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小説「tripper」10章~考える機械たちの午後~
前回→ https://note.com/kenji_takeda/n/n3c8cc42b5b4b
彼がこの部屋から出ていったあとも、わたしはずっと、ベッドの上に寝転がっていた。
ただただ、まだおぼろげな意識をかかえたまま、ワーヘッドにトレースさせた入出力データの解析結果を待っていた。
プロセッサの負荷はもう問題ないレベルまで下がってはいたけれど、まだなにか、体に残る火照りのようなものがわたし
小説「tripper」9章~透明な雨~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/n75bc4a5de1f3
513号室のドアをノックすると、開いたドアから、メイド服姿の彼女が顔を出した。
「お待ちしてました」
「お、昨日みたいなラフなかっこじゃないんだ」
「なんか今日は、この服で、って気分なんで」
部屋に自分を招き入れた彼女は、二つ並んだ椅子のひとつに腰掛け、隣に座るよう促した。
今日は、メイに請われ
小説「tripper」8章 ~迷宮~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/nc29abd9ea140
昨日語ってくれた、メイの思いの丈。
自分は、ありきたりな言葉で受け止めることしかできなかった。
なにを話したのか思い出せない程度にはありきたりだった。
…これで、いいのだろうか。
たぶん、自分は相当に適当な人間だ。あまり覚悟はない。
その覚悟のなさに、少しばかり後ろめたさも感じる。
彼女に申し訳
小説「tripper」7章~扉と鍵と~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/nf9a04b6e9936
「バグ探しのための破壊行為」に、思わぬ邪魔が入った。
いや、邪魔というべきかどうかもわからない。
あまりに突然すぎて、それが善意なのか悪意なのか、それとも別のなにかに基づくのか、はかれずにいた。
あの声は我々に覚悟を問うていたが、我々の進む先に、本当にそんな覚悟を要するような事態が待っているの
小説「tripper」6章 ~声~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/nda8bc20474c2
ここ二、三日ほど「乗客位置把握システム」のバグ探しばかりしていた。ログを入力するのはひさびさだ。
「お客様」が現れてから、六日が経った。
あれから毎回、彼が眠っているときの体温を確認したが、あのときと同じく、寝ているときには体温が60度程度まで上がっていた。
睡眠時間も、毎回十八時間を超えていた
小説「tripper」5章~手と手、体温と体温~
前回→
https://note.mu/kenji_takeda/n/n08763d1927ea
目覚めると、自分は0404号室にいた。
きのうほどではないにしろ、日はそれなりに高くのぼっていた。
ベッドサイドの時計を見ると、十時だった。
にわかに状況がつかめなかったが、ベッドでごろごろしている間に思い出した。
そうだ。メイと「ブレードランナー」を観てるあいだに寝てしまったのだ。
しかし、メイ
小説「tripper」4章~スタンド、バイ、ミー~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/nff5c8b086774
いつから眠っているのかわからないくらい、深い眠りだった。
きのう目覚めたばかりなのに。
そんな夢のない眠りから目覚めて、客室のカーテンを開けると、きのうとはうって変わって窓の外には晴天の大洋が広がっていた。
吸い込まれるような濃い青の海。すでに太陽はかなり高く昇り、空は海に負けないくらいのブルーに
小説「tripper」3章~dialogue~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/n86ae85845531
夢を見ていた。
書き割りの摩天楼が並ぶ舞台にひとり立っていた。
スポットライトが当たっていて、舞台の様子がはっきりうかがえないが、観客はおそらくひとりもいない。
この船と同じく、全くの無人。
自分になにかを演じろというのか。
よくわからず、舞台にあぐらをかいて座り込む。
すると、舞台の天
小説「tripper」2章~ひとりとひとり~
前回→ https://note.mu/kenji_takeda/n/n691ad7f53cc6
ドアを閉めたときの、思いの外軽い「かちり」という音は、すみやかに船のエンジンのそれと思われる深いうなりの中に吸い込まれていった。
男は、しばし廊下の真ん中で立ち止まり、見回した。
ほの暗い廊下が、船の揺れ動きにあわせて、穏やかに呼吸をしているようだ。
押し黙ったように閉ざされたあまたの船室のドア
小説「tripper」1章 ~しずかな目覚め~
0章→ https://note.mu/kenji_takeda/n/n52af22eea353
ラジオの電源スイッチに触れた瞬間、広がっていた丘陵風景は男の目の前から文字通り『霧散』していった。
人工的で胡散臭い風景が霧のようにしゅわしゅわと、おぼろげな余韻を残しつつ消え去ったあとには、一人でいるには多少広すぎるくらい広い、ホテルの部屋が現れた。
ラジオのあったところには、各種照明や空調をコ
小説(「つきあたりばったり」改め)「tripper」まえがき&第0章
さて、唐突だけど小説を書いてみたいと思う。
構想0秒、執筆()は己のドライブ感のみをたよりに、いきあたりばったり、口からでまかせで書いてみる。
理由は、まあいろいろあるけどもはっきりしないのでとりあえず『特にない』ということにしたい。
そもそも、小説家になりたい、とはずっと思ってたけれど、小説を一本書き上げることなど一度もなかった。
なので、この小説も途中で飽きて放置されてしまうかもしれな