「ヨーロッパ林業」はなさそうだ
日本に住んでいた頃は、日本・アメリカ・ヨーロッパというカテゴリーわけで海外のことを考えることが多かったが、ヨーロッパの2つの国で合計1年以上暮らし、しかも途中でウェールズとスイスで各10日ほどを過ごしてみた経験から考えると、こと林業について「ヨーロッパ」と一つでくくることなどできないことにつくづく気づかされる。
例えば、林業の収益性を考える上で重要な伐採周期(Rotation period)が、同じ樹種でもドイツとスウェーデンではまったく異なることを知った。両国ともに代表的な針葉樹であるオウシュウトウヒPicea abies。ドイツでは80年から100年と言われているが、スウェーデンでは50年以下が一般的な施業パターンなのだそう。択伐が一般的なドイツと皆伐が一般的なスウェーデンといったスタイルの違いもあるだろうが、少なくともドイツ林業のスタイルをヨーロッパ一般のそれと思ってはいけない。ドイツは胸高直径(DBH)が必要十分なサイズに育つまで待つという考え方、スウェーデンでは年間平均成長量(MAI)が一番大きくなる45年で切ってしまうという考え方のようだ。
「ヨーロッパ」でくくっていいのは、EUの森林行政を語る時ぐらいかもしれない。ドイツ北部とスウェーデン南部というのは車で数時間の距離で樹種の構成もよく似ているのだが、考え方は上記のように異なる。もう一つ違いを言うと、ドイツでは森林署が公有私有を問わず森林マネジメントに深くかかわっているが、スウェーデンでは森林署の影響力はかなり限定されたものとなっているとのこと。スウェーデンに来ると、ドイツ林業がヨーロッパの中でも特殊なものに見えてくる。ドイツにいたころにはそんなことを感じることはなかったのだけど。
日本の林業がヨーロッパから何を学べるのか、ということに視点を移すと、ヨーロッパ林業というものはなくて、それぞれの地理的条件と歴史的背景によっていくつもの林業経営のパターンが存在する、という前提をよく理解したうえで、それぞれの経営主体が、自らの初期条件のもとでこれはいいと思う事例を探しだし、真似をし、そして改善につなげていけば良いと思う。他社(者)の良いところを真似るところから始める、というのは決して悪いことではない。日本の製造業が通ってきた道でもある。
日本の製造業がなぜ世界市場で競争力を持ち続けているのか、例えば複数の自動車や二輪メーカーが今も生き残っているというのは他国の事例をみると驚くべきこと。こんなことを調べてみるのも有用だと思う。例えば、ホンダを本田宗一郎と共に育て上げた藤沢武夫氏の名著『経営に終わりはない』はいろいろ参考になると思う。
オリジナル記事公開日:2012年10月5日
追記(2024年5月8日):
今なら書けない内容の記事ですが、意気盛んな修士課程の学生はこんなこと考えてた、ということでご容赦を。また、当時はまだ日本の製造業が競争力を持っていた時代。今も業種によっては競争力を持っていると思うが、輸送機器については、トヨタ以外はみんな青色吐息な印象です。ホンダなんかは思い切って航空・宇宙事業の会社に生まれ変わるぐらいの勢いがあると面白そう。
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