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オリバー・ストーン、プーチンへのインタビューほか。

 いま起きているロシアのウクライナへの侵攻は大変な衝撃で、広大な領土を持つ軍事大国が欧州二番目の土地を持つウクライナを攻め込むという、「まさか」なショックを日本を含む西側世界に与え、同時に国際法違法なのは間違いないし、戦争の合法性も大義もないと言えましょう。ウクライナの一般の人々への唐突な日常蹂躙もとんでもないことで、プーチン政権のロシアの暴挙はひとつとしてゆるされることではありません。
 その上で言えば、バイデン米大統領が言うように「プーチンの戦争」と呼び習わすのはその通りであろうとは思いますが、同時に、世界中がロシア・プーチン政権をまるで悪の帝王の如くに喧伝される空気が醸成されているようなのは、やや違和感があります。つまりこの過程に至る実態はどうなのだろう。プーチンの考えた上での行為として行われたこのたびの暴挙の意味はなんなのだろうか。どこかの有識者もどきが言うように、プーチンの精神が病んだのだろうか。そうではなく、彼が国際世論の動きも当然に予測しつつも今度の軍事行動を行なったのか。ならばそのもくろみは何なのか。そんなことを考えます。

 こういう状況に至ると西側陣営に属する私たちはロシアに対して好戦的な拡張主義だと一方的な悪意として捉えられてしまいがちです。これは秤の重りのバランスが片側へ重しがかかってしまう状態で、ボートで言えば片側へと傾いてしまい、それでは感情の波で沈没してしまうでしょう。(もちろん、こう書いてる上でも、ウクライナ市民が避難のために国外逃亡せざるを得ない状況や、祖国のために悲壮な覚悟で止まる成人男子たちがいることに心痛め、想像していくのはもちろん大事なことです)。

 さて、アメリカでオリバー・ストーンという映画監督が当のロシア・プーチン大統領にロングインタビューをしています。2015年から2017年にかけてカメラを入れたインタビューを行い、2018年に公開しました。1時間に編集した全4回の番組で、いまはニコニコ動画で無料で見ることができます。オリバー・ストーンはインタビューにおいても基本、プーチンにおもねることはなく、それに対するプーチンはけして熱くならず、エモーショナルにもならずに、かなり論理的かつ視野の広い立場で、まぁあえていうならロシア側の正当性の根拠をロシアの歴史軸をもとにして説得力のある受け答えをしています。

 見ているこちらもちょっとドキリとする、腹くれのないオリバー・ストーンの問いに対して、プーチンが落ち着いた知的な受け答えをしているのは、正直に驚きを覚えますが、ストーンが母国アメリカに対しても相対的に自分の国の歴史の暗部にメスを入れていることを評価し、語り合える相手と見てのことだろうと思いました。

 このインタビュー4回を見る限り、繰り返しですがプーチンは知的で視野が広く、決して感情的にならないジェントルマンです。

 世界の状況では、今やプーチンを見る目はさしずめ領土の大きな北朝鮮、あるいはクエートに侵攻したイラクのフセイン並みな扱いでしょうが、北朝鮮の首領にしろ、イラクのフセインにしろ、実態はもしかしたら相当なインテリジェンスがあった(ある)かもしれないとも思いますが、その上でなお、プーチンにはやはり特別大物政治家のカリスマ性があるように思われます。

 もちろん政治家であり、強大な権力者であり、自由で民主体制で選ばれた国のトップとはとても言い難いので、専制的、独裁的な意識は冷静なインタビューの最中でさえ、頭の中ではウクライナ侵攻の絵は描いていたかもしれません。プーチンの頭の中は最後の最後にはわからないところが当然あるわけです。ただ、感情を表に出さない見た目(ルック)や、眼光の鋭さから専制政治家のイメージをぼく自身が持っていたのは隠しようもないことで、実際は柔らかな表情と気やすさも持つ人だと認識を新たにさせられました。(実はこれも又、なんとも言えないところで、ヒトラーもポーランド侵攻前は英国のチェンバレンに良い印象を与えていた訳ですから、一筋縄で行かない政治家は硬軟の演技が当然うまいでしょう)。

 で、プーチンがオリバー・ストーンに対していちばん強調しているのはやはりNATOの東方拡大に対しての危機感であり、プーチンに言わせると、NATOとは米国との同盟ではなく属国化であるということ。これら米国傘下の西側がロシアを追い込んでいるという事。この被害感が一番大きいと感じます。ほかにはクリミア半島は自主投票による独立であり、トランプが当選した米国大統領選で、ロシアはサイバー攻撃は絶対にしていないというあたりでプーチンも少し白熱しています。(サイバー攻撃の件はオリバー・ストーンも反トランプの立場からか、珍しくやや感情的になり、それに応ずるプーチンも少し色をなすのが興味深いところです)。

 地政学的なプーチンの考えに沿えば、今次のロシアによるウクライナ侵攻は因果が見えない話ではなく、ただ、当初から多くのみながかんがえたように、ロシアが欧州二番目の土地を持ち、人口も四千万以上かかえる穀倉地帯ウクライナに正面から侵攻したわけで、その理由、「なぜ今なのか」はどうしてもわかりません。
 インタビューでは、ウクライナ問題にもそうとう突っ込んでロシア側の論理を語っていますが、一貫してアメリカを「我がパートナー」と呼ぶプーチンがいまなぜ暴走したのか。オリバー・ストーンがインタビューしていた時期から自制や禁欲は既に心中ぎりぎりまで来ていたのか。分からないことが多いです。いずれにしても、今や侵略者に化してしまいましたが、その前のプーチンは現在誤解されやすい印象とは相当違う人物であることを確認するためにも、長時間にわたる作品だけれども、ぜひこのインタビューを観てもらいたいと思うところです。


なぜなら、今はウクライナ発の情報しか入ってこないですから。プーチン政権やロシアの政治情勢の情報はずっと少ないものでしたよね。そこがロシアの情報戦の弱さかもしれませんし、あるいは日本がアメリカからしか国際情報が入ってこない日本固有の弱さなのかもしれませんが...。
まあとりあえず。あとはこれを観て、皆が自分で自分のプーチン像を思い描いてもらえたらなと思います。

オリバーストーン、プーチンへのインタビュー第一回「経歴」

第二回「政治以外の側面」

第3回「ウクライナとシリア」

第4回「米大統領選への介入」


さてさて。
逆に「ソ連(ロシア)独立後のウクライナを概観する」。つまりウクライナの立ち位置について。

こちらの歴史チャンネルが非常に参考になります。後半の30分あたりで、現在の私たちの立ち位置の戸惑いや逡巡を語る言論はすごく誠実なものだと思います。プーチンの角度だけではない、ウクライナの現代も知るのは大事なことではないでしょうか。


もっと言えば、ロシアの古里は現在のウクライナの首都、キエフにあったキエフ公国にあった、という話は聞いたことがあるかもしれません。で、できればその先の先、もっと詳しいきちんとした歴史も学んでおける絶好の機会ではないでしょうか(不謹慎かな)。まして、東欧・ロシアの中世以降を学ぶ機会など滅多にありませんから。
これも上記のチャンネルの解説が勉強になります。


今では日本も政治の世界やジャーナリズムとも被害者ウクライナの肩入れ一方です。それは当然そうであるべきなのですが、現状を追うだけか、あるいはそこから日本から遠い土地での侵略行為も日本政治に何らか、つまり別の意図に利用される。そのような罠に陥らないためにも、「正義か悪か」の二元論を超えて、極力、冷静な長い歴史理解を概観することが感情論に絡め取られないということ。そういう理解は自分の武器になると思うのです。ですから、ロシアとウクライナという東スラブ民族の歴史の推移について詳しく学ぶ貴重な価値もあるのではないかなと思います。(もちろん、しつこいようですが、現の被害者のことも忘れてはいけないわけで。全く難問な状況になりました)


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