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キンモクセイ

キンモクセイが、ようやく街にやってきた。

キンモクセイなど、どの街にもそこかしこに存在しているのだから、「香り始めた」という表現の方がもちろん正しい。でもこの香りを心底愛する自分としては、「やってきた」という表現がしっくりくる。

この季節が年々後ろ倒しになっている気がするのは残念なことだ。
若い頃には、この香りは夏の終わりを告げる感傷的な気分の象徴だった。なぜだか哀しいのに、その一方で何かの踏ん切りがつくような複雑な気分で過ごす。それが9月という月であった。
気のせいかもしれないけれど、若い頃の自分が何かについていちばん成長したのも9月だったように思える。自分が高校球児だったこととも関係しているかもしれない。9月は高校野球にとって大きな切り替えの季節だからだ。先輩が引退してチームが新しくなるのだ。それが今でも刷り込まれているのかもしれない。

そもそも夏というのは、特段何かがなくたって自分にとっては祭りのような季節だ。やり過ごすのはなかなかに大変な季節であることは確かだが、なにせ冷えた水とビールがうまい。生きていることを最も実感する季節だ。冷えたビールを飲んで、酔った勢いで偉そうなことを言い放ったり、人生なんてどうにでもなると思う。そうしてなぜか、9月にはキンモクセイの香りとともに我に返るのだ。

季節に翻弄される。でも、それでいいと思う。そうでなければ人ではない。

東京なら、井の頭線がおすすめだ。
ただ乗ってるだけで、どういうわけかキンモクセイの香りがほんのり漂う。




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