Yale Summer Session Law Seminar (5/8) - Writing
今回は、WritingのClassについて書きます。
(写真は、Frank Pepe Pizzeriaのピザです。なぜかNew Havenはピザの街として知られているようです。その中でもFrank Pepeは全米Top 10に入る店として有名だとか。)
授業の概要
目的・スコープ
様々な法的文書の作成を通じて、Writingの能力を向上させることを目的としています。また、英文を精読した上で、サマリーを作成したり、理解度を試す質問について議論したり、多角的にReading能力を強化することも狙いとされています。
授業で扱った文書は、歴史的な文書(Declaration of Independenceなど)や、Case Brief、Office Memo、Contractなど多岐にわたります。
以下にSyllabusを抜粋します。
講師
講師は、Susan Reidという方です。現在の所属は、不明です。
とても精力的な方で、週末もしばしば課題についてのメールが送られてきました。また、私の方からも、Final Project (後述)や、Panel Discussion (次々回書きます)の関係で、講師に連絡する機会が結構多かったのですが、常にレスポンスは早かったです。
教科書
講師自身の著書である「Legal Writing」を使います。本人に25ドル支払って購入しました(現金のみ)。Amazonで買うより低廉なのかもしれないです。
具体的に取り組んだ課題
具体的に取り組んだ課題について、概ね時系列に沿って書いていきます。
Legal System
自国のLegal Systemについての概要を書くという課題です。字数制限は250-500 wordsです。なお、本課題に限らず、YSSでは、全ての課題について字数制限が設けられていました。上限がないと書きすぎたりする人が多いので、このような運用は合理性があるのだと思います。他方、自分のように英文がすらすら書けない人間からすると、むしろ下限の方が気になる、という感じです。
課題を書く前さばきとして、3人一組くらいに分けられて、各国の法制度についてディスカッションをしました。
私のエッセイでは、日本のLegal Systemについて、Sources of Law、Structure of Government and Court System、Role of Judgesの各項目に分けて説明しました。
Declaration of Independence
Declaration of Independenceを読んで、パラフレイズしたり、サマライズしたりする練習をしました。
タイミング的にちょうどIndependence Day (7月4日)の頃と重なっていたので、タイムリーでした。
私のサマリーは以下のような感じです。独立宣言は、John Lockeが唱えた社会契約説・抵抗権の概念に基づいて書かれた文章なので、その点が分かりやすいようにしました。
Edmund Burkeの演説
Edmund Burkeの英国議会における1775年の演説(54頁ほど。テーマは当時植民地だったNew Englandへの対応方針について)を1-1.5時間くらいでざっと読んで、予め与えられた質問に答えるという課題です。当該時間制限の中で逐語的に読むのは不可能なので、トピックセンテンスを斜め読みして必要な情報を迅速にキャッチするスキルが必要になります。このようにreading strategy(あるいはscanningと呼ばれる技術)を鍛えることが本課題の目的のようです。
読むところまでが宿題で、授業当日は生徒全員で各質問について議論するという流れになっていたのですが、誰かが議論をファシリテートする必要があるということになり、「LL.M.に行くから、KenがFacilitatorをやってくれないか?」という依頼を受けました。基本断れない性分なので、快諾しました。ただ、Facilitateするとなるとスピーチ全体をざっくり理解しておかないとダメなので、中々大変でした。言われてから実際の授業までに週末を挟んだのですが、週末のNYC旅行中も少しずつ読み進める羽目になりました(なので、言われていた1-1.5時間という所要時間では当然収まらなかった…。)
なお、そもそも「ざっと」読むというスキルが非ネイティブにはだいぶ高度なように感じました。英文契約のようなものであれば、普段から読み慣れているので、どこに何が書いてあるのかなんとなくわかるのですが、今回のものはだいぶ違います。また、文章の書かれた時期も独立戦争の頃(1770年代)なので、難解な英語表現が頻出します。ただ、同じ時代の日本語の古文(本居宣長くらい?)を読みのと比べると、まだ読みやすいような気もしました。もしかすると、英語は、あんまり今と昔で変わらないのかもしれません。
Thomas v. Winchester
製造物責任の著名な判例についてCase Briefを書くという課題です。
Case Briefとは、Law Schoolの学生がCaseを読んで勉強する際に自習用に作る手控えのようなもので、Factsをまとめることに始まり、裁判所がどのようなロジックで結論に至ったかを簡潔にまとめます。ポイントとしては、あくまで自分の自習用に作るものなので、丁寧に作り込む必要はないという点です。
ご参考までに私が作ったもの(講師のコメント付き)を添付します。
Federalist v. Anti-federalist
合衆国成立当初の著名な論争(Federalist v. Anti-federalist)について、各サイドを代表する論者であるAlexander HamiltonとThomas Jeffersonの論考をそれぞれ読んだ上で、改めていずれの統治機構が望ましいのか生徒の間でディベートをしてみるという取り組みです。
流れとしては、Law SeminarのFinal Debateと似ていますが、①各サイドによるOpening Statement→②Rebuttalという順になります。
詳細なプロトコールは以下のとおりです。
なお、私は、最初Anti-federalist側に割り当てられたのですが、その後「考え直したけど、日本にはFederalismがないので、Federalistの立場に立って考えてみるのは興味深いことだと思う。だから、誰かサイドを変わってくれない?」とお願いして、変わってもらいました。ただ、本音としては、Anti-federalist側のチームに、その時点で結構組んだことのあるメンバーが多かったので、別のチームに参加する方が新しい刺激があって面白そう、というのが真の理由です。
Opening Statementについては、ディベートに先立って予め書面化することが課題になっていました。ご参考までに、以下に添付します。
Contract
最も実務的な文書であるContractについても一定の時間を割いてトレーニングしました。実務家としては、最もとっつきやすい課題でした。
具体的には、パートタイムの雇用契約(病院と医師の間の契約)を読んだ上で、このような紛争が起こったらどうなるのか?といった質問について検討し、また、いずれかの当事者が自分のクライアントだった場合にどのようにアドバイスするかを考えるというものです。
Contractを生業とするLawyerとして是非とも存在感をアピールしたい・・・と思ったので、ちょっと真剣に取り組んでみました。具体的には、私が所属している法律事務所のデータベースにアクセスして類似の雇用契約のサンプルをまず集めた上、いずれかの当事者であれば追加した方がいい条項(recommended)、あるいは検討する価値ありの条項(preferred)といった形で書き分けて、説明しました。
Contractについては、上記以外にも、自家用プールの建設契約をめぐって、Employer側とContractor側に分かれて、それぞれの立場から契約書に盛り込むべきTerms & Conditionsを提案するというディスカッションもしました。私は、Contractor側でしたが、建設請負契約は、自身の業務において最もよく見る契約類型の一つなので、実務的な示唆という観点からクラスにだいぶ貢献できたと思います(例:Milestone Payment、Force Majeure, Liability Capなど。まあ、自分がよく見るのはプラントの建設契約なので、ややtoo much
ではありますが…。)。
Response to Speech
Writing以外の他のクラスでゲストスピーカーの話を聞く機会があるのですが、いずれかのスピーチを選んだ上、コメントを書くという課題です。ポイントとしては、スピーチを聞いていない人を読者として想定するので、冒頭に必要十分なサマリーを盛り込む必要があります。
私は、Evening class(次回書きます)でスピーチしてもらったPublic DefenderのJustin Smith氏のスピーチ(トピック:Lawyerに必要なCommunication Skill)について書きました。2点ほど現場でスピーカーに質問し、興味深い回答が得られたためです(①Covid後オンラインでの会議が増えているが、Face to faceのコミュニケーションの重要性についてどう考えるか、②米国の刑事司法における一番の問題点は何か)。
以下に添付します。
J. Ginsburg Workways
元最高裁判事のRuth Bader Ginsburgが最高裁での働きぶりについて書いたエッセイを読んだ上で、各質問に答えるという課題です。
このエッセイは以下の点についての示唆を含んでおり、非常に興味深かったです。
最高裁が具体的なCaseをReviewするか否かはどのように決まるのか
時にその決定が遅れるのはなぜなのか
Reviewしない(denial of review)という意見に対し、ある判事からDissent(grant of reviewすべき)が出ると、各判事の間でどのような議論が行われるのか
判事は、口頭弁論の最中に弁護士に対し積極的に質問を発するべきなのか
判事を選挙で選ぶことは危険なことではないか
口頭弁論の効用は何か
口頭弁論後の判事9名の審議はどのように進行するか
口頭弁論後の審議においては、若手のJudgeから順に意見を述べていくというのが最高裁の慣例だが、これにはどのようなadvantage / disadvantageがあるか
最高裁と、下級審の関係はどうあるべきか(どれだけ下級審の判断を尊重すべきか) - “We are not final because we are infallible. We are infallible because we are final.”というJ. Robert Jacksonの警句について
Democracy Essays
EB WhiteのThe meaning of Democracyをその場で読んで、その場で議論するというものです。
なお、あわせて、Yaleの教授であるTimothy SnyderによるOn Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Centuryが紹介されたので、授業後買って読んでみましたが、20世紀に人類が直面した民主主義への脅威から、現代に生きる我々として何を学ぶべきかが簡潔に記されており、面白いです。
Timed Reading
New York Timesなどの記事をその場で数分で読んで、議論するというものです。
Final Project (Office Memo)
概要
コースの締めくくりとして、法律に関係しているものであれば何でもいいからエッセイを書くように指示がありました(字数制限は、紆余曲折あって、最終的にat least 5 pages (double-spaced)になったので、だいぶ短いです。ただ、30ページくらい書いている人もいました。)。なお、このエッセイで扱った内容は、そのままOral ClassのFinal Presentationに用いてよいとのことでした。Oralについては次回書きます。
ただ、私は、講師から示された別のオプション、すなわちHypotheticalな事例についてOffice Memoを書くという課題の方を選びました。Generalなエッセイを書くよりも、自分の業務に役立ちそうだったからです。
そもそもOffice Memoとは何か。要すれば、実務家が、具体的な案件を前に、当該案件を受任するかどうかを判断するために案件の見通し・見立てについての検討結果をまとめた書面です。詳細は、以下のとおりです。
上記にあるとおり、Office Memoの作成に当たっては、現実には膨大な時間を費やして複数のCaseをリサーチする必要があります。しかし、YSSでの実態を踏まえると、諸々の課題をクリアーすることで精一杯で、さすがにそこまでの時間は取れず、また、Caseを検索するためのデータベース(Westlawなど)もSummer Sessionの学生にはアクセスできない(LL.M.やJDであれば可)ことがわかりました。という現実的な制約もあったため、結局、不法行為法(後述のとおり、不法行為が論点です。)の代表的なケースブック(Epstein)とRestatement (Torts, Agency)を読んだだけで済ませました。なお、米国法前提のMemoなので本来不要ですが、日本の民法における解釈論も紹介することにしました。
上記文献を調査する過程でYaleのLaw Libraryを使うことになり、講師にLibrarianを紹介してもらいました。Librarianの方は、みなJDの資格を持っているみたいです。私のリサーチを的確かつ迅速にガイドしてくださり大変助かりました。
事案・論点
対象の事案は、①キッチンの修理を業者に依頼したところ、②当該業者が、別の事業者である配管工を連れてきた、③当該配管工の過失によりキッチンに損害が生じた、という場合において、(i) 当該配管工及び (ii) その使用者(会社)の責任を追及できるか、というものです。
論点は、日本法風にいうと、使用者責任ということになります(なお、表見代理ひいては契約責任も問題になりそうと思いましたが、Tortsの主張に絞ればよさそうな雰囲気だったので、時間の関係もあり、同論点は割愛しました。)。
ご参考までに私が書いたものを以下に添付します。正直、Office Memoの実物を見たことがないのでこれでいいのかよくわからないですが、講師のコメントによると、時間も限られているので、こんな感じでいいのではとのことです。
Office Memoに取り組んでみた感想ですが、ちょっと事例がシンプルすぎてあまり深められなかったな…、という印象です。そもそも最初に事例を設定したときの経緯ですが、講師とも話して、例えば、日本で現実に起こっている実際の事例を扱うことも考えたのですが、結局、講師が用意したHypoをそのまま使うのが、講師もレビューしやすいだろうと思ったので、そのような扱いにした経緯です。その選択が果たして正しかったのかよくわからないですが、ただあんまり複雑な事例で検討する論点が多いと、それはそれで持ち時間的にMemoを完成させることができなかったようにも思うので、現実的には正解だったのかなと思います。
Observations
YSSの各科目(Law Seminar、Writing、Oral)は、横で連携がとれている印象でした。講師の間でも密にコミュニケーションをとっていたように窺われます。例えば、上記のとおりWritingの初期にLegal Systemのエッセイを書きましたが、ちょうど同じタイミングでOralでは同じトピックのプレゼンが行われており、またLaw Seminarでもその辺を重視した講義が行われる、という感じです。このような形で同じトピックで横串を刺して、多角的に深掘りできるようにカリキュラムが組まれていたように思います。
次回
次回は、Oral Classについて書きます。