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You Are the Music

ホームに滑り込んできた車両はピカピカの最新型で、鉄道マニアではない自分ですら心が躍るような気分になった。

シルバーとピンクからなる、なんとも神々しいその最新型の車両は、あくまで通勤電車であるのに、ご丁寧にも横並びの座席の一つひとつが独立したシートになっている。京王電鉄も面白いことをするなあ、この特別感、うまく言えないけど嬉しいな、などと思いながら腰を下ろす。

すると、真向かいの座席に黒いワイヤレスイヤホンのケースが置き去りにされていることに気づいた。ケースの中にはもちろん、大切なイヤホンが入っているはずだ。

忘れ物を届け出るのにも気をつかう世の中だ。
数年前、山手通りを歩いていた僕は、道に落ちていたスマホをいかにして交番に届ければよいか迷いに迷って、わざわざどこかの警察に電話したことがある。だって、そのスマホを拾い上げて交番に向かったところで、我が物にしようと思ったのだと誤解されたらどうする?

電話に出た職員はさも化石のような人間を見つけたかのように、「構いませんよ、最寄りの交番まで持って行ってくださいクスクス」と言った。

それでも、僕は今回も細心の注意を払おうと決意した。

まずはスマホにメモをする。

9:47府中発 特急高尾山口行き
3号車真ん中あたりで発見

などと。

次の駅に着く。
すると、僕の横に座っていた、往年の菅井きんさんによく似たおばあちゃんが、こともなさげにそのワイヤレスイヤホンを拾い上げ、僕に目配せをした。そして何かを述べた。

彼女はきっと、任せときな、駅員さんに渡しておくよ、と言ったに違いない。

おばあちゃんが去ったあと、僕のワイヤレスイヤホンでは、最近気になっているバンドの

You Are the Music

という曲が流れていた。

なんてイカしたタイトルだろう。

そしてもちろん、このときの僕にとっては、あのおばあちゃんが最高の音楽だった。

You Are the Music…

You are the music...

でもそうだ。

I'm the music.

Everyone's the music.

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