【物語】 林檎の王様と真っ赤な国 (10)
* * * * *
かすれた笑い含ませて
「ボクの願いを叶えたのだね、ありがとう」
礼を伝える餅は悲しそう
「なに、友のためだ、当然さ」
誇らしげ
喜ぶ紙を目の当たり
餅は喉から必死に訴えた
「これでボクは充分さ。住むなど言わず、一緒に帰ろう」
「何を言い出す。餅は自由と言っただろう」
「今の国の異色のパレード、これは紙がしたのだろう? もう、もう、色は充分だ、これ以上は必要ない、紙は今の国に必要ない 。さあ、さあ、一緒に帰ろうよ」
「それはできない、したくない。餅こそ何ゆえそう思う。私は王に頼まれて、しかと対価を貰っている。餅の望みは叶えたはずだ、あとは私の好きにやる」
「そうだけど、そうだけど。これ以上はやり過ぎだ」
「うるさいな。どうしようが私の自由」
「そうだけど、そうだけど。白の美しさを忘れたか」
「うるさいな。早くどこかに行ってくれ」
冷たい 冷たい 白い紙
白い紙の 白さ どこかにいっちゃった
餅はしくしく泣き出して
唇をぶるぶる啄んで
一人で寂しく立ち去った
紙は知らぬふり 唱えている
トンタラカ トンタラカ トレーブカ
* * * * *
紙がまるで変わったのは
すべて王様の所為なのだ
林檎の王様 財で唆し
友たる紙を 欲深い
者にしたに違いない
怒った餅は城へ行き
林檎の王様にお目通り
たらふく文句を言ってやる
来た時との変わりよう
あっさり通され
恐る恐る 城に入れば
餅は仰天 伸びていく
何だ 城も どうしたものか
餅の記憶と大違い
綺麗な真紅 ないないない
町と変わらぬ色彩だ
トマト大臣 みどり色
ザクロ大臣 黄色く染まり
金色輝く 達磨くん
酒好きな赤ワイン伯爵
今は赤ワインを嗜まない
橙色のルビー嬢
真っ黒 芸術 紅葉卿
灰色 満ちた 庭師の薔薇じぃ
シェフのタコは擬態して もはや形も分からない
とっても可愛い苺姫 今では青色苺姫
みんなみんなぜんぶ違う
餅の好きな赤色は
どこにも まったく 見つからない
どうして皆して変わったか
全員変わるべきなのか
餅には全く分からない
「餅よ、色彩の国へようこそ」
耳に届いた 記憶ある声
餅が顔あげ そちらを見れば
椅子に座った 林檎の王様 居られたが
餅はいちばん驚いた
濁点模様の異なる色々
くすんで くちゃくちゃ 皮の色
見知らぬ林檎 食欲撤退 皮の色
これは 本当にあの王か
赤だけ愛せぬ 餅を食べると言い出した
あの 頑固な林檎の王様か
(「林檎の王様と真っ赤な国 (終)」につづく)
ー!ATTENTION!ー
・2019年に小説投稿サイトの「お題:赤」のコンテスト用に書き下ろした作品です。(再編したものを掲載しています)
・この作品はフィクションです。現実における全ての事と一切の関係はございません。
《ここまで読んで下さりありがとうございました!》
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