きりきず
いつのまにか紙の端で
切られて血をにじませる
指先のひふのように
心の中にひりつくきりきず
小さく小さくそれでいて
いつまでもささいな痛みで
感情のすきまにひそみつづける
そしていつくしみを許さぬうちに
いつしか痛みはどこかへ消える
あとに残るのは小さなしこり
なおったあとでやさしくなでても
かたくなさだけが残りつづける
そのうちいつかのしこりと
示しあわせたように
肌寒い夜にやけるような
うずくような人恋しさをよんでくる
水疱瘡がなおった何十年もあとに
からだにひそんだその病原体が
なにかの拍子に顔を出すのに似て
すぎた痛みのあとには
記憶へとしずみこんだ余韻が
いつくしみを求めて
同じきずを呼ぶのでしょう
できたきずの数だけできた
痛みの数だけできた
数々のしこりをいつくしむのに
遅すぎることはない
だれかにそう言ってほしいのだけれど
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