公的年金に関することで選択ミスをすると、取り返しの付かない話になるために、結構辛い人生になる。たとえば、早い年齢からの繰上げ受給を選択して、長生きしてしまった場合は、後悔先に立たず、という残念な思いをすることは想像できる。
後悔するカマキリ君
先日、あるところで年金の話をしてきた(依頼は「長期給付の課題と展望」、つまりは公的年金)。後日、事務局の窓口となっていた人から、次の連絡がくる。
そこで、次の返事を送る。
ここでいう、「カマキリ君」というのは、あの日の講演の中で、「3号はお得な制度だと信じて、配偶者に3号でいることを薦めたことのある世の男性陣は、カマキリの雄が頭を雌に食べられて喜んでいるようなものだ」と話していたからである。なぜならば・・・という話を書くと長くなるので、ここでは省略しておく。
続けて、メールには次のような話も書いていた。
そうすると、上のメールへの返事が届く。
第3号被保険者周りの話というのは、そういうものである。3号は得で不公平、年収の壁、働き損、だから就業調整というような話が盛り上がっていたが、そうした話を信じて、就業調整を選択した世帯が、どういう人生を歩むことになるのか。
次は、今年亡くなられた堀勝洋上智大学名誉教授が2005年に出した『年金の誤解』からである。専業主婦の生涯可処分所得は4,719万円、継続就業の女性は2億1,109万円という、2004年の内閣府男女共同参画会議の試算が紹介されていた。今でも、継続就業の女性の所得はおよそ2億であるという試算はいくつもある。
3号はお得だという噂を信じ切っていたカマキリ君たちが将来後悔することになったとしても、私にとっては痛くも痒くもない話だが、彼らが将来、「後悔先に立たず」と思うことになり、夫婦の間が「覆水盆に返らず」となった場合、昨今の「年収の壁論者」たちは、相当罪深いことをした存在になるとは思う。
いつものように、人の人生選択を誤らせた彼らは責任を取らされることもないわけだが――繰上げ受給を正しい選択であると多くの人たちに思わせていたのは年金破綻論だったが、破綻論を唱えていた者たちは、罪を問われることはない。年金周りではよくある、毎度のことである。
離婚リスクが高い社会と老後の年金
こうしたやりとりをしていたところ、次のような離婚化指数ランキングがアップされていた。
離婚のリスクがかなり高い社会において、夫婦の片方が厚生年金をもたない人生を送るという選択は、かなり勇気がいる選択となる。
この国の公的年金保険は、片方が3号であった世帯が離婚をした場合でもふたりの生活が保障されるようにという「崇高な(ムリで無意味な?)」目標は、制度設計の段階からまったく視野に入れていない。だから、片働き世帯における最大の防貧策は、相手が離婚を言ってくることがないように配偶者を大切にすることになる。
しかし、いくら配偶者を大切にしているつもりでいても、世の中、いろんな理由によって離婚率が高くなっていくのだろう。
この国では、はるか昔から、それこそ本当に何が起こるか分からない未来に対するリスクマネジメントの観点から、ひとりひとりが厚生年金を持っていることこそが合理的な選択となるように、公的年金は設計されてきた。
だからこれまで、厚生年金を選択することができない人を可能な限り少なくするために、「厚生年金の適用拡大」という、事業主たちが力の限りの政治力を用いて抵抗する岩盤を打ち砕いていくことが、公的年金の最優先の課題だったのである。
先の第14回全世代型社会保障構築会議ではそうした話もしている。
ところが、(他に事情があったのであれば話は別だが)壁だ、働き損だ、3号は不公平な制度だというフェイクニュースを流す者たちを信じて、3号を自ら進んで将来の貧困リスクを高めてきた世帯があったし、今もいる。メディアも、「後悔先に立たず」と将来思うことになる人たちを増やす情報を、日々発信している。
慣れてはいるが、年金周りでは、相も変わらずおかしなことが起こっている。
追記――特殊な制度は3号ではなく1号
どうも世の中の人たちは、3号があるから、「年収の壁」に見えるようなものが存在すると考えているようである。しかし、それは違う。2号と3号しかないのであれば、いわゆる「壁」のない年金制度を設計することはできる。そこに1号があって、1号と3号の整合性をとらなければならなくなるから、みんなが「壁」というものが生まれるのである。したがって、はじめから国民皆年金などを考えてもいない他国は、日本とは事情が違うことになる。そのあたりは、社会保障審議会年金部会の第3回が(2023年)5月8日で話していたりもする。
・日本の年金のアキレス腱と年金理解を阻む認知バイアス|kenjoh (note.com)
次でもどうぞ。
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