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越えていけ

 2023年をコンパクトにまとめると、スポーツカメラマンとして現場復帰を果たしたものの、体調を崩し戦線を離脱した。
 スポーツ報道の現場は過酷だ。とにかく試合が長いとか、暑いやら寒いやらとか、機材は重いのに最寄り駅から遠いとか、あまりいいところなんかない。おまけにすごく儲かるわけでもない(これは人によりますが)。
 それでも写真を撮り続けてこられたのは、ひたすらにいいシーンを撮りたい一心で仕事に向き合ってきたからだと思う。「写真を見てくれる人」のために。

 フォトエージェンシーに移籍し、かなりの激務が続いていた。頭の中は常に仕事のことでいっぱい。「早く写真を仕上げなければ……」と、撮影後は帰りの電車でノートPCを開き、セレクト、トリミングや色補正、そしてキャプション入力に追われた。帰宅してサイトにアップロードが終わった頃には、すでに日付が変わっている毎日。知らず知らずのうちに睡眠時間は削られた。

 人の心はたやすく崩壊する。じきに、もう自分には写真が撮れないと思うようになった。人生で初めてカメラに触れるのが怖くなった。これまでも行きたくない仕事なんて山ほどあったが、撮影が始まってしまえば案外楽しくなってくるのが常だった。ところが、そんな気持ちにも全くならず、撮影に出るのが絶望感でしかなくなった。

 こうして第一線から退いた。あるいは、引きずりおろされた。もう僕はスポーツカメラマンじゃないんだと思い知らされた。
 スポーツを撮らない日々は、それはそれは穏やかになってしまった。当初、仕事仲間の活躍や成果を見るたびに「いいなぁー」と感じていた。
 以前はメディアに自分の撮った写真が使用されることにものすごくこだわっていた。だが、最近はそこに興味関心を失いつつあり、自分でもびっくりするくらい写真との距離感や関係性は変化してきた。緊張が解けたような感覚だろうか。

 最近は昔の縁で頼まれる案件を撮影させてもらっているが、それくらいマイペースにできるのが自分には向いているのかなとも思う。「それじゃあ生きていけないだろう?」なんてもっともなご意見だろう。カメラマンとしてのこれからは、まだまだ模索しなければならない。

 逆境が続いた一年間だった。でも、もうすぐ新しい年が始まる。気分も一新して、いろいろなことに前向きに取り組んでいければと思う。何か希望があるかもしれないから。

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