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猫にジェラシー
僕は猫が好きだ。飼っているわけでもないし、特別詳しいわけでもない。ただ、道端で見かけた猫をじっと見つめたり、「可愛いな」とつぶやくのが癖になっている程度だ。だが、それだけで妻を怒らせてしまう。
ある日、妻と近所を散歩していると、道端で三毛猫を見つけた。毛並みが美しく、陽だまりの中で丸まっているその姿に僕は自然と足を止めた。しゃがみ込みながら「いいねぇ、可愛いねぇ」と猫に話しかける。すると、後ろから妻の低い声が聞こえた。
「猫ばっかり見てないで、私も見てよ。」
振り返ると、腕を組んで僕を睨む妻が立っていた。いつもの優しい顔はどこへやら。何か悪いことをした覚えはないが、彼女の怒りが確実に僕に向いていることは分かる。
「いや、ただ見てただけだよ」と僕が弁解すると、妻はため息をつきながら続けた。「私がどんな服着てるかも気づかないのに、猫の模様は覚えてるんでしょ?」
たしかに、その猫の三毛模様は頭に焼き付いていたが、彼女が今日何を着ているのかはさっぱりだった。気まずい沈黙が流れる。
帰り道、妻はずっと無言だった。僕はなんとか機嫌を直そうと話題を振るが、どれも空振り。家に着くころには、彼女の不機嫌さが僕を巻き込んで暗雲を立ち込めさせていた。
結局、その日は猫について一切触れることができなかった。次の日からは、猫を見かけても一瞬だけ目をやり、すぐに視線を戻すようにした。妻の嫉妬は人間に向けられるものだけではないことを、この日僕は学んだ。