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就業調整で失っているものは何か


勿凝学問424

昨日(2023年7月25日)の記事の紹介


2023年7月25日、次がアップされたので、noteでも紹介しておきます。
【一筆多論】年収の壁と厚生年金ハーフ 佐藤好美 - 産経ニュース (sankei.com)

いわゆる「年収の壁」などを理由に、就業調整をしている人の4割以上が、就業調整による自身の年金額への影響を「知らない」というのである。

いくら何でも、無防備過ぎるのではないか。

「いくら何でも、無防備過ぎるのではないか。」――いいですね。そして、厚生年金ハーフの説明として次もよし。

「厚生年金ハーフ」。手取り減が生じる人たちが、自身の保険料を納めるか納めないか、選べるようにする案だ。

そう。厚生年金ハーフは、「手取り減が生じる人たち」しか対象にしていない。そのあたりが分かっていない論者もいたりするが、まぁ、昔から間違い続けた人たちが今回もということのようだから、仕方がない。
この記事の良さは、しっかりと次のロジックで書かれているからだと思う。

年収の壁に当たらないように、働く時間を減らせば、将来にわたって収入は増えないままだ。収入が増えなければ保険料負担も生じないが、その結果、老後の年金も薄いままになる。この壁の手前にとどまっていて、本当に人生のリスクを回避できるのか考えてほしいと思う。

この点、紙面の都合で説明を省略しているようだけど、佐藤論説委員の言いたいことは、就業調整によって失っているのは「人生のリスク回避」だけではないのだと思う。
次は、第2回年金部会(5月8日)での発言である。

就業調整によって失っているものは何か


権丈委員:・・・年金は時間軸が入ってくる問題なんですね。労働経済学者などは所得・余暇選好場でものを考えながら、予算線の屈折を昔から壁だ壁だと言ってきたわけですけれども、その壁なるものの存在を信じてずっと壁の内側にいた人たちが今本当に幸せになっているのかは考えたほうがいい。研究者たちというのは、自分たちの言動が世の中にどのような影響を与えるかをなぜ考えないのか不思議に思うわけですけれども、人間は時間軸でものを考えるのが苦手な生き物なのだから、研究者であっても仕方がないと言えば仕方がないかなと思っています。 
例えば、3号という制度が年収の壁をつくっているのは、制度設計者たちの無責任・無能のせいであって、3号を利用できるのであれば利用したほうが得であり合理的であるというメッセージを発することがインプリシットに3号を勧めるメッセージになるわけですけれども、彼らの言う壁をもたらす制度を利用して、実は高齢期のリスクを高めて、さらには労働市場でOJTの機会も放棄して自らの潜在的な可能性を発揮しない人生選択をする人たちのほうが、時間軸の先の未来で本当に幸せなのかということは考えながら、報道からいろいろなことをやっていかないと、結構不幸を生んでいくことになるのではないかと思っています。 

ということで、

佐藤好美論説委員による産経新聞、一筆多論


医療や介護、年金といった社会保障制度はリスクに備えるもので、本来は損得で考えるものではない。分かってはいるのだが、平和なときほど、つい、それを忘れる。

とりわけ年金のように、遠い将来に備えるものは、今の支払いに目を奪われがちだ。

そんなことを思ったのは、連合のシンクタンク「連合総研」が今年4月にインターネットで行った調査結果を見たからだ。

いわゆる「年収の壁」などを理由に、就業調整をしている人の4割以上が、就業調整による自身の年金額への影響を「知らない」というのである。

いくら何でも、無防備過ぎるのではないか。

年収の壁というのは、会社員の妻などが、一定規模以上の企業で週20時間以上働いた場合に、年収が106万円以上になると、年金などの保険料負担が発生し、手取りの収入が減ってしまうことを指す(男女は逆でもいい。念のため)。

手取りが減収になる状態は、モデルで考えると年収がおおむね125万円ほどになるまで続く。このため、この範囲の収入なら〝働き損〟だと考えて、労働時間を減らすなどの就業調整をする人が少なくない。

だが、年収の壁に当たらないように、働く時間を減らせば、将来にわたって収入は増えないままだ。収入が増えなければ保険料負担も生じないが、その結果、老後の年金も薄いままになる。この壁の手前にとどまっていて、本当に人生のリスクを回避できるのか考えてほしいと思う。

賃上げの広がりで、就業調整をする人が目立つのだろう。政府は年収の壁の解消を目指すという。パート従業員の保険料を穴埋めする手当を払った企業に、時限で助成する方向で検討している。

だが、いわば公費で保険料を肩代わりするようなものだから反対意見も根強い。慶応大学の権丈善一教授は「保険料を納めている企業や被保険者もいるのに、公平性を保てない」と否定的だ。

権丈教授が代わりに提唱するのが「厚生年金ハーフ」。手取り減が生じる人たちが、自身の保険料を納めるか納めないか、選べるようにする案だ。

ポイントは、本人が保険料を納めない場合も、雇い主には事業主負担分を納めてもらうところ。この場合、本人が老後に受け取る年金は、今まで通りの国民年金に加え、厚生年金を半分(ハーフ)だけとする。

本人も保険料を納める「厚生年金フル」を選べば今まで通りで、手取り減は生じるかもしれないが、老後に国民年金と厚生年金をフルに受け取れる。

狙いは将来の給付まで考えてもらい、年収の壁を飛び越えやすいステップを設け、保険料納付を後押しすることだ。「保険料を納めないのは人生の貧困リスクを高める選択でしかない」と権丈教授は言い切る。

「長い人生の間には、夫が病気になるかもしれないし、リストラされるかもしれない。結婚の安定性は失われているのに、片方が働き控えることが、夫婦にとっていかに大きなリスクか考えてほしい」

年金制度では会社員の妻は保険料を納めなくても、老後に国民年金を受け取れる有利な立場だ。だが、今はそれが逆に、選択を狭めているように見える。(論説委員)

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