僕の中の田中
田中という姓は日本において極めてポピュラーで、我が故郷、群馬にも大勢の田中がいた。
僕の人生で関わりのあった田中といえば、そんな群馬時代に、小中学校で同級生だった3人がそうだ。
1人は親友であり、
1人は僕の母のところにピアノを習いにきていた女の子で、
もう1人は9年間で一度も同じクラスになったことがないため直接的な関わりはなかったものの、弾けそうな笑顔と苦しそうな顔(バスケ部ですごく走らされていたイメージがある)が記憶に残っている。
このバスケ部の田中君は一年ほど前だったか、我々より先に旅立った。
顔に「いいやつ」と書いてあるような人物だったので、クラスは違えど、彼と触れ合ってみたかったな、などと思った。
ピアノを習いに来ていた田中さんは快活な子で、やがて医師になり、今ではたまに同級生を診たりしているようだ。
親友の方の田中君は、これ以上はないのではないかというほど眼鏡がよく似合い、こちらが申し訳なくなるほど優しい男で、たいていはニコニコしているのだが、子供の頃からどこか影(もしくは陰)があり、ときにシニカルなことも述べたりして、たまに会う今も、そうした雰囲気や影はある。
とはいえ、とにかく底抜けに優しく、ここ数年など、僕は彼と一緒にいるだけで自分の人生の悔いなんてものがどうでもよくなるほどに安心した気持ちになるのであった。
中学の頃からアコースティックギターを弾いており、そのあまりの才能に驚いたものだ。
彼がつまびく弦はときに柔らかく、ときに力強く震えて、弾き手の情緒を見事にそのまんま反映させたような音色を奏でるのであった。
そんな田中君だが、やっぱり会うたびにあまりに優しくしてくれるので、つくづく申し訳ない。
いつか、彼に最高の贈り物をしたいと思う。
何がベストなんだろうか。