結果と考察-錦鯉の成長④-
この鱗の頭側の表面はridgeが鋸の歯のように並び、鱗が真皮より抜けにくくなるように造られているかのように見える。一見無構造にみえる鱗は、注意深くみると層状構造をしており、扁光顕微鏡ではっきりと、しかも美しく観察された(図5)
ヒトの骨の組織学的動態を検索するのに、しばしばテトラサイクリンの投与を行い観察するが、これは、テトラサイクリンが骨の石炭化の際、キレート結合をして、これが螢光顕微鏡で紫外線をあてると黄色に光って見えるのを利用したものである。
果たして鱗においてテトラサイクリンがキレート結合するかどうか、そして螢光顕微鏡でそれを証明できるかどうか確信はなかったが、前記の方法でテトラサイクリンの投与を行い、幸運にも鱗への取り込みを観察することができた。
まず、テトラサイクリンを投与しない鱗を螢光顕微鏡で見ると、ridgeのあたりがやや光って見えるが、全体として均一で、特別な初見は認めない。第1回目3回投与後7日後に採取した鱗には、その最外側の辺縁に黄色に光るテトラサイクリンの取り込みがはっきりと観察された。場所によって多少の差があるが、1〜2本のridgeに一致してほぼ全周にこれを認めた(図6)
第2回投与後14日後の鱗でも同様に、その最外側の辺縁にテトラサイクリンの取り込みを認めた。第1回投与後の場合に比べ、取り込んだridgeの数は約3本と多かった。(図7)テトラサイクリンの取り込みは、中心核をはじめとする他の部分では観察されなかった。
以上、鱗のridgeの形態学的特徴、鱗と真皮層の関係を示した組織像、そしてテトラサイクリンの取り込みの観察から、鱗は辺縁から成長拡大していくものであることが証明された。