スウェーデン南部森林組合の経営戦略
少し前に、IKEAと林業について、IKEAで働くフォレスターが講師となった特別講義の記事を書いた。このようにEuroforesterのプログラムではスウェーデンの林業関係者による特別講義が多く組まれていて、現場の様子を詳しく学ぶことができる。
昨日は、Södraと称されるスウェーデン南部森林組合(Södra Skogsägarna)の事業内容について、当大学院の博士課程を出て、現在その組合で働く講師の講義を受講した。
Södraはスウェーデン南部の約5万人の小規模森林所有者が出資している組合。主な事業は、出資者林家から出荷される木材の加工販売と森林管理請負業務。2011年度の売上高は181億クローネ(約2000億円)、営業利益は9億クローネ(約100億円)。営業利益率は5%。
スウェーデンではこういった小規模森林所有者が出資して設立した組合が北部・北中部・中部・南部と4つあるそうなのだが、事業規模はこの南部地方のそれがダントツに大きいのだそう。
なぜ突出した事業規模なのか、というと、この組合が集荷だけでなく、大型の製材工場、チップ工場、インテリア生産工場を複数経営していて、加工による付加価値分が加わるからなのだとか。
出荷先の4割強がスウェーデン国内、5割が他のヨーロッパ各国、残りがアジアを中心としたヨーロッパ圏外各国。特に2012年度に入り、中国への輸出が急ピッチに伸びているのだそう。
こういったサプライチェーンの上流が下流を統合していく経営は、農業の世界では6次産業化と言われ、結構一般的で、私も以前そういう企業で勤めてました。林業の世界でも、住宅販売まで取り組む企業等このコンセプトに合致している経営は多そうだ。ただ、日本の場合は、ニッチ市場に食い込む、というのが大前提。この組合のように、価格競争の厳しい大きな市場に正面から打って出るというケースはあまり聞かない。この経営戦略の差はどこから生まれてくるのか、興味を持った。
驚くべきは、2011年度まで12年間連続して利益を計上しているという点。利益の三分の一は直接出資者に還元されるそうで、おおざっぱに平均すると出資者の林業所得の1割ぐらいがこの利益還元金になるのだそう。実際の利益還元のルールは複雑で、いろいろなケースがあるようだが。
こういった収益性の高さが、多くの小規模森林所有者の関心を引き続けていると主張していたのが印象的だった。森林所有者にとってこの組合が唯一の選択肢ではなくて、同じような事業を展開している民間企業が複数あるのだそう。そういった厳しい環境のなかで生き残ってきたというのは、特筆すべきこと。2000億の規模というと、日本の一次産業に携わる企業では該当するものはおそらくなさそう。
このように優良な事業体であるSödraも、今年度は赤字の見込みなのだそう。売上の9割を占める欧州市場のユーロ危機が引き金となった冷え込みと、スウェーデンクローネの独歩高がダブルパンチとなったそうだ。約3500名の従業員のうち7%程度のスタッフのリストラをすでに決めている、という話も。こういう話を遠慮なくしてくれるというのもさることながら、さっさと人件費圧縮を決断する経営陣の判断の速さにも驚かされた。ご承知の通り、失業保険や再就職のあっせんに関してはとても手厚い国だし、中堅どころの人材でも何社かを渡りあるくというのが比較的一般的なようなので、リストラしやすいということも背景にありそうだが。
さらに面白かったのが、そういう状況だけれども、出資者であり出荷者である森林所有者とのパイプ役の仕事(営業マン?)のポストは減らすことは考えていないということ。そして、このポジションは新卒の学生を毎年20人ぐらい採用するそうで、スウェーデン語さえできればどの国の学生でも応募できるから、もし就職したければ連絡してね、と真面目な顔で話があったこと。スウェーデンで森林科学の高等教育機関は当大学しかないので、ここの学生に声を掛けるのが一番効率がよい、ということもあるのでしょうが、日本ではこういうことってないよな、と正直とても驚いた。
言葉ができて、森林科学の知識をきちんと持っていさえすれば、出自を問わず採用する、という姿勢はとてもフェア。この姿勢は日本の会社もみならうべきだと感じた。何人であれ、優秀なスタッフが一人いるだけで生産性ががらりと変わるのがグループワークというものだと思うから。僕は就職する考えはないですが、ひょっとしたら今机を並べている同僚の誰かが来年はポジションを得ているかも、と考えるとちょっと面白い。
オリジナル記事公開日:2012年10月19日