- 運営しているクリエイター
2021年8月の記事一覧
真夜中のでんでん太鼓
わたしが生まれ育った村では
毎日真夜中になると
森の奥から
でんでん太鼓の音が鳴り響く
日によって鳴らされる時間は異なり
どうやら月齢にあわせているようだった
新月の日には短く
満月の日にはひときわ長く
てんてんてん
てんとこてん
とことんてん
ててててとん
いつからそうなのかは
誰も知らない
記録もなく
村に伝わる古文書にも
いっさい残されていない
村のものは誰ひとり
一日一回のでんでん太鼓を
(詩)レトログラード
知ってしまったぼくら
ただただ空を仰ぎみる
知ってしまったぼくら
こわばった頬を風がぬぐう
知ってしまったぼくら
両手に何もつかめないまま
夕焼け色のしみが
体の芯まで染み込んでゆく
知ってしまったぼくら
風に逆らい歩いてく
知ってしまったぼくら
川の上流をのぞむ
知ってしまったぼくら
時計のりゅうずを逆回し
夕闇に抗うような残照の中
十二時の針は静止していた
知ってしまったぼくら
否応なく夜