オンライン・対面の併用(ハイブリッド)型授業の分類と特徴
1.はじめに
昨今の社会情勢の影響により,大学における多くの授業,なかでも講義は,その運営方法が大きく変わりつつあります.大学の教室は受講者が密集した状態であり,周囲の受講生および教員との意見交換やディスカッションにリスクが生じます.そのため多くの大学で,全面的にオンライン授業に移行する,教室の収容人数を減らしたうえで対面授業を実施する,などの対策が取られたうえで授業が運営されています.
授業のオンライン化は以前から通信制大学で実施されており,また,通学型大学においても対面授業を補完する意味合いで徐々に広がりつつありました.今後の大学における授業は,オンライン授業と対面授業を組み合わせた形式での実施,すなわちハイブリッド型授業が主流になるものと予想されています.
この記事は,オンライン授業を全面的または部分的に採用した授業形態について,それぞれの分類およびメリット・デメリットについて記述しています.
2.リアルタイム型オンライン授業
リアルタイム型オンライン授業とは,その授業に割り当てられている時間割に,遠隔会議システム(zoom,webex,teamsなど)を用いて授業を実施することです.多くの教員にとっては,これまで実施してきた対面授業のスタイルでそのままオンライン化すればいいように思えるので,遠隔会議システム特有の操作を除くと,もっともとっつきやすい形式と言えます.
実際には,対面授業と比べてオンライン授業では伝達可能な情報量が減少するため,対面授業とまったく同じ内容をオンラインで伝達することはできません.また,オンライン授業では非言語コミュニケーションが成立しないので,受講生は授業の雰囲気や他の受講生の学習態度がまったくわかりません.そのため,受講生同士の話し合いの時間を確保したり,教員が受講生を指名して発言を促すなど,対面授業のときよりも受講生との相互作用に気を配る必要があります.
リアルタイム型オンライン授業の適性は,大人数クラスでの一斉講義よりも少人数クラスでの演習科目やゼミナールにあるようです.遠隔会議システムでは,参加者同士の関係性が対面のときよりもフラットになるからです.実際にそれらの科目では,対面よりもオンラインのほうが受講生の質問や発言が多くなった,ディスカッションが活発になった,という事例報告が数多くあります.
オンラインで伝統的な一斉講義を実施するのであれば,リアルタイム型よりも次のオンデマンド型のほうが適していることが多いようです.
3.オンデマンド型オンライン授業
オンデマンド型オンライン授業とは,教員が収録・作成しておいた講義動画をYouTubeやLMSにアップロードして,その講義に割り当てられている時間割とは無関係に受講生に視聴してもらう実施方法です.放送大学のコンテンツを思い浮かべればいいと思います.
受講生は時間割の制約にとらわれることなく,好きな時間に講義動画を視聴して学習することができます.また,一度視聴しただけでは理解があやふやだった箇所をもう一度再生することで理解を深めることができます.知識伝達型授業に適した形式と言えます.
実際には,動画を視聴させただけでは授業とは認められず,動画視聴後に質疑応答の機会を別に設ける,小テストに回答させる,レポート提出を課すことなどが必須とされています.さらに,それらを採点または添削することにより受講生にフィードバックする必要があります.
講義動画の長さについては,授業時間が90分の場合,90分で1本の動画にするよりも,トピックごとに15分程度の長さに分割するのが良いとされています.
4.ブレンド型対面授業(反転授業)
ブレンド型対面授業とは,オンデマンド型オンライン授業と対面授業を組み合わせて実施する方法であり,以前から反転授業という名称で多くの実践が積み重ねられている形式です.
ブレンド型対面授業では,時間割で設定された時間帯よりも前に受講生に講義動画を視聴させて知識伝達を済ませたうえで対面授業をおこないます.対面授業では講義動画に関連した内容の演習問題を問いたり,グループワークを実施することになります.このことにより,講義動画で得た知識の定着をはかるとともに応用力が身に付くとされています.
ブレンド型対面授業では,知識伝達部分をオンラインに追い出した形になっているので,浮いた時間を利用して対面授業で何をするか,が授業を設計する上で最も重要になります.
5.ブレンド型オンライン授業
ブレンド型オンライン授業とは,ブレンド型対面授業(反転授業)の対面部分をオンライン化したものです.別の表現では,オンデマンド型オンライン授業の質疑応答パートをリアルタイム型オンライン授業として実施する,という捉え方もできます.オンデマンド型とリアルタイム型のオンライン授業の両方のメリットを生かした方法と言えます.
別記事(URL)で紹介しているオンラインでのジグソー法ポスターツアーもブレンド型オンライン授業に分類できます.
6.分散型対面授業
学習内容によっては,オンライン化が不可能または困難な科目があります.実習・実験および演習科目がそのようなケースに当てはまります.その場合に分散型対面授業を実施することになります.
分散型対面授業では,クラスを二分割して,一方のグループが対面授業で指導を受けているあいだに,もう一方のグループは別室で授業に関連した別の内容を学習します.たとえば,実験科目であれば実験レポートの添削指導,実習科目であれば実習前のブリーフィング,演習科目であれば課題を自習またはグループワークで解く,といった学習活動を設定することになります.
7.ハイフレックス型授業
ハイフレックス(HyFlex)型授業とは,「柔軟なハイブリッド」型授業(Hybrid-Flexible)の意味の造語です.この形式では,対面で実施している授業を同時にオンライン配信します.受講生は,自分の希望あるいは教員の指示により対面で受講するかオンラインで受講するかを選択します.授業の内容は対面側とオンライン側で同一になります.
ハイフレックス型授業では,教員は対面側とオンライン側で同じ学習内容および学習効果が得られるように,授業設計および実施方法に入念な準備が必要になります.教員以外の授業補助者も必要になるでしょう.
ハイフレックス型授業に適した教室の例としては,PC実習室あるいはWiFi+電源設置教室が挙げられます.これらの教室では,設置済あるいはBYODのPCを使用することにより,オンライン側の受講生と同じ学習環境を対面側の受講生に簡単に提供できるからです.一方,従来型の教室では,設備備品(スクリーン,マイクロフォン,スピーカーなど)の仕様・性能を事前に検討しておく必要があります.
8.ハイブリッド型授業の実践事例
僕は1年生の有機化学(履修者130名)を担当しています.2020年度後期は履修者を2部屋に分けて45分ずつ同じ内容の講義を対面で実施することにしました.前後の時間割の担当教員と調整することで実施可能になりました.不足する45分に相当する内容はオンデマンド動画視聴と課題提出で補うこととしました.
従来の授業ではピアインストラクション,グループワーク,シャトルカードをそれぞれクリッカー,分子模型,紙,で実施していたのですが,今年度は道具類や紙の配布や回収が難しいので,オンラインツールで代替しています.
・クリッカーはslido(https://www.sli.do)
・分子模型はmolview(https://molview.org)
・シャトルカードは大福帳.js(https://goose.cite.tohoku.ac.jp/daifukujs/)
対面授業でオンラインツールを使っておくと,緊急事態が発生した場合でもそのままの授業設計で簡単にオンライン授業に移行することができます.
授業の感想を大福帳.jsに書いてもらいました.意見交換が楽しかった,他のひとの考えがわかった,聴くだけの授業じゃなくてよかった,などポジティブな感想が多かったです.
1年生は入学以来,大学に通学できず,いきなりオンライン授業でしんどかったと思いますが,一方通行の講義を画面に向かって視聴し続けるのでは疲れますよね.でも,今まで普通に実施していた「大人数教室での一方通行の講義」も実はしんどかったのに,それがオンライン化によって可視化されただけなのだと僕は思います.双方向性のある授業は,オンライン,対面のどちらの方法でも満足度が高いということです.
オンライン授業が一定のポジションを占めつつある現状ですが,こういうときこそ教員・学生の双方が「対面授業の意義」を考える機会になればいいと思います.
9.参考資料
・ハイブリッド型授業とは.京都大学高等教育研究開発推進センター.URL
・ブレンデッド教育とは.大阪大学全学教育推進機構.URL
・反転授業による物理化学の授業実践.小椋賢治.URL
・オンライン授業でジグソー法ポスターツアーを実施する.小椋賢治.URL
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