『あの音にこの職人2:キャロル・ケイ編~60sポップスを支えたセッションの女王~』 ★★★★☆(3.7)-音楽購入履歴#21
Title: あの音にこの職人2:キャロル・ケイ編~60sポップスを支えたセッションの女王~(2024)
Artist: Various Artist
Day: 2024/10/31
Shop: Tower Record Online
Rating:★★★★☆(3.7)
オムニバスコンピ初買い?
こういったオムニバスコンピを買うのは実は初めてじゃなかろうか。
そもそもコンピレーションアルバムどころかベスト盤すらほとんど買ったことがない(ジャズやクラシックのコンピを除いて)。
ましてやこんなDVD形式というか、DVDの箱に付録としてCDが付いてる形式(DVDは付いてない)なんて初めてすぎる。
キャロル・ケイはレッキングクルーと呼ばれるカリフォルニアのスタジオミュージシャン軍団の一員であり、フィルスペクターやブライアンウィルソンを支えた名女性ベーシストとして知られている。
裏方の人間ではあるが、60's好きなら知らない人はいないと言っても過言ではない重要人物だろう。
50年代末から70年代にかけて、彼女が参加した楽曲は1万曲を超えると言われていて、その中から厳選された20曲がこのコンピに収録されている。
いや、こういうコンピって面白いな、と率直に思った。
セッションミュージシャンの参加作品で括ったコンピ。
あるのか、あったのか、いやあったんだろうな。でもあんま見たことないな。
例えばツェッペリン以前セッションマン時代のジミーペイジ参加作品コンピとか、需要あると思うし(あるのか?あるんだろう、ないのか?)、プロデューサーで括るとか、アレンジャーで括るとか、レコーディングスタジオで括るとか、そういうコンピは面白いと思う。
コンピってこのサブスク時代のプレイリスト文化にも繋がるなーってことを思ったりも。
自分を知ってくれている
ということ
このキャロルケイのコンピの存在を教えてくれたのは母親だった。
おかんは近ごろAudible(オーディブル)にどハマりしている。Amazonがやってる本の朗読アプリだ。
それで実家に帰るとおかんは常にBluetoothイヤホンを耳につけていて、何やら安い中国製のものばかり買っているようですぐに壊れては買い、そんなことで5,6個Bluetoothイヤホンがリビングに転がっている状態。
そんなBluetoothイヤホンで好きなアーティストのラジオも聴いてるようで、そのラジオで紹介されていたのがこのキャロルケイのコンピだったよう(馬場俊英というSSWのラジオだったか)。
それである日実家に帰った時に
「あんたが好きそうな話してたで」
とコンピタイトルと出版社が書かれたメモを手渡してきた。
何やらラジオで紹介されていた内容をつらつらと説明してきて、
「キャロルケイってベーシストがな」
「知ってる」
「めっちゃたくさんのレコーディングに参加しててな」
「知ってる」
「なんかビーチボーイズとか」
「知ってる」
「60年代とか言ってたからあんた好きやろ?買い!!」
「知ってるけどなぁ」
「なんかDVD形式かなんかやから新品で800円らしいで」
「800円??!」
ってなことでタワレコオンラインでポチッと購入した次第だ。
「知ってるけどなぁ」という思いが全面に溢れ出た態度をとってしまったが、何にしても「60年代」だとか「ビーチボーイズ」だとか、そういうワードを耳にして僕に教えないとと思ってくれることはとても嬉しいことだなぁと思う。感謝。
ちょうどその翌日とかに、大学の友人からポンっとLINEが入った。
「これ良さげじゃない?」
というメッセージと共にピンクフロイドの狂気50周年プラネタリウムアンコール上映のリンクが貼ってあった。
去年の東京での上映を羨ましがりつつも、今年春の神戸上映を逃し、途方に暮れていたのでめちゃくちゃ嬉しい神戸アンコール上映!!!!!
情報を伝えてくれたことへの喜びはもちろんだけど、「僕がピンクフロイドをこよなく愛していること」を知ってくれていることがなんだかとっても嬉しかった。
数日後には別の音楽仲間からも
「おもろそうやない?」
と同じく狂気プラネタリウムのリンクがLINEに届いた。
自分を知ってくれていることは嬉しいなぁと、そんなことを感じたおかんキャロルケイと友人狂気プラネタリウムのお話。
キャロル・ケイ
さてキャロル・ケイ。
僕が彼女の存在を初めて認識したのはビーチボーイズの〝Good Vibrations〟で間違いないかと思う。
初めて冒頭のベースを聴いた時、そのフレーズと音色に度肝を抜かれて、そしてそれがブライアンウィルソンが弾いたものではないって知って。そこから『ペットサウンズ』だったり『Today』だったり〝California Girl〟だったりのキャロルケイがベースを弾いたビーチボーイズ楽曲を聴き直し、感服した。
僕は今となっては何リストかわからないが、間違いなくベーシストだった時期があったので。
キャロルケイが参加したのは、他のレッキングクルーと同じようにやっぱりフィルスペクター作品や商業ポップ作品、モンキーズ、サイモン&ガーファンクル、バブルガムポップやソフトロック、後はLA録音のモータウンなどなど、累計1万曲を超えるってんだから途方もない数のレコーディング。
このキャロルケイコンピは「オールデイズ音庫」という出版社?がリリースしている「あの音にあの職人」シリーズの第二弾というわけだが、ブックレットの情報量の多さからしてもかなり音楽愛に溢れたプロジェクトのよう。
そのブックレットで初めて知ったことだけど、キャロルケイは元々セッションギタリストだったとか。50年代末にサムクックやリッチーバレンスのバックでギターを弾いたところからキャリアをスタートさせたよう。
その後60年代頭のフィルスペクター作品でも最初はエレキギターで参加していて、63年ごろにベースに持ちかえたとか。
彼女のピック弾きによる独特なベースはギター出身ってのも関係しているのか。
The Mothers of Inventionの66年『Freak Out!』で12弦ギターを弾いてるってのも知らなかった。結構驚き。
あとはレイチャールズ作品で弾いてるのも知らないことだった。
知らないことだらけだ。知ったようなふりしてすまんおかん。
そんなことで1万を超えるキャロルケイレコーディング曲の中から「60年代のベース参加作品」に絞って20曲厳選されたのが今回のコンピ。
しかし「1万曲以上」というのは推測で、はっきりした数は実はわかっていない。
というのも、当時は「セッションに参加したとしても、どのテイクがレコードに使われたかはセッションミュージシャンに知らせない」という謎の掟があったり、まぁクレジットには載らなかったりするわけで。
『Pet Sounds』のレコーディングに参加したことは間違いないが、〝God Only Knows〟をキャロルケイが弾いたかはいまだにハッキリしてなかったり、モータウン作品でもキャロルケイが弾いてるとされているがクレジットはいまだにジェームスジェマーソンになってる曲があったり。
そういったことが山ほどある。
本人たちも多すぎるし昔すぎるし、もはやはっきりわかってないんだろう。
今回のコンピが家に届いて1番驚いたことはLoveの〝Alone Again Or〟が最後に収録されていることで。
キャロルケイが弾いてるとは知らなかったし、調べてみてもはっきりとしたクレジットはなく(Forever Changesの他の曲はクレジット有り)。
これって結局のところ変な話本人が弾いたと証言していても確定ではないわけで、結構曖昧でもやもやするところで。
そうなると信じられるのはやっぱりサウンドだけなわけで。だから僕はこのコンピめちゃくちゃ面白いと思ったんです。
1曲目から順番に聴いていって、20曲目の〝Alone Again Or〟に辿り着いた時、あ、これキャロルケイだわ、と確信できるんです。間違いなく同じ人が弾いてるって。
60年代の流れを体感できる良盤
キャロルケイのスポンジミュートをかましたピック弾きのプレベサウンドは
硬いのに柔らかく、角があるのに丸い、
まぁ独特です。
このコンピは63年のカスケーズから68年のLoveまで時系列順に20曲セレクトされている。
この6年間というのは実に劇的に音楽が変化していった時期なんだけど、キャロルケイのベースは一貫してキャロルケイのベースである。
だからこそベース以外の変化が顕著にわかる、そんなコンピでもあるなーと思ったり。
63年〜68年のアメリカ音楽、R&B/ソウル、ガールズグループ、サーフ、フォークロック、ソフトロック、バブルガムポップ、サイケ、が時代順に並ぶコンピってのはなかなかないんじゃなかろうか。
当然統一感はなくて、11曲目〝SLOOP JOHN B〟で急に音の整理度や解像度が上がるのでびっくりするくらい。
そこからS&Gだったりモンキーズだったりのロック時代に突入してからのレイチャールズだったり。
ただキャロルケイというベーシスト1点で結ばれた曲たちであり、本当に性格の違う曲たちが彼女を介して集結したといった感じ。それが面白い。
1.RHYTHM OF THE RAIN/ THE CASCADES
(1963)
まぁとにかくヒット曲ばかりが並ぶわけだけど、しょっぱなは63年カスケーズ〝悲しき雨音〟。
60年代前半によくみられるR&B調のポップソングだけど、とにかくチェレスタが特徴的な一曲。このチェレスタとキャロルケイのベースの
音色がまさに雨音っぽくて最高。
2.DA DOO RON RON / THE CRYSTALS
(1963)
3.DO I LOVE YOU? / THE RONETTES
(1964)
続いてフィルスペクター作品が2曲。
レッキングクルーといえばやっぱりフィルスペクター作品、いやフィルスペクターに使われた人たちがレッキングクルーと呼ばれてるわけで。
ただフィルスペクターのウォールオブサウンドって、その名の通り「音の壁」で、音圧で。いわばバンドオーケストラのように多数のミュージシャンで同じパートを演奏したりして音の壁を作った手法で。
その執拗なレコーディングに付き合った忍耐力やプロフェッショナルさがレッキングクルーの評価へと繋がっていくわけだけど、だからといってクリルタルズやロネッツを聴いてキャロルケイのベースフレーズがどうのこうの、とはならないのが正直なところ。
やっぱりこの後のブライアンウィルソンこそがレッキングクルーの能力を存分に使ったといえるんじゃないかな。
6.NO MATTER WHAT SHAPE YOUR STOMACH'S IN / THE T-BONES
(1965)
レッキングクルーの覆面インストバンドT-Bones。
いやー素晴らしい。
7.CALL ME / CHRIS MONTEZ
(1965)
これが極上のソフトロックで、恥ずかしながら知らなかったのでクリス・モンテス調べてみた。
R&Rポップ系歌手としてデビューして、この65年にA&Mに移籍した際にハープアルバートによってソフトロック/イージーリスニング系に変身させられたらしい。
R&Rポップ歌手がソフトロックに変身するのってトミーロウと被るなーと思ったんだけど、なにやらクリスモンテスとトミーロウは共にイギリスに渡りビートルズのツアーに同行したとかなんとか。
まさにA&M流ソフトロックなんだけど、65年という早さは結構恐ろしい。ソフトロックの生みの親はハープアルバートなのかも。
10.BANG BANG / CHER
(1966)
個人的にはヴァニラファッジバージョンが馴染んでる曲。オリジナルがこのシェールで、同年にナンシーシナトラも歌ってるみたい。
ヴァニラファッジってとんでもないアレンジをかましまくったんだけど、このバンバンに関してはそこまで原曲を離れてないのね。
不気味な曲だわ。
11.SLOOP JOHN B / THE BEACH BOYS
(1966)
言わずもがななスループジョンビー。
まじで時代順の並びで聴くと革命的なサウンドとアレンジ。
12.I AM A ROCK / SIMON & GARFUNKEL
(1966)
言わずもがななアイアムアロック。
いいギターいいベース。
15.I'M A BELIEVER / THE MONKEES
(1966)
言わずもがななアイムアビリーバー。
まじでグルービーすぎるキャロルケイのベース。しかしやっぱりえぐいな66年。
16.LOVE IS HERE AND NOW YOU'RE GONE / THE SUPREMES
(1966)
これもクレジットではファンクブラザーズの演奏になってるけど、レッキングクルーみたい。
なんにせよ絶対ベースはキャロルケイ。なんでしょうこのなんというかマレットで叩いかのようなベースの音色。すごいわー。
18.IN THE HEAT OF THE NIGHT / RAY CHARLES
(1967)
やっぱ唯一無二やなレイチャールズって。ちゃんと聴きます。
20.ALONE AGAIN OR / LOVE
(1968)
で最後がLove。
たまらんっすわ。
そんなキャロルケイコンピでございます。
新品800円で買えるので是非とも。
タワレコオンラインで「キャロル」って検索したら検索候補キャロルキングより上にキャロルケイ出てきたので、もしかしたら割と売れてるんかな??
さいなら