西国分寺のお姫さま
ある日の朝、西国分寺という駅で特に当てもなく下車し、改札口に向かう階段を登っていた。
すると髪を後ろでまとめた若い女性が、長めのスカートの片方を少しだけ絞り上げるようにして、
急ぎ足でありながらも、極めて品の良い所作で階段を駆け下りてくる。
まるで子供の頃に読んだ何かの童話で、お姫さまが階段を駆け下りてくるシーンのようだ。
お姫さまはそのようにして僕の横を駆け抜けて、
僕が今降りたばかりの中央線・高尾行きにギリギリのところで乗り込んで行った。
今ごろあの高尾行きは、彼女がまとっていた服のアジサイのような色でいっぱいになっていることだろう。
アジサイはアジサイでも、薄い緑のアジサイだ。
薄い緑のアジサイ。たぶん、そういう色だった。
人の心をそおっとノックして、首をちょこっと傾けながらニコッと微笑んで、またどこかに行ってしまうような風。
そんな風みたいに、控えめでありながら鮮烈な印象の色合いだった。