中学3年生の頃の甘酸っぱい片想い
中学3年生の僕は、勉強だけは得意だった。クラスでは成績が上位で、テストの点数を見せびらかすわけでもないのに、なぜかいつも「頭のいい奴」として知られていた。でも、それ以外の部分では全然ダメで、特に人と話すのが苦手だった。自分から誰かに声をかけることなんて、ほとんどなかった。そんな僕が、鈴木ハルカに片想いするなんて、少し前の僕には考えられないことだった。
彼女は、僕とはまるで正反対の存在だった。明るくて、クラスの中心にいるような子で、いつも笑顔を浮かべていた。何気なく冗談を飛ばしては、周りのみんなを笑わせていた。ちょっと子供っぽいところもあったけれど、それが彼女の魅力だった。僕が何か発言するたびに、彼女は大きなリアクションを返してくれた。僕にとってそれは特別な瞬間だったけど、きっと彼女にとってはただの気遣いだったのだろう。
そんな彼女に心を奪われたのは、文化祭の準備中のことだった。教室の片隅で、一人静かに資料をまとめていると、突然、彼女が僕の隣にやってきた。「ねえ、これ見て!」と、彼女が手に持っていたのは、文化祭のポスター。彼女が描いたというそのポスターは、正直言って少し下手だった。キャラクターの顔は歪んでいて、色の塗り方も雑だったけど、彼女の元気さがそのまま表れているようで、どこか可愛らしい。
「どうかな?」と期待の目で僕を見つめてくる彼女に、僕は少し戸惑った。上手くないとは言えず、「あ…うん、すごく明るい感じがして、いいと思う」と答えた。すると彼女は満面の笑みを浮かべ、「やっぱり!ありがとう!」と喜んでくれた。その瞬間、僕の心の中で何かが変わった気がした。
それから僕は、彼女を意識するようになった。授業中、彼女の後ろ姿をぼんやりと眺めたり、廊下ですれ違うたびに心がざわついたりした。けれど、僕は彼女に声をかける勇気はなかった。いつも賑やかなグループに囲まれている彼女に対して、引っ込み思案な僕が何を話せるのだろうと思うと、足がすくんでしまったのだ。
ある日、放課後に教室に忘れ物を取りに戻ると、そこに彼女が一人でいた。珍しく静かな彼女の姿を見て、僕は思わず声をかけた。「鈴木さん、何してるの?」普段、僕から話しかけることなんて滅多にないから、自分でも驚いていた。
「ちょっと、課題が終わってなくてね」と、彼女は答えた。机に広げられた数学の問題集を見ると、難しそうに眉をひそめている。「あんまり得意じゃないんだよね、こういうの」と、彼女は笑いながら言った。
「手伝おうか?」僕の口から出たその言葉は、まるで無意識のうちに発せられたようだった。彼女は驚いた顔をしたけれど、すぐに「ほんと?助かる!」と笑って答えた。僕たちは一緒に問題を解き始めた。彼女が何度も間違えるたびに、「そっか、そうやるんだ!」と、子供っぽく無邪気に喜ぶ姿が可愛らしかった。その瞬間、僕は彼女のことがもっと好きになった。
でも、僕は彼女に告白することはなかった。勉強ができても、恋愛に関しては何も分からなかったからだ。彼女の明るさに触れるたびに、僕の胸は締め付けられるような思いを感じていたけれど、その気持ちを伝える勇気はどうしても湧かなかった。
そして、卒業式の日が来た。僕はクラスの一員として彼女と笑顔で写真を撮り、別れを告げた。彼女は最後まで明るくて、周りのみんなと楽しそうに話していた。でも、僕の心の中では、彼女への片想いが静かに幕を下ろしていた。
あの時、僕がもう少しだけ勇気を出していれば、何かが変わっていたのかもしれない。でも、今となってはそれも思い出だ。鈴木ハルカとの甘酸っぱい片想いは、僕の中でずっと消えることのない大切な記憶として残っている。
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