶店でもレストランでも、賃金が高ければ、長く働けば、年金が増えるという自分の将来を見ることができるようになります。
年金局には、TikTokを作ろうとは言いませんが、文字による広報はハードルが昔よりは高くなっていることを、我々の世代は分かっておいた方が良いと思います。
年収の壁の話は、昨年よりも一層盛り上がっています。これはやり方によっては、被用者保険に加入することのメリットを国民に伝え、一層の適用拡大を政治的にサポートする動きになり得ます。やり方によってはですけどね。
昔、3号は廃止して1号の保険料を徴収しようと言っていた黒歴史が私にはあるのですが、共同負担規定の下に設計されている今の制度の合理性とその役割、そして昭和から平成、令和と世帯類型や労働市場が大きく変化しても対応できるタフな構造になっていることには、どうもがいても敵わないと思って3号廃止を言うのをやめました。
今日は、離婚分割の時効延期の話がありましたが、こういう話はどんどん報道してもらい、世間に、共同負担の話を理解してもらいたいと思います。個人的には、時効は3年から5年と言わず、永遠に請求できる方が望ましいと思うし、もっと言えば、離婚時に限らず、3号制度を利用している期間は自動的に年金権が分割され、それがねんきん定期便にも反映されるように共同負担を徹底してもらえればと思います。そうすると、3号制度を得だと勘違いして利用していた男性たちは、しっかりと制度を理解できるようになり、3号の利用は減るとみています。
今年5月の財政審の建議には、第3号被保険者は、「保険料を直接払わずとも、被保険者が負担した保険料について被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に」とあります。最近の報道では、「保険料を払わずとも」ではなく、「自ら保険料を払わずとも」に徐々に変わってきています。共同負担の理解が進んでいるのだと思います。
これまで年金局は、3号に対する批判に対して、適用拡大が進めば少なくなりますから勘弁してくださいというスタンスだったようにも見えましたが、せっかく盛り上がっているんだから、日本の公的年金は基本は個人単位であること、共同負担という規定を設けて配偶者に対するセーフティネットを例外的に準備してきたのだけど、それは夫の年金権を配偶者にわたす方法でやってきたこと、そして、仮に基礎年金の財源を消費税に求めても、負担の構造は、一人当たり賃金が同じだったら負担も給付も同じという制度設計と変わらないことなどの説明に、そろそろ本気を出しても良いのだと思います。がんばってください。

第18回会議(2024年9月20日)

○権丈委員 今、労働市場でいろいろと興味深いことが起こっていて、最低賃金の世界では目安50円よりも9円上げて59円とした県が公労使の全会一致で採決されたり、目安よりも34円も上げた県で使用者側の賛成者がいるかと思えば、一方で労働者側の反対者もいたりする。今までは考えられないようなことが起こってきているわけです。

 何が起こっているのかというと、労働市場が緩んでいた、弛緩していた状態から、逼迫した状態に転換してきたことが大きいと考えています。

 我々の用語で言えば、無制限労働供給を意味する水平的な労働供給曲線が反時計周りに回転し始めて、労働力が希少な社会に入ってきた。これは企業、特に中小企業が生き残る戦略を180度転換させます。例えば、無制限労働供給の時代には、企業へのコンサルというのは社会保険料を払わなくても済む方法とか、法律に抵触しないで賃金を下げる方法をアドバイスするのが顧客が生き残るための有益なアドバイスになり得ました。

 ところが、フェーズが変わって労働力希少社会に入ると、そうしたアドバイスをすればその顧客は数か月後には人手不足倒産しているかもしれない。顧客である企業が生き残るためには、労働者に魅力のある職場のつくり方とか、被用者保険の適用は労働条件のミニマムですよと、少々厳しいことを言うことのほうが、本当は企業に優しい有益なアドバイスだということになる。

 だから、東京都の最低賃金もそうなのですが、東商とか日商とかというところは関連企業から適用拡大に反対するようにとか、最賃を上げないようにと言われてくるわけですけれども、そういう政府への要望が通って、そこでできたルールを真に受けていたら、企業は人手不足倒産して、そこでの労働力はより生産的に活用してくれる経営者のところに移動します。そういうことが労働力希少社会では普通になる。

アダム・スミスはこうした市場の力を高く評価していたわけで、私もこの点は市場はすばらしいと思っています。

 今日は、『女性セブン』の「厚生年金にいますぐ入りなさい」という特集の記事を配付させてもらっていて、少々愛嬌のある勇み足ぎみのことが書かれている記事なのですけれども、ここに書かれていることがいかに世の中に広く理解されるかということが、適用拡大がなされる来月10月1日を前にして重要だと思っています。

権丈委員提出資料[1.1MB]

 この記事の最後のほうに、適用拡大が進んでも時間がかかるだろうから、既に被用者保険に入ることができる会社に転職したらいいと私は話していて、労働市場が弛緩していた、緩んでいたかつてでは言っても意味がなかったけれども、今は意味があります。

 それで、大手全国の6紙の新聞とNHKニュースを対象として「年金」と「年収の壁」というキーワードで検索をかけますと、2021年にはヒット数がゼロです。それで、2022年に野村総研が出した働き損レポートをきっかけとして報道合戦が始まってブームが起こるわけですね。そして、2016年の適用拡大時よりも2022年の適用拡大時のときのほうが3号で就業調整した人の割合は高かったという報告もありますけれども、その原因として2022年後半から年収の壁、働き損という報道が盛り上がっていたことが一つ考えられます。

 昔からこうした現象を私は「予言の自己実現」と呼んでいるのですけれども、今回はそうした喜劇、悲劇を避けたく思って今日は『女性セブン』の記事を資料として提出させてもらいました。

 ちなみに、『女性セブン』は9月号では今度、「女の年金は2歳繰下げをしなさい」という特集を組んでいました。

 それで、今日の議題に制度論としてコメントをするとしたら、強制適用の条件を満たしていなくても被用者保険に入ることができる任意適用の制度をしっかりと広報してもらいたいと思います。中小企業も、もう待っていられないと思います。そして、労働者には「見えない壁」を意識した企業が情報弱者の立場にある人たちに就業調整を誘導しているところが今もあるということを記者たちからもいろいろ聞いているわけですけれども、今はそうしたことをやっていると潰れるよという報道を、今回メディアには年収の壁のときの勢いで大展開してもらいたいと思っています。

 こういう状況をある程度解決していく話としては、先ほど小野委員が発言されていた厚生年金ハーフというのが私は妥当だと思っておりまして、論敵は法律学者になるというふうに昔から書いておりますので、それはそういうものだろうと考えております。

 次にシミュレーターのところにいきますけれども、人間は時間軸が関わることが理解できないという認知バイアスを持つ生き物です。そういうことをずっと書いているわけですが、そういう近視眼的認知バイアスがある限り、人間は自然状態では公的年金保険を理解できません。だから、長期的に考えると、その制度に守ってもらっているほうがメリットがあるのに、強制適用になっているわけですね。そういうふうに私はいろいろと書いているわけですが、人間が時間軸に関わることができない生き物である以上、今のところ考えられる有効な方法というのはシミュレーションによる可視化、及び好事例を用いた広報活動ということになるかなというのが昔からです。

 今日は年金部会での話ですが、医療介護の提供体制の改革も時間軸上の人間の弱点を克服するために、シミュレーションによる可視化及び好事例の広報活動という方法を取ることになります。そして、医療のほうでは2025年までの可視化、シミュレーションによる可視化というのは威力が小さかったですけれども、2040年までの人口減少を視野に入れた可視化には少々力が備わってきているかなというようなものを感じています。

 公的年金シミュレーターも人間の認知バイアスを克服する効果が絶大だと評価していますので、大いに展開してもらいたい。今、利用回数が500万ということらしいのですけれども、少ない。東京都も協力しているわけですけれども、これで500万というのは少ない。もっともっと大きな高めの目標を掲げてやってもらいたいと思います。

 2022年12月にまとめられた全世代型社会保障構築会議の報告書には、被用者保険適用に伴う好事例や具体的なメリットを事業所官庁、省庁、いろいろな省庁から全部協力を得て広範かつ継続的な広範啓発活動を展開すべきであると書かれてあります。

 この意図は、厚労省は年金の存在意義とか適用拡大の意義は十分に分かっている。しかし、他の省庁、本当はここは府省庁と書かなければいけなかったのかな。府がついているところがおかしなことをやったりしますので、他の府省庁と言うべきかもしれないんですけれども、分かっていないところがあるんですね。そこも巻き込んで勉強してもらうようにということが、全世代型社会保障構築会議の報告書に込められた意図でした。そういうことをぜひ他府省庁も巻き込んで、政府全体で適用拡大の意義とか、ひいては社会保障の存在意義を勉強する機会を設けてもらいたいと思っています。

 最後に1つ、東京くらし方会議の資料で公的年金シミュレーターを紹介しています。その資料で事務局がつくった原案には、エプロンをつけて三角巾をかぶった女性が2人登場してきて、それだけしかいなかったわけですけれども、私は座長権限を使ってエプロン女性を1人にしてもらって、スーツを着た女性と男性の漫画も加えてもらいました。公的年金シミュレーターを使ってもらいたい人たちというのは、今日の資料4の7ページの左のほうにある図の中でエプロンをつけて三角巾をした女性のほかにもいろいろあるはずなんです。そういうことも含めて、今の時代は本当にイメージとしてエプロンをつけた三角巾の女性にシミュレーターを使ってもらいたい、年金の意義を理解してもらいたい、本当にそれだけなのか。そういうようなところから、根本的にみんなで考え直していこうよというようなところを提案して終わりたいと思います。

 以上です。

第17回会議(2024年7月30日)


欠席 議題:遺族年金

第16回会議(2024年7月3日) 財政検証

○権丈委員 財政検証の公表に至る本日まで、年金局の皆さん、本当にお疲れさまでした。今の年金局の体制でしかできないいい仕事ではなかったのかなと思っております。

 あと、局長、いろいろとお疲れさまでした。

 2019年の第3回財政検証で資料4が出てきました。ようやく3回目で。資料4とその後に生まれた公的年金シミュレーターで初めてみんなの生活と具体的なつながりを持つ材料がそろったかなと思っております。

 これらが出そろうまでは年金論は財政検証の資料1の法定試算に基づいて、将来はこんなに下がるぞという怖いストーリー、ホラーストーリーで論じられてきていたのですけれども、実際には法定試算である資料1は年金不安をあおるばかりで、何十年も先のみんなの将来の生活とあまり関係はありませんでした。

 今回は資料4-1と2。2のところは、本当に数理課長をはじめ、ありがとうございます。それがあるために、今のワークロンガー社会において、厚生年金加入期間が長い男女の報酬比例部分が将来の給付水準の引上げに相当のパワーを持っていることが具体的にイメージできるようになりました。加えて、共働きともなると、そのパワーは圧倒的です。それはいい資料が出てきたなと思っております。ただ、それは厚生年金の世界の話で、したがって、政策課題としては厚生年金の適用拡大が最も優先順位が高いことに必然的になってきます。

 そこで、まず年金論のコメントをしておきたいと思います。適用拡大は、政府が掲げる勤労者皆保険の名にふさわしいように可能な限り進めてもらいたい。次に、年金は保険なのだから繰下げが合理的だよと素直に人に勧めることができるように高在老は見直してもらいたい。その際、資料1の11ページ、12ページの高在老撤廃と標準報酬月額の引上げによる合わせ技、それぞれの改革で所得代替率が上下する相殺効果も検討してもらえればと思っています。そうすると、高所得者優遇という声を封じることができるかなというのもありますので。加えて、繰下げを選択することを人にちゅうちょさせている加給年金も見直してもらえればと思っています。

 また、今回は参考試算として試算してくれたことにお礼を言いたいのですが、調整期間にずれが生まれたのは、大きな原因はマクロ経済スライドのフル適用を進めるという汗を年金制度がかかなかったからです。だから、45年化という年金自身で汗をかく道を諦めるとするのならば、せめてフル適用という汗は今もかいてもらいたいと思っています。

 次に、年金論ではなく政治論という話をさせてもらいます。今回の資料4で面白かったのは、資料4-1に初めて出てきた積立金の性質です。ここに書いてある積立金の性質という話は、実は適用拡大にもそのまま当てはまります。適用拡大というのは、実は積立金による財政調整なのです。1号から2号に移行する際に、その人は1号から積立金を抱えていくことはありません。だから、物すごく多くの人に適用拡大をすると、適用拡大をしないままに厚生年金の積立金を国民年金に移す調整期間の一致と財政的にはどんどん近づいていきます。そのことを今回の試算でも示されたと思います。是枝委員も先ほど指摘されていましたけれども、例えば過去30年投影の場合、資料1の7ページの860万人適用拡大の調整期間の終了が、比例・基礎共に2038年。10ページの調整期間一致では調整期間の終了が、比例・基礎共に2036年です。経済前提にもよりますが、似たような財政効果にどんどん近づいていく。もちろん、860万人の適用拡大というのはある種夢の世界ではあるのですけれども、適用拡大を使っている政策技術は積立金による財政調整だということは分かっておいていいと思います。

 ただ、適用拡大は厚生年金を利用できる人が増えることと、国保の関係で追加的な国庫負担はあまり考えなくてもいいという2つの長所があるために、適用拡大のほうが調整期間の一致よりも年金論としては圧倒的に優れています。この適用拡大と45年被保険者期間延長を合わせれば資料3-1の21ページになり、これが2013年の国民会議から言われていた王道の改革路線です。しかし、45年化のアドバルーンを上げると、「100万円の負担増」という報道で世の中は盛り上がる。年金の宿命とはいっても、この王道を進むのはきついと。財政検証の結果もホラーストーリーではなくなっている今、わざわざやる必要があるのかという政治判断がなされるのは理解できないわけではない。

 ところが、この王道の改革路線と比べて、調整期間の一致というのは年金論と言うと、私はえっと言いたくなるところがあるのですが、政治論としては長所があるというのがある。王道の改革を進もうとすると、マクロ経済スライドは厚生年金ではすぐに終わって、基礎年金では続いていきます。そのとき政治の世界で、5年前もそうだったのですけれども、基礎年金のスライドはやめるべきという話が出てくることが予想される。そのときどうするというのがあるのです。

 この5年間ぐらいはこうした政治問題を表に出さずに、これを長く低年金問題、基礎年金の水準問題、厚年と報酬比例と基礎年金のバランス問題という年金論に置き換えて論じてきたわけだけれども、その辺りはまあいいとしようと。ただし、適用拡大以外は基礎年金の給付水準が上がるためには、2分の1国庫負担問題が出てきます。兆円単位の額を国庫に押さえられていたら、あとは政治に委ねられるということになるのは仕方がないと思う。

 果たしてこれからの事態というのが、今回の試算、投影どおりに進んでいくのか。政治の投影というのはできませんので、予測をするしかないかもしれないけれども、今後の年金に関する予測という意味ではどういう展開になっていくのか。本日のコメントとしてはその辺りにしておきたいと思います。

 以上。どうも。

第15回会議(2024年5月13日)

○権丈委員 では、始めさせてもらいます。

今日の提出資料が配付資料の一番最後のほうにありますので、御覧になっていただきたいのですけれども、これは小野委員と私からの遺言のような資料になっているわけですが、昨年11月の第9回年金部会で小野委員が「ここまでしても社会の理解が得られないのはなぜか」と問題提起をされた資料を提出しています。

権丈委員提出資料(PDF:2701KB)

 私は、人が忘れてもらいたいこともいっぱい覚えているという特技があるので、本日もその特技を使わせてもらったのですけれども、小野委員には、昨年の「ここまでしても」というのは、2019年財政検証時の資料4にある16ページ、本日の資料の通し番号5ページでいいかと問い合わせ、「間違いないです」との返事をいただいています。説明する時間はありませんが、今日の通し番号5の意味をしっかりと理解しておいてもらいたいと思います。

 前回の年金部会で、2019年財政検証のときに一番意味があった資料は資料4だったという話をしたのですけれども、みんな資料の存在を知らなかったです。「ここまでしても社会の理解が得られないのはなぜなのか」という小野委員の問いの答えというのは、社会はここまでされた資料を知らなかったということになるかと思うのですが、そうした事実をベースに公共政策周りで起こっていることは一体何なのかということを考えてもらえればと思います。

 公的年金には認知バイアスが強く関わりますので、集団催眠にかかったような大衆騒動が頻発します。そうした題材の扱い方として大きく2つあるかと思います。

 炎上している理由はどうあれ、騒動が起こっているのだから、それを抑えるために制度を変えるという方法。いま一つは、その騒動を抑えるために、広報活動を強化して正確な情報を発信するという方法です。

 一昨年の全世代型社会保障構築会議の報告書は、例えば年収の壁騒動に対して、後者の、正確な情報を提供するという方針でまとめられています。日本の公的年金の歴史を長い目で見ると、大変な勢いで破綻論が言われ、関係者の多くが抜本改革を唱えていても、年金局は今の制度に自信を持って、よいところを守り、意味のある改革を漸進的に進めてきたと。そういう伝統が日本の公的年金、年金局の歴史にあると私は評価しています。

 その意味で、年収の壁とか3号問題というレントシーカーたちが仕掛けて騒動に関しても、これを鎮静化していくプロセスが徐々に展開されていくのではないかと期待しています。そうした方向にある未来を準備するために役に立つかもしれない「東京都のくらし方会議」が試算した生涯所得の資料を今日は提供させてもらっています。

 ただ、これまでの経験上、ブームに乗って大きく間違えた人たちは、そう簡単に論は変えず、どんどんアリ地獄に入っていって議論を混乱させるだけの存在になっていくという傾向があります。

 先日も某テレビ番組で、東京都くらし方会議の試算が紹介されていたわけですけれども、過去に年収の壁があるために成長が阻害されているとか言っていた人は、年金という遠い先のことを言われても、目の前のお金が大切という人もいるわけでして「やはりこの崖は見直さなければならない」と発言したりして、認知的不協和というこのアリ地獄への道に陥り始めていたわけです。このくらし方会議の試算は、別に年金という遠い先の話だけではなく、就業調整をすると目の前の日々の生活で、今年も、そして、来年もこれだけの所得を失っていますよという試算なのですけれども、過去に発言したことと整合性を持たせようとして、そういう意識が人間は働きますので、試算が意味することを素直に読み取ることができなくなっているわけです。

 世の中は大体、いつもそういうものだから、議論が収束するのには時間がかかるとは思うのですけれども、ただ、将来的には、壁だ、働き損だ、3号はお得だという話を真に受けて、年金局の人たちが苦労しながら進めてきた適用拡大の便益を放棄して、高齢期に後悔することになる人たちは減っていくと思います。年金局には正確な情報を世の中に示す活動を積極的に展開して、適用拡大をちゅうちょなく進めてもらいたいと思っています。

 先月出た『ルポ年金官僚』では、私は制度指示派と評されているわけですけれども、今ある制度は、3号制度も応能原則に基づいた夫との共同負担から成る設計になっているわけで、それを応益原則にするような、何といいますか丸山眞男が言う引き下げ平等主義をここでやる必要はないということも含めて、この国の年金は世の中の人たちが批判するほどそんなに悪くはないと思っています。

 抜本改革など口にしたことがない私が求めている改革というのは、政治的には難しいのだけれども技術的には容易で、論理矛盾も起こさないものばかりです。小野委員の以前の発言になるわけですが、年金側で汗をかくことが大切で、年金が汗もかかずに筋の通らないことをやろうとすると反対はしますけれども、レントシーカーたちと闘って来年の制度改正に向けて努力をしてくれるというのであれば大いにサポートしたいと思います。

 以上になります。どうもありがとうございました。

第14回会議(2024年4月16日)

○権丈委員 今日は資料を1つ提出させてもらっています。資料の一番後ろにあります。これは5年前に書いた文章でして、当時新聞で年金に関する誤報、誤った記事が出ていたわけですが、そのとき年金部会で当時の数理課長、本日出席されている武藤審議官が、当方の広報力不足でこういうことになって申し訳ありません、修正されていくようにさらに努力を続けてまいりたいと思いますという発言がこの文章の中にありまして、5年たっても努力不足だよ、みんなというような話が書いてありますので、見ておいてください。

 前回2019年の財政検証の後、私が一番活用したのは、法律で要請された試算とかオプション試算ではなくて、資料4という。これはもう「資料4」と呼んでいましたが、2019年財政検証関連資料でした。あの資料にある足下、2019年度の所得代替率を確保するために必要な受給開始時期の選択とかいうような資料というものは、若い人たちの年金不安を緩和するために不可欠の試算です。

 加えて、小野委員も以前この会議で触れられていた多様な世帯類型における所得代替率というあの資料も、この国の年金は世帯類型、片働きとか専業主婦とかいうのも全く関係なく、独立したものとして設計されていることを実証されている力作でした。残念ながらあの資料4の知名度は高くなくて、ぜひ今回はあのときの資料をアップデートするとともに、新たにいろんな工夫をして財政検証関連資料を作ってもらえればと思っています。

 例えば1年半ほど前から収入の壁騒動が起こりまして、先日数理課長と話していて、なるほどなと思ったのですが、法律では片働き世帯をモデル年金として給付水準をずっと定点観測していくということが求められているわけですが、法律の要請に基づく財政の現況及び見通し、要するに、財政検証の本体試算では女性が就業すれば世帯の年金が増えることを示すことができないというところがあるのです。しかし、今の制度は世帯類型と中立に設計されているので、2人で働いて1人当たり賃金を増やしたほうが年金が増えること。昔からそういう制度になっているわけですが、ただ、2009年に当時の野党民主党の要請で年金局はそういう試算をしています。モデル世帯の男性賃金を1として、配偶者である女性の平均賃金を、当時の男性に対する平均比率0.62として、共働き世帯の試算を年金局がいたしますと、当然共働きのほうが1人当たりが高くなっているので、年金も高くなるのですけれども、片働き世帯よりも共働き世帯の所得代替率が低く出ます。

 そこで、相も変わらず制度を知らない人たち、制度を知らない有識者がいっぱいいるのですが、あのときは八代さんが中心となって日本の年金は専業主婦世帯優遇であることを年金局が明らかにしたと大騒ぎしていました。だから、家計における1人当たり賃金が増えると年金額は増えて、所得代替率が下がるのは当たり前で、そうしたことを知らない人たちが有識者には大勢いるという辺りも前提として丁寧に説明しながら、新しい関連資料をいろいろと工夫して作ってもらえればと思っています。

 東京都のくらし方会議というところでは、年収という1年単位の視野ではなくて、女性が継続就業した場合、生涯収入を試算して、世の中で壁と言われている話などを真に受けないで働き続けたほうがいいよということを示す試算もしていますので、いろんな工夫をしながら、関連資料の中でやってもらえればと思っています。資料4を楽しみにしています。

 ここで本題の資料1に入りたいと思いますが、3ページの下の1つ目の※印に「(名目下限措置の撤廃)について試算をする」と書かれています。これはとても重要だという話をしておきたいと思います。人間というのは面白くて、名目運用利回りが高過ぎると言って公的年金を批判していた人に、間違えているよ、スプレッドが重要だろうと教えると、彼らは過去の過ちを認めることなく、それでも名目運用利回りが大切だという論をでっち上げていくのです。私は何人も見ています。これを「認知的不協和」と呼んでいます。同様に、昔から支給開始年齢の引上げを言っていた人に、マクロ経済スライドが導入された後は支給開始年齢の引上げは必要なくなっているのですよと言っても、そうですかと言って論を変えるようなことは決してしません。昔から言っている支給開始年齢の引上げを言い続けていくための理屈をつくっていきます。

 先週『ルポ年金官僚』という本が出たのですけれども、本の最終章で吉原健二さんは、めったに発動されることのないマクロ経済スライドで給付を減らす仕組みだけで乗り切れるという誤った認識を早く改めるべきと言って、原則支給開始年齢を70歳にすべきと言い続けられています。今の吉原さんがキャリーオーバーとか賃金徹底を理解した上で発言しているかどうか分からないのですが、どうして支給開始年齢の引上げではなく、名目下限措置の撤廃を言わないのか不思議であります。

 名目下限措置が存続する限り、彼らの言うことは100%おかしいと言えない側面はある。この会議でも名目下限撤廃とかマクロ経済スライドのフル適用というのは、東京商工会議所の小林さんとか経団連の出口さんとかも言われて、そして小野委員とか私も言い続けてきたわけですが、これは極めて重要な意味を持っていると思います。

 私の本にも書いていますが、2017年には日本退職者連合は政府要望の中で、それまでにあった「名目下限措置を堅持する」という文言を削っていて、名目下限撤廃を支持するという流れになっているのです。立派なものだと思うのですが。

 令和2年の年金改革のときに、与野党の協議の中で、野党がマクロ経済スライドの見直しというのを完全に放棄させようとしたのですけれども、与党はそこを踏みとどまって、何とか名目下限の撤廃も含むマクロ経済スライドの見直しの文言を残して、基礎年金の低下に対しては王道としての被保険者期間の延長、そのための財源確保を与野党で共に進める修正、附帯決議を与野党でまとめ上げています。

 ということで、不確実な将来に向けたリスクマネジメントの観点からも、そしてキャリーオーバー実行時のショックを緩和するためにも、インフレを経験している今だからこそ名目下限措置の撤廃。小野委員の以前の発言を借りると、年金制度は汗をかく改革。マクロ経済スライドの完全適用という改革というのは、支給開始年齢の引上げを言う昔の世代の人がいるわけですが、そういう世代の人たちに隙を与えないためにも、来年の年金改革の中で優先順位が最も高いのではないかと私は思っています。

 ということで1つ付け加えさせてください。資料2-2の25ページ、先ほど深尾先生が説明してくださったところの補足ですけれども、生産性の伸びに対して実質賃金が上がっていないというところで、GDPデフレーターとCPI上昇率の間、この部分は交易条件の悪化ですね。ほぼ。

○深尾委員 半分ぐらいが交易条件になるかと思います。

○権丈委員 この半分ぐらいがですね。これはある程度仕方がないところ、我々はなかなか動かすことができないところがあるわけで、下のほうに足を引っ張っている税・補助金とか雇用主の社会負担という社会保険料のところ、これは評価するのがなかなか難しいところがあって、この前も話しましたけれども、これが下のほうにあるからといって生産性の伸びが低くなっているという傾向があるわけでもないようなところがあると同時に、今日も国会で子育てのところの財源の話をしていますが、我々からお金を持っていって若い人たちのところにお金が回るわけですね。だから、賃金というものを見なければいけないのは年金の使命ではあると思うのですけれども、我々が生活水準とか社会のウェルフェアを考えていくというときに、消費税が上がったから賃金が下がった、だからよくないのだ、社会保険が上がったから賃金が下がった、だからよくないのだという流れ、一方というのはなかなか厳しいところがあって、所得再分配に使われているので、ある人からある人に所得が流れているというその側面ということを、このデータは年金の財政検証のデータとして読んで、ほかの全体のことを考えていく上では、税・社会保険料、そして消費税を含めたようなところは、所得再分配国家においては少し評価、見方というものを我々は注意しておかないといけないかなと思っております。

 以上です。
・・・
○権丈委員 先ほど資料2-2の25ページのところで、確かに1995年から2022年の間に日本における国民所得統計上の労働分配率というのは、95年ぐらいのときに高くて、1回下がってきますね。そしてまた上がってきてという形で、その差というものはほぼないという形で、日本の場合は労働分配率に差がないというのがあるのですけれども、どうも我々の実感として、非正規が増えてくる、低賃金層が増えてくるというと、何かぴんとこないものがあるなと思うわけですが、法人企業統計のほうの公営が入っていませんが、法人企業統計のほうを見ていくと、95年ぐらいから日本の場合は下がってきているというのがあるわけで、その辺りのところも考慮して我々は25ページを見ておく必要があるのかなというのがあります。

 だから、これだけ非正規が増えてきて、低賃金層が増えてきたときに、労働分配率が変わらずにというところは、確かに国民所得統計ではそうなるのですね。だから、それをどう解釈していけばいいかというのは我々のほうで解釈していかないと、玉木部会長代理が言ったように本当はまだ分かっていないというのがあるのかなと思っております。

 以上になります。

第13回会議(2024年3月13日)

○権丈委員 遺族年金の話をします。

 遺族年金改革の最大の障害は、私の中では、この遺族年金への関心の薄さゆえに制度を動かしてくれる政治家がいないことにあると思っています。年金部会で、遺族年金も繰り返し議題に上がるととてもよいと思っています。遺族年金を専門として研究されてきた百瀬先生たちは、2017年には、米、英、仏、独、スウェーデンで男女差が解消された1980年代から1990年代時点での各国の女性就業率と比べた場合、ほぼそれに等しい水準にまで上昇していると指摘していたのに、一向に変わろうとしないということは、みんな、分かっていると思うのです。前回も言ったように、時間軸をもって20年もかければ、不利益変更という批判をかわしながら、将来のコホートのライフスタイルに最適な制度に移行することができると思います。今回、その話に加えるとすれば、今はやりのドラマでも、先週の話題ではないのですけれども、もう最終回の話を先に決めることが大切かと思います。遺族年金の最終回では、結婚や離婚や養子縁組などのライフイベントへの選択が中立となる遺族年金をつくる。こんな制度で、人のライフイベントに影響を与えている今の状況は、腹立たしいと思います。男女が、一人一人、経済的に自立して、ジェンダー平等な遺族年金となる時代をつくる。そういう目標、理念、こういう考え方は、この問題を考えるみんなが共有できると思います。そうした公理・公準から演繹していくと、遺族年金は、ジェンダー平等、有期化、加給年金の廃止、寡婦年金の見直しは出ている。これを何年後に実現し、終えるか、先に決める。来年の年金改革をやる。そうしたバックキャスティングの視点でやってもらいたいと思います。支給開始年齢では、これは百瀬先生も言っていましたけれども、年金の改革が先行して労働市場の改革を促していったわけです。年金はそれぐらいの力があると思いますので、そう遠くない将来には、労働市場もジェンダー平等になっていなければならないということを年金のほうから発信していく。そう遠くない将来には、将来の配偶者の賃金のプラスに依存しなくても老後の生活が安心できる労働市場であるべきと、その方向に労働市場を変える力学として年金に活躍してもらいたいと思っています。遺族年金のフォーカス点については、みんな、全く同じだと思うので、ぜひしっかりと研究している百瀬先生のグループの人たちに、遺族加給年金検討チームをつくってもらって、百瀬先生は前回に寡婦年金の重要な問題も指摘されていたわけですけれども、それも含めて、数十年後になるのかな、最終回までの伏線が随所に組み込まれた日付つきの改革シナリオをつくってもらいたい。年金部会でそれを承認するというぐらいのことをしてもらいたいと思っています。もちろん賃金には男女差がないと困るというような人は反対するかもしれないけれども、さすがにそんな者はいないだろうと。所得制限の話が先ほど出てきていましたけれども、有期なのか終身なのかで所得制限に対するスタンスが変わってくるので、そこもセットにして議論してもらう。

 小野委員から共同負担の話が出てきていたけれども、共同負担規定は、小野さんと僕が考えているほうが、どうも重い意味を持ちますね。これはしっかりと踏み込んだ形で議論していったらどうかということがあります。

 もう一つ、加入期間の延長は、2000年の年金改革のとき、当初の野党案は、最大45年間の加入期間として年金額を算定することを可能とするため必要な法制上の措置を講ずるものとすると言うにとどまっていて、財源の問題には全く触れていない、無責任なものだったのですけれども、その後の与野党の協議になって、被保険者期間の延長という目標を同時に目指そう、そのために必須となる財源調達の議論を与野党で一緒に建設的にやっていこうという方向にまとめられていって、要するに、与野党の共同提案の修正案の中で、附帯決議には、45年とすることについて、基礎年金の国庫負担の増加分の財源確保策の検討を速やかに進めるという文言になっています。共産党は外れるのですけれども、それが与野党のみんなの賛成ということになっているので、この辺りのところは、野党にも念を押してもらいながら、政治の足並みをそろえてもらうことを、年金局の事務も、これから先、頑張ってもらいたいと思います。そうでないと、仕事がしづらくなる。この辺りのところで、足並みをそろえて、しっかりと基礎年金の国庫負担の増加分のことは速やかに検討を進めるということでありますので、よろしくお願いします。

 以上になります。

第11回会議(2023年12月26日)

(1)国民年金における育児期間の保険料免除について

○権丈委員 6月の第5回年金部会でこの問題を扱ったとき、制度設計は難しいと言っていて、あのときは難しいとしか言っていなかったわけですけれども、やはり難しいですね。

 国民年金の場合だけ、財源としては支援金を使うわけですね。支援金は再分配政策の財源であって、一般論として、この再分配政策について言っておくと、この話は4月に開かれたこども未来戦略会議の第1回で話したことですが、再分配政策は薄く広く負担してもらうために、受益者よりも負担者の数が圧倒的に多い政策なのです。人間は価値を感じることには喜んでお金は出すのだけれども、出したお金の使途に納得がいかないときには革命さえ起こす生き物だ。再分配政策は費用負担者の意向を酌み取って、受益者はもちろんなのだけれども、そして、できれば協力者として支える人たちの満足感高揚を高めるような制度を設計する工夫の余地がある、極めて政治の力量が強く問われる政策なので、大いに頑張ってくださいということをこども未来戦略会議の第1回で話しているわけですが、人間は経済学が想定するような利己的な存在ではなくて、むしろ、再分配とか贈与によって効用が高まる生き物のようなのですけれども、その変化する高揚の行程は給付設計の在り方に依存すると見ています。

 私としては、こども・子育て支援は多くの人が進んで、1口と言わずに何口も、もっと言えば、多くの人たちが遺産を寄附したくなるような給付設計にできるとは思うのだけれども、政治家が陳情を聞いて得票率極大化行動の下に決めていく給付の在り方は、恐らく費用負担者が進んでお金を出してもよいと考える給付の在り方とは違う。そこを調整していくのが官僚の仕事だと私は位置づけているわけですが、制度設計で皆さんが関与することができる側面では、最近では年金でも年収の壁支援強化パッケージとかという形で、年金局そのものがなかなか関与することができないわけですけれども、これからも頑張ってください。

 そして、今日、いろいろな意見、不公平とか、いろいろな意見が出てきたわけですけれども、これはある決まった方向性で今日は提示されているわけですが、これからいろいろと検討していく余地、そして、皆さんが関与することができる側面では、ぜひとも今日の意見を反映させた形で、みんなが進んで財源を協力したくなるという世の中の人たちの社会適合性を高めるような再分配制度をしっかりつくってくださいというエールを送って終わりたいと思います。

 以上です。

(2)標準報酬月額の上限について

○権丈委員 3点ほど。

 今は、年金は平均標準報酬月額の倍数基準で、医療は被保険者の割合基準で行われているわけですけれども、どのくらいが妥当か、ちゃんとワークしているのかどうかという、妥当かどうかの判断は資料の12ページとか13ページの割合基準で見ることになりますので、医療にそろえて被保険者の6%とか5%というようにしてもいいと思います。

 そして、総報酬制における賞与への保険料賦課の在り方が相変わらず事業主による保険料負担節約というふうに読まれていいようなことが起こってくるわけですが、ニュートラルになる方法にするのは当たり前で、今の制度は2003年から賞与を加えることになったときに、年収ベースにするのは当たり前だと思っていたのだけれども、各種インフラも整備されていなかった状況下で急いで取られた簡易方式、暫定的な制度と理解しておこうと思います。20年たった今、当然変わるものと期待しております。

 3つ目になりますが、その上で一人一人の年金給付に反映される標準報酬月額以上の月額のある一定の幅の人たちに年金保険料を賦課して、その財源を高在老改革の財源に用いたいとは思っています。高在老をなくすには規模が要するに届かないわけですが、そのために使う。頑張っていけば届くかもしれないけれども、高在老はみんながおかしな制度だ、賃金だけが対象となるなど不公平な扱いだとみんな思っているのですが、この前も言いましたように、この層の人たちは働き続けます。だから、労働経済学者が就労に悪影響を与えているかどうかを検証していっても、これは結果が出てきません。

 だけれども、みんなおかしな制度だと思いながら泣き寝入り状態なわけです。この泣き寝入りはなかなか検証できない。そうした問題を高所得者たちが高所得者の所得で解決して、Work longerという高い優先順位とインセンティブが両立して、長く働こうとしている人たちへの現在のペナルティーを消していくことに優先的に使っていくことが考えられる。これは保険料が全部、自分の給付の算定基礎になるわけではない意味では一種のベンド方式になるわけですが、高在老というゆがんだ制度を政治に求められて過去につくってしまったから生まれた経路依存的な日本型ベンド方式という形でこれから標準報酬月額の基準を考えていくときには、この観点も私の中では考えていこうかなと思っております。

 以上です。

第10回会議(2023年12月11日)

○権丈委員 今回は、前回に引き続きということなので、資料2の「これまでの年金部会における主な御意見」をベースに話をします。

 まず、拠出期間の延長だけれども、これがいいか悪いかというのは、2013年に国民会議が開かれていて、その後の年金部会というところで大体議論は終わっているなというのがある。ただ、それが実現できるかどうかというのは、要は国庫負担ですね。しかもかつての基礎年金への国庫負担引上げ問題などとは違って、今すぐ必要でない財源をどのように確保していくかという、これは極めて難易度の高い問題なのですね。したがって、かつてよりも強固な社会保障・税の一体改革の枠組みが必要なんだけれども、社会保障・税一体改革をやっていく上での一方が、それは難易度が高過ぎるからといって、はしごを外したら、それは相手は怒るよなというのがある。

 ということで次に続くわけですけれども、マクロ経済スライドの調整期間という名前の厚生年金と国民年金の積立金を通じた一元化の話ですが、この話は、私の専門は政治経済学なのだけれども、政策形成過程に焦点を充てる政治経済学という俯瞰的な観点から見れば、国庫負担という財宝を奪ってきて、労使みんなで山分けしましょうというのと似た話になる。そうした観点から見れば、前回の小野委員による、かつて会計検査院が、年金制度の仕組みが給付水準の調整を進行させずに現在の状況を招いたと指摘したという発言は、かなり重要な発言なのですね。しかし、そうした核心的な話は資料2からは外れている。

 そして、この話は今日の資料にもあるとおり、基礎年金の給付水準や再分配の必要性に焦点を充てて議論をスタートせざるを得ないのだけれども、その延長線上には、普通に考えれば、生活苦に陥っていない人たちのクローバックの話が出てくる。しかし、そうした話も前回は意見としていただいたことにはなっていない。年収の壁・支援強化パッケージというものがいい制度だと説明しているという話も聞きますけれども、もしかすると、よそからお金を持ってきたのだからいいじゃないかという文化があるのかもしれないのだけれども、政府の1部局が庭先を掃いて、はい、きれいになりましたということにはならないのではないかというのが私のベースにある。

 ということで、前回と同じ発言に近いことを話すわけで、若干省略しながら話しますが、調整期間の一致というのは、積立金を用いた給付水準の調整と言われているわけだけれども、これは露骨過ぎるということで、名前を調整期間の一致に変えていった。これは、物は言いようというか、フレーミング効果といいますか、結構うまく行っている。それを気に入った新聞記者たちがよく報道するようになっているんだけれども、この前も話しているのですが、全く意見に入っていないので、もう一回言っておくと、どうしてこの調整期間の一致が必要なのかという話を突き詰めていくと、貧困とか基礎年金だけに頼っている人たちの生活苦とか格差とか再分配の強化という話に行き着いていきます。あるいは、そこからスタートせざるを得ない。

 ここから先、そこからスタートしていった話が、つまり基礎年金の給付水準に焦点を充てて、この改革を進めていくと、いつの間にか、今、この年金部会の委員とか、今日の年金部会のフロアにいる記者たち、みんなへの国庫負担が増えていく話になる。そして、基礎年金の給付水準が高くなっていくということになっていく。これは日頃から財政のことを考えている人たち、私も結構そのタイプなのですけれども、彼らからは、じゃぁ、常日頃から基礎年金に定率で入っている国庫負担を、基礎年金だけで生きていない人たち、基礎年金が下がったからといって生活苦になっていない人たちからクローバックで戻していいですねという論を突かれてきたときに、何て答えるかというのがあり、私は答えるのはなかなか難しい。

 だから、この前、そういうクローバックを考えている人たちから見ると、カモがネギを背負ってやってきたように見えるという話をしたわけですけれども、これはこの路線からいくと反論するのは難しいなというのがあって、そういうふうにならないように拠出期間の45年というのは、40年のままはおかしいねというスタートとか、あるいは適用拡大をしっかりやっていこうとか、あるいはマクロ経済スライドをフル適用していこうというような、制度そのものの本体の弱点から、この論を攻めていって、最終的に結果として国庫負担が増えていくことになるけれども、その点に関しては一緒にみんなで、この難易度の高い問題を検討していこうというのが、ずっと続いてきていた議論ですね。

 ところが、前の年金局長ぐらいのところから話が変わってきて、基礎年金への国庫負担というのは義務的経費なのだから、こっちの年金側で調整していったら自動的に国庫負担が上がっていくのだから、その国庫負担の議論はほぼしなくてもいいという議論になっていくと、これは社会保障・税一体改革のときの蜜月といいますか、厚労、財務の双方が相手を利用しながらうまくやっていこうという戦略的互恵関係というのはどこに行ったのかというぐらいに対立していくことになる。両者の信頼関係が崩れていっているわけですけれども、一体改革の精神を放棄するような話をし始めていった年金局に責任があるなというのは、この前、話していたことです。

 ということで、今日も何度も出ましたけれども、財源と給付を一体的に考えていく一体改革の精神というものをしっかりと考えていくことが重要なわけであります。これまで年金のほうでやらなければいけなかったけれども、やることができなかった、政治の壁があるからといってできなかったということは、今回はこれをしっかりとやっていかないことには、年金局は結構そっぽを向かれるよというのがありますね。

政治経済学では、アジェンダーセッターという会議を回す権限を持っている人たちが力を持つという、自分たちの思う方向に事態を進めていく力を持つということが言われているわけですけれども、年金部会の進め方というのも政治経済学の研究対象として、私は興味深く眺めておりますので、頑張ってくださいということになります。

 以上、よろしく。

第9回会議(2023年11月21日)

○権丈委員 今回は、前回に引き続きということなので、資料2の「これまでの年金部会における主な御意見」をベースに話をします。

 まず、拠出期間の延長だけれども、これがいいか悪いかというのは、2013年に国民会議が開かれていて、その後の年金部会というところで大体議論は終わっているなというのがある。ただ、それが実現できるかどうかというのは、要は国庫負担ですね。しかもかつての基礎年金への国庫負担引上げ問題などとは違って、今すぐ必要でない財源をどのように確保していくかという、これは極めて難易度の高い問題なのですね。したがって、かつてよりも強固な社会保障・税の一体改革の枠組みが必要なんだけれども、社会保障・税一体改革をやっていく上での一方が、それは難易度が高過ぎるからといって、はしごを外したら、それは相手は怒るよなというのがある。

 ということで次に続くわけですけれども、マクロ経済スライドの調整期間という名前の厚生年金と国民年金の積立金を通じた一元化の話ですが、この話は、私の専門は政治経済学なのだけれども、政策形成過程に焦点を充てる政治経済学という俯瞰的な観点から見れば、国庫負担という財宝を奪ってきて、労使みんなで山分けしましょうというのと似た話になる。そうした観点から見れば、前回の小野委員による、かつて会計検査院が、年金制度の仕組みが給付水準の調整を進行させずに現在の状況を招いたと指摘したという発言は、かなり重要な発言なのですね。しかし、そうした核心的な話は資料2からは外れている。

 そして、この話は今日の資料にもあるとおり、基礎年金の給付水準や再分配の必要性に焦点を充てて議論をスタートせざるを得ないのだけれども、その延長線上には、普通に考えれば、生活苦に陥っていない人たちのクローバックの話が出てくる。しかし、そうした話も前回は意見としていただいたことにはなっていない。年収の壁・支援強化パッケージというものがいい制度だと説明しているという話も聞きますけれども、もしかすると、よそからお金を持ってきたのだからいいじゃないかという文化があるのかもしれないのだけれども、政府の1部局が庭先を掃いて、はい、きれいになりましたということにはならないのではないかというのが私のベースにある。

 ということで、前回と同じ発言に近いことを話すわけで、若干省略しながら話しますが、調整期間の一致というのは、積立金を用いた給付水準の調整と言われているわけだけれども、これは露骨過ぎるということで、名前を調整期間の一致に変えていった。これは、物は言いようというか、フレーミング効果といいますか、結構うまく行っている。それを気に入った新聞記者たちがよく報道するようになっているんだけれども、この前も話しているのですが、全く意見に入っていないので、もう一回言っておくと、どうしてこの調整期間の一致が必要なのかという話を突き詰めていくと、貧困とか基礎年金だけに頼っている人たちの生活苦とか格差とか再分配の強化という話に行き着いていきます。あるいは、そこからスタートせざるを得ない。

 ここから先、そこからスタートしていった話が、つまり基礎年金の給付水準に焦点を充てて、この改革を進めていくと、いつの間にか、今、この年金部会の委員とか、今日の年金部会のフロアにいる記者たち、みんなへの国庫負担が増えていく話になる。そして、基礎年金の給付水準が高くなっていくということになっていく。これは日頃から財政のことを考えている人たち、私も結構そのタイプなのですけれども、彼らからは、じゃぁ、常日頃から基礎年金に定率で入っている国庫負担を、基礎年金だけで生きていない人たち、基礎年金が下がったからといって生活苦になっていない人たちからクローバックで戻していいですねという論を突かれてきたときに、何て答えるかというのがあり、私は答えるのはなかなか難しい。

 だから、この前、そういうクローバックを考えている人たちから見ると、カモがネギを背負ってやってきたように見えるという話をしたわけですけれども、これはこの路線からいくと反論するのは難しいなというのがあって、そういうふうにならないように拠出期間の45年というのは、40年のままはおかしいねというスタートとか、あるいは適用拡大をしっかりやっていこうとか、あるいはマクロ経済スライドをフル適用していこうというような、制度そのものの本体の弱点から、この論を攻めていって、最終的に結果として国庫負担が増えていくことになるけれども、その点に関しては一緒にみんなで、この難易度の高い問題を検討していこうというのが、ずっと続いてきていた議論ですね。

 ところが、前の年金局長ぐらいのところから話が変わってきて、基礎年金への国庫負担というのは義務的経費なのだから、こっちの年金側で調整していったら自動的に国庫負担が上がっていくのだから、その国庫負担の議論はほぼしなくてもいいという議論になっていくと、これは社会保障・税一体改革のときの蜜月といいますか、厚労、財務の双方が相手を利用しながらうまくやっていこうという戦略的互恵関係というのはどこに行ったのかというぐらいに対立していくことになる。両者の信頼関係が崩れていっているわけですけれども、一体改革の精神を放棄するような話をし始めていった年金局に責任があるなというのは、この前、話していたことです。

 ということで、今日も何度も出ましたけれども、財源と給付を一体的に考えていく一体改革の精神というものをしっかりと考えていくことが重要なわけであります。これまで年金のほうでやらなければいけなかったけれども、やることができなかった、政治の壁があるからといってできなかったということは、今回はこれをしっかりとやっていかないことには、年金局は結構そっぽを向かれるよというのがありますね。

政治経済学では、アジェンダーセッターという会議を回す権限を持っている人たちが力を持つという、自分たちの思う方向に事態を進めていく力を持つということが言われているわけですけれども、年金部会の進め方というのも政治経済学の研究対象として、私は興味深く眺めておりますので、頑張ってくださいということになります。

 以上、よろしく。

第8回会議(2023年10月24日)

○権丈委員 今回も大変な資料の作成、お疲れさまです。
 そして、先週見たときにはかなりバージョンアップしていて、いい感じだと思います。
 今回は高齢期における年金制度ということで、幾つもの話が関わってくるわけですが、まずは年金とその上位に位置する社会全体との関係を話したいと思います。社会全体としては日本の高齢期の人たちの若返りというのがありまして、彼らを社会にインクルージョンする意味もあって、ワークロンガーというのが高い優先順位で掲げられています。そして、日本の年金というのは、長く働き、繰下げ受給をしていくと、受け取る年金額が上がる仕組みにとうの昔になっています。ところが、こうした仕組みの中で高在老というのが矛盾した存在になっている。

 私は2年前の年金学会でその辺りに触れて、ワークロンガー社会では受給開始時期の自由選択制を徹底させる必要があり、それは負担の能力に応じるけれども、給付段階では負担能力を問わない、所得は見ないという社会保険の基本的な考え方を貫けばいいということを話して、高在老とか加給年金の廃止というのは最も優先順位が高いと話しています。

 加えて、高在老は令和元年の年金部会の議論の整理にあるように、「支給停止の対象というのは厚生年金の適用事業所で働く被保険者及び70歳以上の者の賃金であって、自営業や請負契約、顧問契約で働く収入や不動産収入を有する者等は対象にならないといった就業形態の違いによる公平性の問題も存在し、この問題は年金制度だけで考える限りは解決できない」。つまり、税とかいろんなものを考えていきましょうという指摘もあるわけで、高在老というものは他国でもやっていないことを日本がやっているからといって、全く誇れる話ではない。早く終わらせましょうという話です。

 しかし、高在老を廃止しようとすると、前回にそれを試みたときのように、野党の山井さん辺りが高所得者優遇だと独特のパフォーマンスつきで国会で大騒ぎする。面倒だけれども、次もきっとそうなる。

 そして、今日の議題に上がっているマクロ経済スライドの調整期間の一致の話の世界では、なぜ調整期間の一致が必要なのかと問い続けていくと、再分配の強化が必要だという話になっていく。今後の年金改革のロジックとして、再分配の評価辺りでどこか矛盾していないかというのがある。

 調整期間一致の話は、以前は「積立金を用いた給付水準の調整」と言われていたわけですが、さすがにそれではちょっと露骨過ぎるということで、支持は得られないだろうと考えられたのか、あるときから「調整期間の一致」という呼び名に変わって、それはフレーミング効果もあって、これを気に入った新聞記者たちがよく報道するようになってきています。でも、どうして調整期間の一致が必要なのかという話を突き詰めていくと、貧困とか基礎年金だけに頼っている人たちの生活苦とか格差とか再分配の強化という話に行き着いてしまうのです。

 ここがこの話の面白いところですけれども、調整期間の一致の話は、基礎年金の給付水準に焦点を直接当てて、それが低過ぎるからというところからスタートして、この改革を進めると、今、この年金部会の委員とか、今日も年金部会のフロアにいる記者たちへの国庫負担も増えて、基礎年金の給付水準が高くなっていく。これはディフェンスに弱い、隙があるロジックであるように私には見えるのです。世の中には財政のことを日々考えている人たちも大勢いるわけで、彼らは常日頃から基礎年金に定率で入っている国庫負担をクローバックできないかと考えているわけです。彼らからはマクロ経済スライドの調整期間の一致の話というのは、鴨がネギを背負ってやってきたように見えるわけで、彼らが今日の会議に参加している人たちの中の高年金者へのクローバックも当然やるのですよねと言ってきたら、どう反論するのだろうかというのがあります。

 年金部会の第3回目で、私たちが社会保障・税一体改革の頃から今まで被保険者期間の延長とか適用拡大を言っていたのは、クローバックをどうブロックするかというところが視野にあって、向こうが論点として文句を言えない論をずっとつくっていったという話をしましたけれども、今の状況を見ると、まあ頑張ってねという世界になりますかねというところです。

 そして、そもそも最近の年金局と財務の様子を見ていると、かつての社会保障・税一体改革のときの蜜月といいますか、互いに相手を利用して双方の目的を達成しようといった戦略的互恵関係はどこに行ったのだろうかと、見ていて寂しい思いがしています。

 両者の信頼関係が崩れていっているのは、一体改革の精神を放棄するような話をし始めていった年金局にも一因があるのではないかと思っています。もう少し仲よくしてくれないと医療とか介護が本気でやられてしまうという危機感もあります。

 どうして積立金を混ぜて基礎年金の給付水準を上げようという話になっていったのかという本当の理由が実は表に出ていないから、おかしなロジックをつくらざるを得なかったのだろうなと思っています。今日はこの調整期間に関して連合と経済界がどういうふうに言うかというのを楽しみにしていたのですが、従来の意見を続けているという形で、あまり誰も支持していないという状況で、そうなれば、困るのは年金局なのだよなというのがあります。

 令和2年年金改正の附帯決議に基礎年金国庫負担の増加分の財源確保策について書かれているのは、加入期間の延長に関してです。今、全世代型社会保障構築会議とかこども未来戦略会議とかいろんなところで言い続けているのですけれども、財源と給付を一体的に考えていた一体改革の精神を忘れるなということで、一体改革に沿う2013年の社会保障制度改革国民会議から続く論というのは、基礎年金の拠出期間の延長、1号から2号へ等にアジェンダを置いて、年金改革のほうで汗をかいて進める中で将来の基礎年金の水準が自ずと上がり、その際、国庫負担増加分の財源確保策について明示的に検討を進めるというものだったのです。この角度からのほうが論のベクトルの方向性はそろっているように思います。

 最後に、一体改革の頃からマクロ経済スライドの見直しは一貫して言われ続けて、令和2年の年金改革では野党がマクロ経済スライドの見直しの完全放棄を求めたのですけれども、与党は踏みとどまって、何とかマクロ経済スライドのフル適用の意味を含んでいるような文言を残すことはできています。不確実な将来に向けたリスクマネジメントの観点からも、そしてキャリーオーバー実行時のショックを緩和するためにも、今日も大勢の人たちが言っていたように、インフレに入った今だからこそ名目下限措置の撤廃というのは、次の改革の中に入れていいのではないかと思っています。

 以上です。

第7回会議(2023年9月21日)

  1. (1)第3号被保険者制度について

  2. (2)女性の就労の制約と指摘される制度等について
    いわゆる「年収の壁」等)

○権丈委員 まず、玉木委員がおっしゃっていた話で、結婚の安定性が前提とされている。3号を選んでいったら、結婚の安定性というものは昔と比べて今は随分と壊れてきているところがあるので、3号を選んでいくと、将来というのは結構きつい状況になっていきます。夫のほうもきつい。そういうことも日頃私は言っております。

 3号のほうから始めますけれども、この国には応益負担の原則で設計されている第1号被保険者と、応能負担・必要給付の原則で設計されている第2号、第3号被保険者を混合して公的年金を動かしています。社会保険のあるべき姿は応能負担・必要給付原則であって、第1号被保険者の原理、応能負担ではありません。第3回年金部会では、異質なのは第3号ではなく、第1号にあると言ったのはそういう意味です。所得保障制度としての第3号への批判というのは、応益負担の原則の観点からのものになります。

 これに限らず、公的年金には昔からとんでも論がつきもので、私は「ヒューリスティック年金論」と呼んできたわけですが、ヒューリスティック、つまり、人間が認知バイアスに陥る原因の一つに「代表性ヒューリスティック」というのがあります。代表性ヒューリスティックとは、目の前の現象を自分が知っている身近で代表的な例に当てはめて理解する認知バイアスで、公的年金への批判、とんでも年金論の多くは、社会保険という制度を理解できないままの人たちが民間保険の例に置き換えて批判するものになります。以前はやっていた世代間格差に関する騒ぎも民間保険の在り方をそもそも本来の姿と考えた代表性ヒューリスティックでした。

 3号批判も、さきに言いましたように民間保険の原則、給付・反対給付均等の原則、応益原則に基づいた批判はできます。ただ、応益原則を社会保険の一般原理にするというのならば、女性の保険料を上げるべしとか、いろんな話が出てくることになる。

 しかし、今、この部会で話し合っているのは公的年金なんですね。その意味で、2001年頃の「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」の報告書を読み返しますと、あの頃の榮畑年金課長というのは、思いのほかといいますか、なかなか公的年金と私的年金というのをよく理解しているのを実感できますねというのがある。

 ただし、気になるのは、年金局の昔からの資料に第3号被保険者の保険料は被保険者保険全体で負担すると書かれているわけです。今回の資料にもあります。これは応能負担・必要給付の原則から見れば正しくない表現で、ヒューリスティック年金論を加速してきた表現だったと思います。応能負担・必要給付の原則で描かれたスライド7の図をじっと見てみると、第3号の保険料は配偶者が負担しているというふうに言わざるを得ない。と言っても、厚労省がかつては「積立方式は少子化の影響を受けない」と書いていたのを修正を図ってきた歴史もあるわけですが、これと同じように、「被用者保険全体で負担している」という文言についてもしっかりと再考しておいてもらいたいと思います。今日もそういう発言がハーフに対する批判のところで飛び出していたりもしたわけですけれども、スライド7をじっと見ることですねということです。

 もう一つは、いわゆる「年収の壁」のところで1つの質問とコメントということで、いわゆる「年収の壁」のために雇用保険から助成金が出されるということが報道されているわけです。財源が雇用保険だから年金部会の話題ではないのでここでは触れない、そういうロジックは育児休業を議論する場でも使われるので、その点はよしとしましょう。しかし、あの話は年金の制度設計の話でもある。ということで、今、言われているいわゆる「年収の壁」対策に関して年金局はどのような評価をしているのかというのを後ほど課長に答えてもらいたいと思います。しばらく考えておいてください。

 今、壁の話をしますけれども、一部の政治家と野村総研がタッグを組んで、一部の企業に補助金を出すために仕掛けてきたいわゆる「年収の壁」騒動には何もしなくてもいいというのは、この騒動の初めからずっと言っています。構築会議の報告書に書いているように、広報をしっかりとやり、ある方面から発信される情報をうのみにして、壁だ、壁だと報道するメディアへの教育をしっかりとやっていくということが重要になります。

 就業調整と言われているものの多くは、制度を知らない学者やエコノミストたちが壁だと騒ぎ立てて、それを信じたメディアによる報道を信じた人たちの間で起こっている側面が強く、私はこれを「予言の自己実現」と呼んできたわけですが、今日は、あれは壁ではないのではないかという意見が多かったのは、さすが年金部会だなと思います。

 ただ、岸田首相が「勤労者皆保険」と呼んでいることはやり遂げなければなりません。岸田さんが言う勤労者皆保険というのは、20時間未満の1号と3号に事業主負担は免除せずに課す厚生年金ハーフを適用することです。その辺りは私の本に書いていますけれども、形の上では20時間未満に資料2の33ページで紹介されているドイツのミニジョブを適用して、事業主側から見て働かせ方に中立でない制度、労働者側から見て見えない壁をなくすこと、それが勤労者皆保険です。

 今回、いわゆる「年収の壁」騒動が起こったので、第2回年金部会で厚生年金ハーフを20時間から30時間のところにも適用したらどうだろうかと提案したわけですが、それは構築会議に書かれている報告書にある適用拡大の意義を理解してもらうための広報活動の一環としてやるということです。適用拡大時に元1号は手取りが増えることになるので対象とする必要はないです。元3号に厚生年金ハーフを適用するのだから、財政のバランスも取れている。

 社会保険の元祖であるドイツで事業主負担のみを課しているミニジョブがこの案の発想の源なのですけれども、あの国はハーフのところに事業主に割増し保険料を課したりしていますが、そこまで求めなくても短時間・低賃金労働者への需要は自然に減っていくと予測しています。

 そして、医療保険との整合性は少し考えれば簡単にとることができる。それもほかのところでも論じているので、そういう形で、資料の23ページに書いてあるようないろんな注意点というのはクリアした、考えた上で、厚生年金ハーフは最初から発言しているということです。

 簡素で分かりやすく、中立的な制度設計というのがあるのですが、新税はなんであれ悪税と呼ばれて、新税は誰も理解できなくて悪税になっていくのですけれども、簡素で分かりやすくというのは、一番の方法はほとんど使い慣れたものを変えないことです。ほとんど変えないでマイナーチェンジをしていくということであって、それは今ある制度、元3号だった人のところに蓋をぽんとつける、厚生年金のハーフをつけるというだけの話で、ただ、もともと社会保険というのを勤労者皆保険という、岸田首相たちが言っていたのは、20時間未満のところにそれを適用するということです。今は政府の方針として「制度の見直しに取り組む」となっているので、20時間から30時間に元3号を対象に厚生年金ハーフを載せる。もし就業調整をしようと考えている人がいたら、月額8.8万円という適用基準――法律上は8.8万円しかないのだけれども、適用基準の意味を伝え、かつ年金局がつくっている公的年金シミュレーターを使って厚生年金フル、厚生年金ハーフ、就業調整の3パターンの将来の年金受給の確認を義務づける。その目的に沿った様式に公的年金シミュレーターをバージョンアップしていく。要するに、広報活動なのです。しばらくしたら、これはやめていくという制度です。

 そういう労使で負担を分ける、使用者は負担して労働者は免除するというのは社会保険の元祖であり、ドイツがミニジョブで昔からやっているわけですけれども、こうした案の合理性を理解するには、今の制度をちゃんと理解する必要があるわけです。相変わらず某日経新聞などの年上の編集委員とかが、自分で勝手に年金制度設計、ハーフを設計して、それはおかしいと言っているけれども、そこに書かれていることは僕が考えていることと全然違うものだと映るわけですが、制度に関する基礎的な理解を促す広報活動を年金局にはしっかりとやってもらいたいと思っています。

 そして何よりも、小野委員、是枝委員も言っていたように、20時間未満のところに事業主負担の免除があるという制度を何とかしていく。それをやるならば是枝委員の言う案でもいいし、私の言う厚生年金ハーフでもいいし、それは徹底的にやってもらいたい。つまり、政府が掲げている「所得の低い勤労者の保険料は免除・軽減しつつも、事業主負担は維持する」という勤労者皆保険を実現していくように年金局にはお願いしたいと思います。

 ということで、先ほどの質問について答えをお願いしていいですか。よろしく。

○菊池部会長 どうぞ。

○年金課長 ちょっと音声が曇っているところもあり、きちんと受け止められているかどうかですが、「年収の壁」の問題についての局としての評価というか、受け止めをお尋ねになったのかなと思っております。

○権丈委員 「壁」に対する雇用保険からのお金を出していくということの見解。

○年金課長 はい。この点について今日は説明を省いており、一部報道されている話ですが、資料2の32ページになります。これは今年6月に「こども未来戦略方針」として閣議決定したもので、下に「いわゆる『年収の壁』への対応」について記載があります。この問題については、まずは被用者保険の適用拡大、あるいは最低賃金の引上げに取り組むというのが大前提で、その上で昨今の人手不足への対応が急務となる中で、当面の対応ということで、労働時間の延長や賃上げに取り組む企業に対して必要な費用を補助する支援強化パッケージを決定することとしております。

 これに基づいて現在、具体的にどういう企業に対して、何を財源としてどういう助成を行うのかといった内容を検討中です。もう少し言いますと、その後、総理から9月中にこの支援パッケージを決定するという発言がありました。現時点でまだ決定に至っておらず、今回は資料としてお出しできていませんが、まとまりましたら先生方には送付という形で報告させていただきます。

 以上です。

○権丈委員 ありがとうございます。

第6回会議(2023年7月28日)

○権丈委員 今日の議題は、昔は仕方なかったとしても、今の若い人たちから見ると、もう全く笑いの出るような話で、改革は当たり前なのですけれども、改革の最大の障害は、世の中の関心の薄さゆえに、制度を動かしてくれる政治家がいないところにあると思っています。

 その辺りは、どれだけ効果があるか分からないけれども、この年金部会で繰り返し大いに議論して盛り上げていくと同時に、年金局は、雇均局とか男女共同参画局にも、あまりおかしな方向を向いていないで、こっちのほうを向いてくれと声をかけて、協力を求めていくことが大事ではないかと思っています。

 将来的には、遺族年金の男女平等化、そして有期化、子供のところははじめから有期ですが、配偶者の有期化。

 そして、有期なのだから、今ある支給停止、失権規定という実にうっとうしいルールは全部なくす。

 加えて、繰り下げ受給に物すごい悪影響を与えている加給年金というのは、女性の特老厚の年齢の引上げとともに、この制度の矛盾が、これから加速していくわけですね。加給年金の改革は、時間との戦いでもあります。問題は、どのように改革していくかに絞られていると思っている。

 昨年末の全世代型社会保障構築会議の報告書のキーワードの1つに、時間軸というのがあります。この言葉は、第2回の会議での、「政策を考える際には、コーホートでビヘイビアが全く変わるのだから、時間軸を持って考える必要がある。例えば、遺族年金は、現在、受給している人たちに影響を与えることなく、将来のコーホートに最適な制度に向けて、20年ぐらいかければ、移行を完成することができる」という発言の中で出てきます。

 要するに、時間軸をもって20年かければ、不利益変更という批判をかわしながら、20年後のコーホートに最適な制度に移行することができる事例として、遺族年金の話を私はしているわけです。

 遺族年金について言えば、共働きというのは一種の所得保障のための保険制度になっているわけで、共働きが増えていくと民間の生命保険需要が減っていくし、遺族年金への需要も小さくなります。

 共働き世帯にとって遺族年金は終身である必要はなく、子供は別ですけれども、ほかにもある様々な理由から、今や配偶者の遺族年金は有期であることが重要になってきている。

 有期であれば、家族形成の判断にわずらわしい影響を与えている今のルールをなくして、配偶者にも子供にも、家族形成に中立である制度に変えることは簡単にできるし、この段階で有期になったところで所得制限もなくしていく。社会保険の中で、あそこに妙な所得制限が入っているんですね。

 もっとも、この国は労働市場での男女差が今もあるから、これが遺族年金改革の足を引っ張っている側面はある。だから私が長く言っていることは、20年後の改革の遺族年金の完成形を年金サイドから労働市場に先に示す。そして、労働市場の改革を促す。

この方法は、2000年改革の支給開始年齢の引上げのときにやったわけですけれども、年金が労働市場の改革を促していく方法を取っていくこと、要するに20年後の完成形を先に示すこと自体が重要になる。

 幸い前回の年金改革では、与野党共同提出の修正案が共産党を除いた与野党賛成で成立しているので、年金周りの政治は大分静かに鎮まってきているということで、もしかすると、年金局が持っているエネルギーを、この問題に割くことができるかもしれない。ただ、政治力学的には、改革の牽引者がいないという難易度の高い領域の話なので難しい。だけれども、意味のある仕事なので、時間軸を持ったコーホート戦略で労働市場の改革を促しながら、今の若い人たちから見れば、全くばかばかしい制度の改革を成功させることを、年金局の人たちに強く期待していますということで、終えたいと思います。

 以上です。

第5回会議(2023年6月26日)

○権丈委員 将来のために言っておきますと、これは結構難易度が高い問題だということです。これまでの議論の流れからいくと、厚生年金被保険者のように明確な休業が発生しない第1号被保険者に対しても、次世代育成支援という観点から、厚生年金に類する制度を創設することになるのは理解できます。ただ、そうした制度を19ページにある図1に見るような様々な第1号被保険者の人たちのために創設することは難しいです。ここでドイツやフランスの話も出ましたけれども、ドイツやフランスは第1号被保険者に新しい制度をつくる話とは関係がないです。これは厚生年金の世界ですので、国民年金の実施を政治から求められたときに、小山進次郎さんが「我々役人の小ざかしい思慮や分別を乗り越えて生まれた制度」と言ったような側面がどうしても出てきます。仮に厚生年金に合わせて制度ができたとすると、経済学で仮定されているような合理的経済人が制度を利用する際には、出産とともに夫婦で申請することになると思うし、将来的には、役所がそうした申請を勧めなかったら裁判沙汰にさえなりかねない側面も出てくるかと思います。そうした状況は、育児休業という言葉が矛盾なく当てはまる厚生年金被保険者との間で公平性の問題が出てこないのかという心配もあるけれども、そういうものを乗り越えてつくらなければいけないということが今の課題になっているということがあります。

 もう1つ、財源の在り方としては、これまでの国民年金の産前産後期間の保険料免除分、厚生年金の産前産後期間と育休期間の保険料免除分は、それぞれの年金保険が負担していたわけですけれども、国民年金で新設される次世代育成支援策として、保険料の免除分はどのように賄うのか。筋を通すとすれば、これまでの年金保険料免除分をこども家庭庁に責任をシフトして、新たにつくられる国民年金の保険料免除分も併せて、今日配付されているこども未来戦略方針の24ページから書かれている支援金制度で賄う方法がすっきりとするのですけれども、多分そうはいかないと思います。そうなれば、新しくつくられる制度と既存の制度を、整合性を持ってどのように説明していくのかは、かなり難問になりますので、今、そういう難問に取りかかっているということを、フロアにいるメディアの人たちに御理解いただいて、将来的に、きれいな制度ができないからといって、あまり批判をしないほうがいいと思います。

 以上。

第4回会議(2023年5月30日)

○権丈委員 僕は手を挙げていなかったけれども、先ほど私の名前がでてきたこともありますので、発言しようかなというのがあります。こうした会議では、発言しなければいけない人たちにまず発言してもらおうというのが姿勢としてありまして、手を挙げてなかったんですけどね。

 資料2の「次期制度改正に関する主な検討事項(案)」についても発言していいですか。

 前回、原委員から加給年金について、そして、原委員と島村委員から遺族年金についての詳細な説明がありまして、私は2人の意見に賛成するという意見を述べたので、「家族と年金制度の関わり」のところに、最初に遺族年金があるけれども、その次に加給年金を置いてもらいたいと思います。

 一昨年の2021年の「年金学会シンポジウム」でも、遺族年金と加給年金の改革が、これからのなすべき年金改革の最優先に位置づけられていました。「加給年金は、可及的速やかに改革をすべき」と言って滑っているのもいましたけれども、年金に詳しい人たちは、大体遺族年金と加給年金をしっかり改革していくのは、次の課題であるなというのが落ち着いている話です。いわゆる「年収の壁」とかを年金部会で話し合うのは、素人丸出しでちょっとあれだなというのもあるのですけれども、いろいろ年金局の事情もあるのだろうからと思いますが、年金部会が持つ限られた時間を効率的に使うという目的を掲げるとすれば、遺族年金と加給年金を最優先に置くべきではないかと思います。

 今日のテーマの適用拡大についても、コメントしておきますと、適用拡大は、本当に政治力学を学ぶ上でのよい教材になるわけですが、この種の議論をする際に、2つのアプローチが考えられます。1つは、次の一手をどうするかというアプローチがある。これまで取られてきた適用を、どの範囲まで拡大するかという2004年前夜から取られてきた手法はこれです。もう一つのアプローチは、目指すべきゴールを先に描いて、それに向けて、みんなで時間をかけて努力していこうというアプローチになります。

 今回は、全世代型社会保障構築会議の報告書がベースになっているので説明しておくと、この報告書は後者のアプローチを取っています。資料3の12ページを御覧ください。黒い星の3つ目に、週労働時間20時間未満の短時間労働者への適用拡大が書かれています。第1段落の最後のほうに、「そのための具体的な方策について、実務面での課題や国民年金制度との整合性を踏まえつつ」とあります。これ、線を引かなければいけないぐらい大事なところですね。

 この文章は何を意味しているかを説明したいので、次に、資料3の15ページを御覧ください。最後の文章に、「20時間未満の短時間労働者について、国民年金制度との整合性等を踏まえつつ、被用者保険の適用拡大を図るためには、厚生年金の事業主負担のみを課す形にならざるを得ないのではないか」と書かれています。この発言は、この年金部会で私がしたわけですけれども、第2回会議でしたのは、議事録を見ると、「事業主負担のみを課す形になるといいますか、そうならざるを得ません」と発言しています。事業主負担のみを課す形になるように、全世代型社会保障構築会議の報告書は書かれています。20時間未満は別に被用者保険の適用拡大されていないので、1号の人は1号、3号の人は3号、その上に厚生年金の事業主負担が載るというものなので、この制度を不公平と言うのであれば、今の制度は不公平ということになるわけです。

 そういうことで、当時、昔は「1.5号」と呼んでいたけれども、全然受けもしなかったので、香取さんがあるときから「4号」と言い始めたから、この前は「ハーフ」と言って、それで、みんなの記憶に残ったかなという段階ですね。だから、20時間未満のところは、1号も手をつけない、3号をも手をつけない。ただ上に載せるというだけの話ですね。全世代型社会保障構築会議の報告書は、その事業主負担のみを20時間未満に課す形になっていて、構築会議の報告書に基づくと、事業主負担の形にどうしてもなるのですね。なるというか、そういうふうになるように書いているわけです。

 岸田内閣の下で言われている「勤労者皆保険」は、岸田さんが政調会長をしていたときにまとめていた報告書に、「所得の低い勤労者の保険料は免除、軽減しつつも、事業主負担を維持することなどで、企業が事業主負担を回避するために生じる見えない壁を壊す」と書かれています。これは、私は、第2回年金部会で話した「厚生年金ハーフ」を、20時間未満のところに適用するという話になります。だけど、ここは被用者保険を適用拡大してないのだから、国民年金1号との整合性を持って、20時間未満には適用拡大していないのだから、昔のままで被保険者による選択肢もない。全世代型社会保障構築会議の報告書では、適用拡大というよりは、適用除外規定の見直しと書かれています。つまり、被用者に対して、適用を除外している規定そのものがおかしいのであって、適用をどこまで可能なのかという、適用拡大のアプローチはもうやめていいよねという表現に似ています。

 そういう「勤労者皆保険」という目標に向かって、今の年金政策は進んでいると。そこに、事業主負担を新たに迫られる人たちが、いかに抵抗していくかというレントシーキングが展開されて、そうした状況の中で、労働市場では、本格的に労働力希少社会が始まり、労働力を獲得するために、支払余力のある企業が、適用除外規定によって守られて、言わばダンピングしているような企業に対して、容赦ない勝負を仕掛け始めているというのが現状かなと。

 そうした状況を眺めながら、年金局は、この案件を進めていくために、年金部会をどのように活用していくかを考えているだろうけれども、これまで、年金部会はあまり役に立たなかったんだよねというのがある。今回は、役に立ちたいなと思っています。

 こうした状況を理解したメディアは、どこまで弱者の人生を救えるかという課題を担っているわけですが、そういうドラマが展開されているものとして、年金回りの政治経済学的な動きを、これからも楽しませてもらおうと思っていますということで、終わりたいと思います。

 以上です。どうも。

第3回会議(2023年5月8日)

○権丈委員 2点ほど考えていたのですけれども、ほかの人の話を聞いていて4つほど加えます。

 まず1つ目、永井委員、小林委員が話をされていた在老の廃止、もういいかげんやろうよという話です。これは優先順位を高く考えてもらえればと思います。

 2点目が、島村委員が話をしていた遺族年金の改革の方向性、また原委員もお話ししていた遺族年金と加給年金の改革の方向性は、ここにいるみんなは同じ方向を向いているのではないかということと、あと、社会保険で給付時に所得を見るというのは、もうやめようというのも随分前から言っているわけですけれども、その中の部分として先ほどの遺族年金で給付時に所得を見るというのは、もうなくしていこうということも議論の対象にしてもらえればと思っております。人類のいろいろな歴史の経験の中で、見ないほうがいいというようなことはある程度分かってきているわけなので、今日は遺族年金に関していろいろ細かい説明がありましたけれども、そういうことはもうみんな議論しなくても分かっているという形で原則にのっとった形でやっていきましょうよというのがあります。

 3番目が、是枝委員が言っていた名目下限の撤廃、もういいかげんやろうよという話です。これも今まで抵抗されてブロックされていたのですけれども、やりましょうということ。

 4番目、基礎年金の話をするというのは、国庫負担をいかにもらうかという話で、今までのデフォルトの改革の方向性は、被保険者期間の延長や適用拡大というのを言ってきた。果たして再分配機能の強化という理由で国庫負担をもらえるのかというのは考えたほうがいいかなと。記者たちに私は、これほど給付水準を上げるおいしい方法はないぞ、再分配効果の強化とか貧困問題をもち出して言っておけば、君たち自身の基礎年金が増えるんだからと励ましてる。しかし、このロジックを財源負担する人たちあるいは財務省はかなり突いてくる可能性は多分にあるというのがあり、私たちが被保険者期間の延長や適用拡大を言っていたのは、クローバックをどうブロックするかというところが視野にあり、向こうが論点として文句言えない論をずっとつくっていたのだけれども、まあ、頑張ってねという世界になりますかね。

 ということで、ほか2点ほど考えていたことを言いたいわけですが、1つは、この国で問題のない年金制度を求めても無理だという話です。国民年金法が成立した1959年に当時の事務局長の小山進次郎さんは、国民年金法の解説の中に、「国民の強い要望が政治の確固たる決意を促して、我々役人のこざかしい思慮や分別を乗り越えて生まれた制度」と書いていました。無職の人を初め、所得を把握することができない人も含めて国民皆年金保険を行うということは、政策技術的には無謀なところがありました。今で言えば、仮に3号を抜きにして1号と2号から成る制度を考えても、能力に応じて負担し、必要に応じて給付を受けるという社会保険の原則に反していて、垂直的再分配がない制度が組み込まれているという問題もあって、これ自体1号と2号のところだけでも問題がある。ところが、今度は1号を抜きにして2号と3号から成る制度を考えると、社会保険の原則にあまり反していないというところもあるので、私は社会保険としての制度の歪みの根源は1号にあると考えてきました。皆年金を堅持していく、つまり1号を堅持していく限り、この国の公的年金制度はひずみが生まれます。そして、個人的には1号は堅持していくべきだと思っているので、このひずみを抱えた状況で制度を運営していかざるを得ないだろうと思っている。

 公的年金というのは、いろいろなパーツがすき間なく組み合わされてつくられていて長い履歴を持つので、最初にアキレス腱を抱えてつくられ、長年運用してきた制度を、その後どう繕っても矛盾がほかのところから顔を出します。そのひずみを正そうとすると、ほかのところで矛盾が出てくる。公的年金制度の議論は、どちらがましかという悪さかげんの比較をせざるを得なくなります。

 例えば、先日、お隣の小林さんのところの日商が3号をなくすべきと発表したという報道がありましたけれども、私には数十年前に民主党が言っていた最低でも県外と同じように聞こえる。制度を変えた先の具体的な制度を提示してもらって、その新たな制度と今の制度の間の、いわば悪さかげんの比較をした後でないと建設的な政策論をしようがないわけです。日本の公的年金というのは、政治的要請で最初から問題を抱えた制度をつくっているのですから、野党や研究者が簡単に批判することができる制度です。しかし、年金というのはそう難しい話ではないので、10分間でいいので具体的な新しい制度を心に描いて、そこにどのようにして今の制度から移っていくのか。そこで起こる問題はどういうことなのかを考えて、その方向性と今デフォルトで進められようとしている改革の方向性、例えば、適用拡大を徹底的に進め、さらには昨年末の全世代型社会保障構築会議で示された、20時間未満への厚生年金ハーフの実施によって見えない壁をなくすという方針との優劣を比較した後に発言するようにしていかないことには、かつて租税方式にしたほうがいいという人たちは試算も何もやらないまま言っていたのかということがあって、壮大な無駄な時間というか政治を疲弊させたことがあったのですけれども、そういうことにならないように具体的なアイデアと今あるアイデア、今ある制度を比較して、悪さかげんの比較をして、議論を提案したほうがいいですよというのがあります。

 2つ目ですけれども、どうしてこうも年金周りでは誤解や間違いがあるのかということを考えると、どうも時間軸が関わる話であることが原因だなというのがあります。今、話題になっている年収の壁もそうですけれども、年金という制度を医療保険や介護保険のように今年1年で閉じる制度と考えれば、あの話はそう間違いではない。しかし、年金は時間軸が入ってくる問題なんですね。労働経済学者などは所得・余暇選好場でものを考えながら、予算線の屈折を昔から壁だ壁だと言ってきたわけですけれども、その壁なるものの存在を信じてずっと壁の内側にいた人たちが今本当に幸せになっているのかは考えたほうがいい。研究者たちというのは、自分たちの言動が世の中にどのような影響を与えるかをなぜ考えないのか不思議に思うわけですけれども、人間は時間軸でものを考えるのが苦手な生き物なのだから、研究者であっても仕方がないと言えば仕方がないかなと思っています。

 例えば、3号という制度が年収の壁をつくっているのは、制度設計者たちの無責任・無能のせいであって、3号を利用できるのであれば利用したほうが得であり合理的であるというメッセージを発することがインプリシットに3号を勧めるメッセージになるわけですけれども、彼らの言う壁をもたらす制度を利用して、実は高齢期のリスクを高めて、さらには労働市場でOJTの機会も放棄して自らの潜在的な可能性を発揮しない人生選択をする人たちのほうが、時間軸の先の未来で本当に幸せなのかということは考えながら、報道からいろいろなことをやっていかないと、結構不幸を生んでいくことになるのではないかと思っています。

 私は、多くの論者が壁であると言い続けてきたことを「予言」と名づけて、その予言を信じている人たちが就業調整している姿を「予言の自己実現」と呼んできました。そして、この予言の自己実現によって人々が就業調整をしている状況をなくす必要があるという方向で全世代型社会保障構築会議はまとめられていて、加えてあの報告書には、被用者保険に加入することの意義をしっかりと伝えていく広報の重要性を強調していました。今日もそういう話が出ましたけれども、ぜひやってもらいたい。それでいいと思っています。

 かつてはやっていた世代間の格差も、時間軸を持ってものを考えることを苦手とする人間の認知バイアス上の問題があったわけですけれども、伝統的な経済学が視野に入れてこなかった認知バイアスというのは、年金の世界では特にやっかいなもので、たかまつさんから若い人たちは年金が分かっていないという話がありましたけれども、若い人たちだけでなく、年長者もみんな分かっていないです。多くの人たちが人間の認知バイアス上、年金を理解することは難しいみたいなんですね。年金局の人たちの仕事を大変にしているのは、大方人間の認知バイアスに基づいた「ヒューリスティック年金論」と私は呼んでいますけれども、そういうヒューリスティック年金論だから、人間が人間である限り永久戦争になります。ということで、最後は頑張ってくださいねという年金局へのエールで話を終えたいと思います。よろしく。

第2回会議(2023年3月28日)

○権丈委員 2点ほどです。

 2つとも構築会議の報告書関連ですので、資料2を準備していただければと思います。

 まず、資料2の2ページの1つ目の黒星に「『時間軸』の視点」とあります。

 これは、もともと去年3月の第2回構築会議で、次のような発言があったわけですが、「例えば遺族年金などは、現在受給している人たちに全く影響を与えることなく、将来のコーホートに最適な制度に向けて、20年ぐらいかければ移行を完成することができます。

 今回の構築会議では、コーホートにおける種々の変化を先読みして織り込んで、改革を時間軸の中で明確に位置づけて、これまで動かなかったものを今度こそ動かすようにしてもらえればと思っています。」

この発言が、オリジナルの時間軸の使い方です。時間軸をもって遺族年金を変えていく。

 今回の年金部会では、そうした意義のあることにしっかりと時間を費やして、遺族年金の改革を実現してもらいたいと思っています。

 2点目です。

 資料2の4ページの下から2段落目に、20時間未満の短時間労働者についても、被用者保険の適用除外となっている規定を見直し、適用拡大を図ることが書かれています。

 その下の行に「国民年金制度との整合性等を踏まえつつ」とあるわけですが、この整合性を踏まえると、20時間未満に関しては、厚生年金の事業主負担のみを課す形になるといいますか、そうならざるを得ません。

 実は、岸田総理が政調会長だったときにまとめた報告書にある勤労者皆保険、当時、彼らは勤労者皆社会保険と呼んでいたわけですが、勤労者皆保険は、20時間未満に関しては、事業主負担だけを課す制度の話でした。

 今、厚生年金の事業主負担のみで、給付は厚生年金の半分になる制度を厚生年金ハーフと呼んでおきたいと思います。

 厚生年金ハーフを20~30時間のパート労働者に当てはめて、彼らに本人負担を含めた厚生年金フルと、厚生年金ハーフを選択するという形にすれば、今騒動が起こっている、壁だと信じ切って、就業調整をしている人の問題はほぼ解決します。

 ちなみに、構築会議の報告書では、5ページの4つ目の黒星にあるように、就業調整に関しては、一層の適用拡大と被用者保険への加入の意義の広報の充実しか書いていません。

 しかし、みんなが壁と誤解して意識して、それに基づいて行動しているというのであれば、広報の充実と並行しながら、先ほど言った20~30時間のところに厚生年金ハーフを準備して、彼らに、社会保険料の本人負担分を払わないで、今の手取りを高める選択をしてもよいけれども、それは老後の貧困リスクを高める選択であることを学んでもらうことも必要になっているかと思っております。

 今から12年ほど前の2011年2~3月にかけて、運用3号という問題で世の中は大変盛り上がっていました。それがあまりにも不公平な制度であったということで、その制度の制定に関係した課長の更迭というトカゲの尻尾切りのような事件が起こりました。

 この国では、3号を優遇すると、大炎上します。そのことを分かっていない新しい人たちが永田町にも増えてきたのだろうと思って、今の様子を見ています。

 いわゆる壁と言われているものをなくすために、年金財政から補助金を出すことなど、年金局の人たちが進んで考えるわけがないのですが、報道を見れば、厚労省が前向きに動いているという話になっている。

 今日もそうした案が出てくるのではないかと、フロアの人たちは、大いに期待されているのではないかと思いますが、今言われている補助金の話は、3号は、基礎年金だけでなく、法律上は2号も3号も国民年金の保険料は免除されているわけですが、加えて厚生年金保険料の本人負担分を補助金という他の人のお金で埋めてもらって、厚生年金をフルで受け取ることができるようにするという3号への特別な優遇措置です。

 そういうことにみんなが気づいていったら、運用3号のときのように大炎上するだろうと思いますし、今度は課長ではなく、局長あたりが更迭されるのではないかと私一人で心配しております。年金局の方々は、くれぐれも気をつけながら対応していかないことには、この話はかなりやばいぞというのがあります。

 以上です。

第1回会議(2022年10月25日)

欠席

いいなと思ったら応援しよう!