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「ボルン則を証明した」という堀田先生の反論に対する最終回答(のはず)
堀田昌寛先生の書籍『入門 現代の量子力学』のまえがきにある,「確率解釈のボルン則や量子重ね合わせ状態の存在などを証明する」という記述に関連して,これまでに彼と数多くの議論を行ってきました。堀田先生からのコメントに対する私からの(比較的しっかりとした)回答としては,今回の記事が最後のつもりです。その理由は,彼が前提を変えられるといった「反則技」といえる行為を行ったと思われるためです(合理的に考えれば,そうとしか結論付けられません)。このため,本件に関して彼とこれ以上話し合うことは無益だと考えました。
いくつかの準備を行った後で,「回答3」の節で詳細を述べます。
これまでの大まかな経緯
私の記事(以下,『中平記事』とよびます)
(およびこちらの記事)に対して堀田先生からコメントをいただき,私から回答をし,その回答に対してさらに堀田先生が次の記事(以下,『堀田先生記事』とよびます)
で反論されています。この『堀田先生記事』に対して,今回の記事で主要なことを回答します。以降では,『中平記事』と同じ用語を用います。また,堀田先生の書籍『入門 現代の量子力学』を堀田量子本とよびます。
回答1(準備):本書のどの部分かを正確に指摘すべき?
準備の一つ目として,まず次のコメントに回答します。
堀田先生:中平氏には本書を印象で語らずに、具体的に本書のどの記述部分に「致命的な誤り」があるのかを、章、節、段落や用語などを正確に指摘して、説明をもらいたいところです。
補足:ほかにも,「中平氏の批判は本書に当たりません」や「第3章とは別の主張を展開しています」のような文言を用いて,私が主に批判をしている対象が堀田量子本の記述であるかのような発言を数多くされています。
中平回答:私は,'24/12/15までは,「『前提』を満たす任意の理論は量子論である」という堀田先生の主張に対して一貫して問題視していました。そして,この主張は堀田量子本のまえがき(p.iii)にある「確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する」という記述と密接に関連しています。また,'24/12/16以降では,彼は明らかに主張を変えられていると思われます。
補足:『中平記事』で定めているように,任意の系$${Y}$$が$${\mathbf{St}_Y \cong \mathsf{Den}_n}$$(ただし$${n}$$は系$${Y}$$の準位)を満たす理論のことを量子論とよんでいます。
このため,私の批判の対象は
'24/12/15までの彼の主張がまとめられている彼のはてなブログ(以下,『最終回答』とよびます)
堀田量子本のまえがきにある「確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する」という記述
'24/12/16以降の彼の主張が述べられている堀田先生の記事('24/12/16公開)およびそれ以降の彼の記事
の三つがメインです。ただし,これらの主張が堀田量子本の内容と整合していなければその主張には不備があるといえますので,この意味で堀田量子本の内容に言及していることもあります。
堀田先生は,堀田量子本では厳しいページ数制限があるため,補足資料などで説明するといった旨の発言を繰り返されてきました。実際,たとえば上で述べたまえがきの記述についても,ボルン則の証明に用いられている前提が堀田量子本には明記されていません。このため,私が批判していることのすべてが堀田量子本に書かれているわけではないことを批判するのは,不合理といえるでしょう。また,これまでの議論から,私の批判の対象は上の三つがメインであり,少なくとも堀田量子本の第3章などをメインに批判しているわけではないことは自明なはずです。したがって,この堀田先生の批判は,論点のすり替えといえると思います。
なお,私は具体的にどの記述に問題があるのかを,少なくとも一連の議論の内容を理解している人が読めばわかるようには示しているつもりです。ただし,先述のとおりその多くは堀田量子本の記述ではないと思います。
'24/12/29追記:上の「私が批判していることのすべてが堀田量子本に書かれているわけではない」という文言は,公開時には「私が批判していることが堀田量子本に書かれていない」と書いていました。文脈からほぼ明らかであると思いますが,堀田先生のXのポスト('24/12/29)を受けて,念のため誤解を招く可能性がより低い文言に修正しました。
回答2(準備):理論と系は違う?
準備の二つ目として,次のコメントに回答します。
堀田先生:主張Aでは、特定のエネルギー領域で対象系が量子力学の公理を満たすという主張がなされています。一方、主張Bでは、異なるエネルギー領域において量子論とは異なる振る舞いを示す理論が論じられています。「対象系」への言及と「理論」への言及は違います。このように、両者の主張内容は全く異なるものです。しかしながら、中平氏は主張Bの証拠としてΘ理論を提示し、それを根拠に「本書第3章には致命的な誤りがある」と結論づけています。
中平回答:「対象系」への言及と「理論」への言及は違うと指摘されているようです。しかし,このことは(エネルギー領域の話は別にして),全く本質的ではない指摘だと思います。
私が「『前提』を満たす系」といった表現ではなく「『前提』を満たす理論」といった表現をしている理由は,『前提』では2準位系と多準位系の少なくとも二つの系が現れ,特定の系に対する言及になっていないためです。このため,個人的には「『前提』を満たす系」という表現に若干の違和感を感じます。この違和感を気にされないようでしたら,「『前提』を満たす系」といった表現に置き換えていただいても構いません。ほぼそのまま(または微修正のみ)で置き換えられると思います。
補足:堀田先生の記事で登場する「3準位系の量子力学」のような概念として,「3準位系$${X}$$のみを含むような『前提』を満たす理論」を考えてもよいと思います。
堀田先生がこのような指摘をされることは,私としては心外です。なぜならば,堀田先生ご自身の記事に,これらの区別があいまいだと思われる箇所が複数あるためです。たとえば,堀田先生の記事('24/12/16公開)には,次のような記述があります(以降では,引用の一部を中平の判断で強調することがあります)。
引用1:
彼がΘと呼んでいるその「非量子論」では、一般確率論の意味で識別可能な状態が3つではあるが、それは3準位系の量子力学とは異なる理論として扱われ、かつ私の条件を全て満たしています。しかしΘ理論は、6準位の量子力学の体系に自然に埋め込めます。
引用2:
私の立場では、Θ理論には私の教科書の第3章の量子状態トモグラフィ法で定義される「量子3準位系」と相互作用をする「隠れた量子2準位系」があるだけです。
引用3:
Θ理論は3準系の量子力学の公理系を確かに満たす「3準位量子系」になっているのです。
引用1については,理論$${\Theta}$$を系$${X}$$と混同されていると考えるのが自然でしょう(なお,理論$${\Theta}$$には10準位系などが含まれいても構いませんので,理論$${\Theta}$$を6準位の量子力学の体系に自然に埋め込めるとはいえないでしょう)。引用2も同様であり,引用3では明らかにこれらを混同されているはずです。これらの混同が議論の進行を妨げていると思われることがありましたので,私の記事では「理論」と「系」を区別するために私なりに修正して書きました。『中平記事』以降の私の記事では,(1個くらいはミスがあるかもしれませんが)明確にこれらを区別しているはずです。
回答3(メイン):「『前提』を満たす理論は『公理系』を満たす」は間違い?
次のコメントが致命的だと考えます。
堀田先生:まず本書の「まえがき」には
(中略)
と書いてあります。つまりここでは「『前提』を満たす理論は量子力学の標準的な公理系を満たす」と中平氏が誤解している内容は全く登場しておらず、代わりに「最小限の実験事実に基づいた論理」で、「ボルン則」と「量子的重ね合わせ状態」の存在を証明するという記述のみです。
中平回答:以降では,堀田先生の記事('24/12/16公開)で「標準的な量子力学の公理系」とよばれている5個の公理の組を『公理系』とよぶことにします。
私は,堀田先生は
主張P:『前提』を満たす任意の理論は『公理系』を満たす
という主張をされているのかと思っていました。しかし,上の堀田先生のコメントによると,これは私の誤解である,つまり主張Pは間違っているとのことです。
これまでの議論を整理した後で,上のコメントに対して回答します。
まず,'24/12/15までの話をします。この期間は,
旧主張:『前提』を満たす任意の理論は量子論である
またはこの主張の「理論」を「系」に置き換えた
旧主張:『前提』を満たす任意の系は量子系である
という堀田先生の主張を問題視して,『中平記事』などで議論してきました。
この主張の正否が一貫した議題であったことは,過去のXでのやり取りや私の一連の記事(例:'22/08/15公開,'24/11/02公開,『中平記事』)から明らかです。なお,この主張は「任意の$${n}$$準位系$${Y}$$が$${\mathbf{St}_Y \cong \mathsf{Den}_n}$$を満たすことを『前提』から演繹的に導ける」と言い換えられます。念のため,関連する堀田先生のXのポストの一部も引用しておきます。
引用1:
第3章は物理操作の仮定(この仮定は既知のある系では実験的にも実証済み)によって、St_N≅Den_Nとする議論になっています。
(中平注:「St_N≅Den_Nとする」は,その前後の文脈から「St_N≅Den_Nを導く」の意味のはずです。St_NはN準位系の状態空間です。)
引用2:
まず「「St_N≅Den_N」を論理的に示すという問題に対して「St_N≅Den_N」自身を前提とする」ことは第3章でもしていませんよね。誤解を広めないで頂きたいと思います。数学の単なる公理として導入するのではなく、「実験で検証可能な」論理を与えているので、そのようなトートロジーではありません。
引用3:
4’の前提は丁寧に状況説明をするため長くなりましたが、実験で検証できる形になっています。これらの前提が成り立つ3準位系の確率理論は量子力学で表記することが可能であることは「補足」の後半をご覧ください。
この主張に対し,『中平記事』では『前提』を満たす非量子論が存在することを示しました(その非量子論が理論$${\Theta}$$です)。
次に,'24/12/16以降の話をします。堀田先生の記事('24/12/16公開)では,彼が演繹的に導いているのは『公理系』を満たすことだと主張されています('24/12/15までの主張と変わっています)。該当箇所を引用します。
引用:
私の教科書では、標準的な量子力学の公理系を満たすものという意味で「量子系」としています。多くの他の教科書にもある、その標準的な公理系とは、下記になります。
(中略)
私の上の回答のnote記事でも述べたとおり、これらの公理は2準位系でも多準位系でも、私の方法によって実験からきちんと演繹されます。この点は間違いのない事実ですし、中平氏が言うような「致命的な誤り」では決してありません。
つまり,考察の対象としている理論(または系)に対して演繹的に導いていると彼が主張しているのは,「『公理系』を満たすこと」とのことです。したがって合理的に考えれば,堀田先生の主張は
旧主張:『前提』を満たす任意の理論は量子論である
から
主張P:『前提』を満たす任意の理論は『公理系』を満たす
に変わったといえるでしょう。くどいようですが,先述のように「理論」を「系」に読み替えていただいても構いません。
補足:本来ならば,'24/12/16に勝手に主張を変えられた時点で不誠実な対応であろうと考えられるため,議論を打ち切ってもよかったと思います。しかし,堀田量子本のまえがきに書いてある「ボルン則」に関連する話題ではありましたし,法的措置を検討されていたこともありましたので,議論を続けました。
しかし,先述のように主張Pは間違っているとのことです。すでに述べたように,主張Pのうち「『公理系』を満たす」の部分は合っているはずですので,必然的に「『前提』を満たす」という前提の部分が間違っていることになります。
実際,『堀田先生記事』を読んでも,前提の部分を変えられているようです。そのことは,たとえば次の文章から読み取れます(同じ記事に類似の記述が多数あります)。
引用:
本書第3章で主張されているのは、「ある特定のエネルギー領域で実験される対象系が量子系であるか否か」という点です。具体的には、特定のエネルギー領域において、対象系がボルン則や状態の重ね合わせ、量子力学の公理系を満たす場合に、その対象系を「量子系」と定義しています。この考え方を本書の主張Aとします。
「特定のエネルギー領域」といった『前提』には書かれていない話をされています。
以上より,合理的には,堀田先生は何の断りもなしにまた前提を変えられたとしか考えられないはずです。これは,もはや話にならないレベルです。
なお,主張Pにおける「理論」は「系」のことであり,前提は変えていないと堀田先生が主張されている可能性も残ります。この場合には,私の想像以上に堀田先生が私からの指摘を理解されていないと思われますので,これはこれで議論にならないと思います。ただし,さすがにこの可能性は低いと思います(このことは,「補足:前提を変えていない可能性について」の節で補足します)。このため,以降では前提を変えられたものとして話を進めます。
『中平記事』の「注意点」の節では,前提を変更することに関して次のように述べました。
引用:
演繹的な導出を考える上では,『前提』で明記されている一字一句が非常に重要です。『前提』に少しでも不備がある場合には一般に導出は行えません。また,『前提』を少しでも変更すると,そこから導かれる結果は大きく変わる可能性があります。
また,同じ記事の最後のほうで次のように述べました。
引用:
補足2:堀田先生の『最終回答』は,論としての根底部分は変更ないという意味で「最終的な回答」であるとのことです。このため,さすがに『前提』をまた変更する(または『前提』で明記されていない条件を勝手に追加する)といった不誠実な行為をされることはないとは思います。
少なくとも『中平記事』を公開するまでは前提を変えられたような記述はないように思いますので,堀田先生はこの記事を読まれた上で(またはろくに読まれずに)前提を変えられたことになるでしょう。なお,私の記事('22/08/15公開)で述べたように,前提を変えられたことは今回が初めてではありません。参考情報として,中平のXのポストも引用しておきます。
引用1(前提を変えられることに対する忠告):
これまでに前提が何度か変わっていますが,前提が変わると演繹的に導けるか否かを判断しなおすことが必要になりますし,この判断は相応の労力を要する場合があります。論理を追うことが辛くなる旨,ご承知おきくだされば幸いです。
引用2:
私としては,(過去にされたように)堀田先生から前提などを変えられるといった腑に落ちない言い逃れをされて,「議論にならない」ことを懸念していました。今回は,そうならないことを祈りながら,他の人にも概要が伝わるように説明します。
前提を勝手に変えられることは,今までの議論(の一部または全て)をなかったことにされたことと大差ありません。したがって,前提を変えられたとすると,本件について堀田先生とこれ以上の議論をしても意味がないであろうと考えます。このため,申し訳ありませんが,堀田先生のコメントに対するこれ以上の回答は控えさせていただきます。何度も指摘をしたにも関わらずまた『前提』を変えられたのだとしたら,学術的にあまりに不誠実な行為ではないかと思います。万が一,前提を変えられていないとのことでしたら,今回の議題に対する堀田先生のメインの主張を明瞭・簡潔にまとめた上で,知恵のある第3者が納得するような形で釈明してくださいますよう,お願いいたします。
補足:彼から看過できないコメントなどが出されたときは,補足をするかもしれません。
百歩譲って,前提が変わったことを許容したとしましょう。またもや,前提がどのように変わったかは明記されていません。それにも関わらず,考察の対象としている理論(または系)が「『公理系』を満たす」と主張されています。前提を明らかにすることなく演繹的に導けると主張されても,その信憑性は皆無ではないかと思います。例えると,ゲームのルールを勝手に変えて,しかもそのルールを相手に教えずにゲームを進めているようなものです。
補足:『最終回答』では,『前提』からボルン則などを導こうとしているはずです。また,その導出の過程で,
旧主張:『前提』を満たす任意の理論は量子論である
が正しいことを導こうとされているように読めます。もし『旧主張』が正しいことを導けないと,私の記事('24/12/21公開)で指摘したような不備が生じますので,このアプローチは理にかなっているとは思います。しかし,『中平記事』で『旧主張』が間違っていることを示し,堀田先生は『旧主張』が正しくないことを認められているはずです。
もし「『最終回答』では『前提』からボルン則などを導こうとしている」という私の理解が間違いなのだとしたら,もはや『前提』の役割(つまり『前提』を満たす理論がどのような性質を持つことを導きたいのか)がわからなくなります。量子論であることを導いているわけではなく,『公理系』(またはその一つであるボルン則)を満たすことを導いているわけでもないことになりますので。
補足:前提を変えていない可能性について
堀田先生は,主張Pの「理論」の部分を「系」に変えた
主張P2:『前提』を満たす任意の系は『公理系』を満たす
を主張されているだけであり,前提は変えられていないのではないか,と思われる読者がいらっしゃるかもしれません。しかし,私の記事('24/12/21公開)で述べたように,『中平記事』で述べた系$${X}$$が『公理系』を満たすと仮定すると矛盾が生じることは,堀田先生はさすがに理解されていると思われます。たとえば,『堀田先生記事』にはこのことを示唆する次のような記述があります。
引用:
中平氏のコメントを見ると、また実験されていない高エネルギー領域にまで、ボルン則と量子的重ね合わせ状態が「存在」しているというのが本書の主張であると、拡大解釈をされているだけだと思われます。
ですので,この可能性はないのではないかと思います。
参考
堀田先生が主張P(や主張P2)が間違っていると主張されているのだとしたら,その主張は『最終回答』における次の文章と整合していないのではないかと感じます。
引用:
量子力学という理論の公理や前提を最初に述べて、その理論の帰結を示していくスタイルの教科書が主流ですが、そのデメリットもコメントしておきます。ある物理系が量子力学で記述される量子系であることを実験で確かめたい場合、公理から予言される現象をいくら実験で確認しても、どの段階からその系が本当に量子系であると断言できるかが曖昧なわけです。「これだけ沢山整合する実験結果もあるし、多分量子系であろう」という感じに終始してしまうのが、公理から出発する量子力学体系の弱点です。本教科書のスタイルには、最小限これだけの実験をして理論と整合をすれば、その系は完全に量子力学を満たす真の量子系であると断言できる強みがあります。
この文章から,ある物理系が与えられたとき,「最小限これだけの実験をして理論と整合をすれば,その系は完全に量子力学を満たす真の量子系である」と主張されているように読みとれます。そして,『最終回答』でまとめられている『前提』は,実験で最小限検証すればよい前提であったはずです。つまり,「『前提』を満たすならば,その系は完全に量子力学を満たす真の量子系である」と主張されているように読めて,この主張は主張Pと本質的に同じであるように思います。
とはいえ,前提を変えられたならば,議論として何でもありになってしまうでしょう。たとえば,「最小限これだけの実験をして理論と整合をする」ことは「『前提』を満たす」こととは異なるといった主張もあり得ます。
回答4(補足):藁人形論法?
念のため,次のコメントにも回答しておきます。
堀田先生:まず参考として紹介すると、Wikipediaには今回の件に当てはまる悪い議論の例が、「藁人形論法」として紹介されています。
(中略)
「実験されるエネルギーで、対象系は量子系」という話への中平氏の批判もこれと似ていて、「量子系」としか言及していないことに対し、暗黙的に「量子系=量子論」であると誤誘導し、さらに「第3章では非量子論が否定されていない」と拡大解釈をしています。
中平回答:私の認識では,決してこれらの「誤誘導」や「拡大解釈」をしているわけではありません。知恵のある第3者が納得するような根拠もないのに「誤誘導」・「拡大解釈」と断言され,「藁人形論法」という煽りともいえる発言をされることから,もはや学術的に真っ当な議論をする意思がないのではないかと推測します。非常に残念です。
まず,私が「量子系=量子論」であると誤誘導しているという件について説明します。このように堀田先生が感じられたのは,「回答2」で述べたように,理論と系を混同されていると思われるような堀田先生の記述(例:"Θ理論は3準系の量子力学の公理系を確かに満たす「3準位量子系」")に対して,私なりの言葉で言い換えたことが大きく影響するのではないかと想像します。また,私が「『前提』を満たす系」ではなく「『前提』を満たす理論」といった表現のほうが適切だと考えていることも影響しているのではないかと思います。つまり,「誤誘導」は堀田先生の誤解だと思います。
次に,私が「第3章では非量子論が否定されていない」と拡大解釈をしているという件について説明します。これに密接に関連することとして,以下のような推論(または主張)はしました。
中平の推論:『前提』を満たす任意の系は『公理系』を満たす(つまり主張P2を満たす)と堀田先生は考えられているはず。
なお,ややこしいため「理論」を「系」に置き換えて述べています。この推論が正しければ,堀田先生は『公理系』を満たす系を「量子系」とよんでいるようですので,『前提』を満たす系は「量子系」とよべて,したがって第3章の話が適用されると考えることは妥当ではないかと思います。だとしたら,『中平記事』で示した非量子系$${X}$$も『前提』を満たしますので,第3章の話が適用されるはずでしょう。
なお,上の推論は,堀田先生が前提を変えられることはないであろうという性善説に立ったものであり,この推論が合理的であろうことは「回答3」で説明しました。つまり,この推論は,堀田先生が前提を変えられないという仮定のもとで合理的に導かれるはずであり,「拡大解釈」ではないと考えます。
補足:実際には「回答3」で述べたように,この推論は間違っていたことになるでしょう。この場合,「拡大解釈」以前の問題として,「議論にならない」といえます。
堀田先生の追加のコメントに対する回答
'25/1/4追記:念のため,主なもののみ回答しておきます。
堀田先生:中平氏が本日2024年12月29日に、上記の記事をnoteに掲載されました。その中では、「私が批判していることが堀田量子本に書かれていないことを批判するのは,不合理」という、私にとってはとても理解に苦しむ主張がされています。そして今回も、「堀田量子」の何ページのどこの箇所の記述が、中平氏が主張をする「書籍『入門 現代の量子力学』の致命的な誤り」なのかが、全く明らかにされていません。
中平回答:堀田量子本のまえがき(p.iii)にある「確率解釈のボルン則や量子的重ね合わせ状態の存在などを証明する」という記述に,少なくとも'24/12/15までは「致命的な誤り」があったと判断できます。'24/12/16以降では前提を変えられたようですので,議論になりません。詳しくは,次のまとめ記事をご参照ください。
「私が批判していることが堀田量子本に書かれていないことを批判するのは,不合理」という文言の意味については,文脈からほぼ明らかであると思います。念のため,「私が批判していることのすべてが堀田量子本に書かれているわけではないことを批判するのは,不合理」という,より適切な文言に修正しました。