太陽にほえない
あれはおそらく小4くらいの頃だと思うが、同級生に教師の息子がいた。僕は子どもながらに、彼の自尊心に満ちたキザな振る舞いが大いに鼻についたのだが、やつの根底にある優しい部分と分野を問わない博識ぶりをリスペクトしていたので、なんだかんだでよく遊んだものだ。要するに嫌いじゃなかったのである。
彼と『太陽にほえろ!』ごっこをするときは、僕は必ず新米刑事の役であり、彼は「ボス」であった。やっぱりおまえは俺の上司か。まあそうなるわな。いいさ別に。派手に死ぬとこを演じることのできる僕はラッキーだ。電話ボックスでボスに電話して、「ボ、ス…」などと言いながら事切れる演技をして見せたものだ。やつは満足そうに笑ってやがった。
余談ではあるけれど、このドラマは僕に絶大な影響を与えた。井上堯之バンドのサウンドトラックがあまりに魅力的すぎて、思わず耳コピしてしまったのである。小学生の僕には難しかった。しかしながら、必要に迫られればなんとかなるものだ。再現できてなかろうが、ヘタだろうがなんだろうが構わない。プロフェッショナルの人が創り出す「その場に合った音楽」に僕は恋焦がれたのだ。僕の音楽的基礎はすべてここで培ったと言ってもよい。
やがて年月が経つ。中学に上がる頃には、やつはジノ・ヴァネリとかいう人物の音楽に心酔していた。この人の偉大さなんて当時は知らない。誰だそれ。
なのにやつは、「彼のラブソングはさあ」などと抜かしやがる。い、イタイなあおまえ。でも嫌いじゃないよ。ていうかスキ。
今思えば実に早熟極まりない友人であった。
でも、彼の部屋で聴かせてもらった新しい音楽の数々は、すべて自分の血となり肉となっていることが今、あらためて分かる。
そんな彼に、数年前にfacebookで友達申請をしてみた。
華麗にスルーされた。
まあよい、人生いろいろ、そんなものかもしれない。でもな、君のこと、俺は好きだよ。