ワインに深入りしないワインの話(4)~ ファルスタッフという名のワイン評論誌
ライン河の南岸に広がるドイツ有数の銘醸地・ラインヘッセン産です。
こちらのワイナリーは、何世紀にもわたる歴史をもち、当代は女性当主が醸造責任者を兼ねて運営しています。
ドイツ語圏でもっとも影響力のあるワイン評論誌『ファルスタッフ』の選ぶ「最優秀醸造家賞」を2015年に受賞しました。
なんでワインなのに「ファルスタッフ」という名前がついているのかと思われるかもしれませんが、同誌はウィーンで刊行されており、サー・ジョン・ファルスタッフを主人公とするシェークスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』のオペラ版を作曲したオットー・ニコライが1842年に墺帝国王立宮廷歌劇場管弦楽団を指揮したことをもってウィーン・フィルの設立とするという説もあったりして、ヴェルディの同名歌劇よりもニコライのほうにスポットを当てたほうが、ウィーンと関連づけるのは自然かなと店番は勝手に考えました。
もっとも、ワイン業界でそんな謎解きをしている暇人は、少なくとも日本語メディアではないようです。
『ファルスタッフ』電子版 https://www.falstaff.com/at をつらつら眺めておりますと、写真のセンスからしても相当な趣味人が集うサロンのような雰囲気を醸し出ています。
なじみの飲み屋ガーター亭 The Garter Inn に入り浸る好色呑兵衛のファルスタッフ卿を諧謔的に(クラス感も秘めつつ)用いているのかもしれません。
さて、ドイツでは長らく白ワインを中心に生産してきましたが、近年では赤ワインの生産量が急増しています。
特に、このワインの葡萄品種であるシュペートブルクンダー(ピノ・ノワールと同種)の栽培面積は、仏米に次いで世界第3位になっています。 このワインは、濃いめの色合いで、ブルゴーニュというよりも、カリフォルニア系のガーネットの色調です。
土埃の香り、ついで赤いベリーの若い芽の香りのような抑制した香りを感じます。
一口含んでみますと、まづもって柔らかい口当たりにビックリします。これだけでもかなり感激してしまいます。
全体の風味としましては、丸みがあって、ラウンドというかアールのついた感じです。
ほのかにミントのニュアンスがあり、ブラックカラント(カシス)を感じます。
酸もキチンとあり、タンニンもこなれていながらしっかりと舌に来ます。これは面白いキャラクターです。
前世紀には、ドイツの赤ワインには硬いテクスチュアのものが多かったのですが、時を経てここまでこなれてきたかと感慨深いものがあります。
全然尖っておらず、冷涼地のピノ・ノワールにありがちなツンツンしたところが皆無です。
後味に果皮のニュアンスがしっかり残ります。気品もあり、バランスよくまとまっています。
ブルゴーニュ産が高騰していますので、お買い得感が増大しています。
酒言葉:脱独