小説【ツイン・プログラミング】その9「ニコの心配」
登場人物紹介
・沢渡ニコ:行動力とアウトプットに優れる、その活動的な性質は大人顔負け。将来の夢を語るときも如何に自分に合った生き方か、を考える。
・沢渡キラ:どちらかというと内向的な性格ではあるものの、その潜在能力はまだ本人自身すら知らない。いたって平凡を求めるところもあるけれど。
夜8時。
わたしは、PCに向かいながらドメインの登録画面でウンウン唸っているキラに対して後ろから声をかけた。
「ねぇ、そんなにこんを詰めてやってると良くないよ。少しばかり休憩して私と話さない?」
キラは、まるで48時間くらい寝ていませんという顔をしながら、静かにこっちを向いた。
「そんなひど……疲れ切った顔して、そのままやり続けても効率悪いでしょ」
「今、ひどい顔って言おうとしませんでした?」
「してないしてない。ささ、ベッドに横になって」
キラがPCの電源をシャットダウンしてから私に言われた通りキラのベッドに横になったのを見てから、私も自分のベッドに飛び込んだ。
「ふぅー。ねぇキラ。わたしたちもう来年から中学生だよ。何かやりたいこととかなりたいものってある?」
キラはこう返した。
「ないです。強いていうなら平凡なOLになって年金もらえるまで働くことでしょうか」
わたしは言った。
「へぇ……平凡なOLねぇ」
「なんですか、何か文句でもおありですか」
「わたしはプログラミングで世界と闘える人になりたいかな」
先に吹き出したのは、キラの方だった。
「相変わらずのビッグマウスですね。でもニコならやれそうな気もしますよ」
キラは何だか不貞腐れたような言い方で、そう言った。
「キラ、どうしたの? 機嫌でも悪いの」
キラは一呼吸置いて、話し始めた。
「わたしはニコが羨ましいです。何かあったらすぐ行動、アクションを起こして、成果を出す。対してわたしは、インプットばかりでこれと言った特技もない。アウトプットできるものもないんですから。受け身の姿勢でいるのがわたしのコンプレックスなんです」
わたしは上体だけ起き上がって、いつの間にか睡眠モードに入っているキラを見た。
「キラ……どうしたの?」
「どうもしません。すみませんが、今日はもう寝かせて下さい」
そう言って、キラは寝込み始めた。
わたしはキラが少し心配になってきた。最近ちょっと不安定になっている妹に、わたしの元気を少しでもいいから分けてあげたかった。
(かと言ってキラのやっている部分の技術面のこととか何もわからないからなぁ……サーバーとかドメインとか)。