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米国VCが好む起業家の7つの特徴(その1)

自己紹介

DCMベンチャーズというシリコンバレーのベンチャーキャピタルで、スタートアップに投資をしている原です。

思い立ってNoteを始めることにしました。文章にするなら最初は好きな起業家の話にしようと思ったので、その起業家の特徴と具体例について書きます。趣味で海外のVCとか起業家のインタビューを見るのが好きで、彼らがよく話す"成功する起業家の特徴"からまとめて絞り込みました。それぞれの特徴と僕が投資実施前から深く関わっている起業家の方をご紹介させてください。

はじめに読んでいただきたいこと

抜け漏れ: このリストは300-500くらい見たり聞いた起業家やVCのインタビューから成功する起業家の条件をリストアップして、それをカテゴリにまとめて、DCMでの経験から優先順位を付け絞りこんでいます。なので抜け漏れはありますし、この特徴に全く当てはまらなくても成功する起業家の方もたくさんいると思います。なので、記事のタイトルは"成功する起業家の特徴"ではなく、"米国VCが好む起業家の特徴"です。

矛盾: いくつかの特徴は矛盾しますし、全部持っている人なんていません。ジェフベゾスでもビルゲイツでもザッカーバーグでも全て持っていないと思いますし、それぞれの特徴が逆相関しているものが多いです。野球で言うと30本打てて、30盗塁できる、みたいなそりゃどっちもあればいいけどさ、みたいな特徴が多いです。(30本ホームラン打つためには体重が80kg以上⇒盗塁しづらい、それを満たしているのはヤクルトの山田哲人だけです)。ただ、起業家は矛盾した能力を両方もった人だと思います。

暫定版: これは2020年1月時点での暫定版です。いつも書き加えたり、編集したり、削除したりしています。1年ほど前に自分でリストを作ってからすでに付け足していますし、今後も自分の経験を元に変え続けます。また、起業家の特徴だけでなく、経営者の特徴も考えないといけないです。この問いに答えはなく、成功する起業家はどんな人で、成功する事業とは何で、スケールさせるためにはどうすべきか、一生考え続けるのが僕の仕事です。

バイアス: 一応多くの人が言っていることから絞り込んでいますが、このリストはDCMが投資している起業家の特徴や、僕個人が好きな起業家の特徴にバイアスを受けています。 投資の意思決定においてバイアスは一番の敵です。絶対にバイアスをもたないように心がけています。ただし、投資した後は、強烈なバイアスを持って起業家を応援しています。僕が投資している起業家は世界最高です。

それでは以下、米国VCが好む起業家の特徴です。

A. 学ぶ力、考える力

A-1. Learning: 仮説検証/学習/修正のうまさ

数ある特徴の中から、学習能力は一番にあげるくらい重要だと思っています。常に新しい課題を解き、誰も見たことがないモノを作り、これまでになかった業界を作り、今まで運営したことがないサイズの組織を率い続ける起業家は、常に"学び"続けることが求められます。学ぶために重要なのは、学ぶための仮説を具体的に設定して、その仮説を検証する実験、質問、教材を設計することだと思います。学び方、仮説検証方法は人によって異なりますが、現状の能力よりも、能力の伸び方の傾きこそが極めて重要な特徴です。なぜならばスタートアップで大切なのは、現在の実力よりも5年後、10年後にどれだけ大きな経営者、どれだけ大きな企業になっているかだからです。

ビルゲイツとウォーレンバフェットは対談で一番大切な日々の活動は、多く本を読み多くを学ぶことと言っています。Uberの最大VCのBenchmark CapitalのPeter Fentonは対談でKnow-it-all(何でも知っている)より、Learn-it-all(何でも学びとる)ことが大切だと下記のように言っています。

"There're three traits that really define in experience the successful first-time CEO...they're a learn-it-all and not a know-it-all... if you're a know-it-all you can immediately think you have to have the answer for everything and you can't ask for input and advice"
「初めて起業する起業家が成功するかどうかの特徴は3つあり、その一つは"何でも学びとること(Learn-it-all)"で、"何でも知っていること(Know-it-all)"ではない。"何でも知っている(Know-it-all)"型は、何に対しても答えを持っていないといけないと考えるようになり、インプットやアドバイスを求められなくなる。」 

この能力において、まず思いつくのはCADDiの加藤勇志郎さんです。加藤さんに初めて会った2016年、僕はDCMに加藤さんをアソシエイトとして採用しようと会っていました。VCよりも起業したいという加藤さんと、起業まで2年程壁打ちする中で、加藤さんはとにかくたくさんの質問をしてきました。「XXってどういう事ですか」、「XXってなんですか」、「何でそう思うんですか」、今までの僕の人生で一番質問してきた人は加藤さんかもしれません。ただし、打ち合わせを重ねるたびに加藤さんの質問内容はより深く、鋭くなり、加藤さんの知識は増え続け、今でもそれは続いています。加藤さんと会うと、きちんとこちらも返せるように、僕自身も学習速度を上げないといけないと身が引き締まります。

学習能力において、若さはとても大切です。学習速度、努力量、好奇心、柔軟さ、修正能力、知らない事を認める力、全てに(精神的な)若さが大切になってくると思います。若さは年齢に応じて減りますが、30歳で若くない人も、50歳で若い人もいます。学習能力をどのように付けていくべきか、"情熱を持てる分野を見つけること"と、Benchmark CapitalのBill Gurleyは言います。また彼は下記のように、その領域において"誰よりも詳しくなること"を求めています。

"I can't make you the smartest or the brightest, but it's quite doable to be the most knowledgeable. It's possible to gather more information than somebody else, especially today.... If you're going to research something, this is your lucky day. Information is freely available on the internet. That's the good news. The bad news is you have zero excuse for not being the most knowledgeable in any subject you want."
「その領域で誰よりも賢くなることは難しいが、誰よりも詳しくなることはできる。誰よりも多くの情報を集めることならできるはず。...  特に今は何かについて調べるなら最高のタイミング。情報はインターネット上に無料で転がっている。ただし、逆に言えば、その領域において誰よりも詳しくないとしたら、それに対して言い訳は全くできない。」

また一方で、学習能力に学歴は世の中で言われる程は関係ないと思います。DCMが投資するファウンダーの中で最も学習能力の高い一人は、Union Tecの大川さんです。大川さんも加藤さん同様に常にわからないことを調べ、聞き、チャレンジし、僕が知っている人の中で信じられないスピードで学び続けています。大川さんは元内装職人、高校は出ていません
 

A-2. Focus/Clarity: 思考の明瞭さ、シンプルさ

スタートアップでは常に人も時間も足りません。かつ、人も時間もない中で大手企業と戦っていきます。スタートアップの強みはスピード。大手企業が10年かかることを1-2年で成し遂げられるか。人がいないなかで、どうやれば大手企業よりも早く課題を解決できるか。その鍵は、"集中"です。本当に重要な課題やペインポイントや顧客だけに集中し、その課題を解くための最短距離を行き、少しでも最重要事項から外れる課題には一切時間を使わない。課題を絞り込めている人は、思考がクリアにシンプルになります。複雑に考えている、あれもこれも大切となっている、ということは課題やペインポイントや顧客を絞り込めていないのかもしれません。

"Clarity of thought" (思考の明瞭さ)、"Clarity of purpose"(目的の明確さ)は起業家やVCのインタビューで頻出する言葉の一つです。SequoiaのJim Goetz, Doug Leone, BenchmarkのPeter Fenton, YCのSam Altman, 皆が共通して大切だと言います。Doug Leoneは、Dropboxに出資した理由についてこう述べています

"The main thing we liked about Drew [Houston] was the clarity of thought. We
have learned over the years that clarity of thought leads to clarity of speech,
which leads to clarity of execution. His drive and ability to clearly describe what
he would do in a crowded market made us eager to go into business with him.
With Steve Jobs, he built every pixel. Everything was clear. Drew spoke to us in
those terms—pixel accuracy, and he just made you want to be his business." 
「Drew Houston(創業者)について最も気に入ったところは思考の明瞭さ。Sequoiaは何年もかけて、創業者の思考の明瞭さが、明確な説明につながり、それが明確な実行に繋がることを学んだ。競争の激しいマーケットでどう戦うかを明確に説明できるDrewの能力に投資をしたくなった。スティーブジョブズも全てにおいて細部まで明確だった。Drewも同じように"ピクセルレベル"の正確さで説明した。」

DCMが投資している起業家の中で、思考のシンプルさで思いつくのはタベリーを運営する10Xの矢本さん、HERPの庄田さんです。二人ともプロダクトマネージャーであるため、どのようなユーザーを対象にし、どのようなペインを持ち、そのためどの機能が重要で、どの順番で作っていくか、なぜ他社にはできないのか、明確に説明してくれます。このように明瞭な思考を持つ起業家は10Xの矢本さんやHERPの庄田さんのように、自分が過去にユーザーであったケース、自分でプロダクトを作る人たちが多いです。ユーザーとペインポイントを正確に細部まで理解し、その機能レベルでの実行と検証方法を明確にしする人たちです。"この機能が次は必要です"。このセリフを自信を持って言うために、矢本さんも庄田さんも日々ユーザーと向かい合い、その声を拾い続けています。(ちなみに庄田さんは、麻雀のときもじっと視線を落とし自分の牌だけを見つめ意識を集中します。麻雀打ちとしては努力の余地がありますが、一事が万事、起業家としては素晴らしい姿勢です。)

明確な思考や仮説は、科学実験やプログラムのように、使われる言葉が具体的で数字で検証できるものです。抽象的なトレンドだとか長期的なプラットフォーム戦略だとか巨大な市場だとか曖昧な言葉を事業の成功条件には持ち込みません。SeqouiaのJim Goetzはこのように言います。

"We regularly see entrepreneurs come in and talk about billion-dollar market, its large TAM's and that's just not as interesting to us as the passion that comes from trying to solve a very specific pain point for a very specific customer. Focus, focus, focus."
「よく数千億円市場とか巨大な市場だとピッチする起業家が来るが、とても具体的に絞り込まれたユーザーのとても具体的に絞り込まれたペインポイントを解こうとする情熱に比べると、興味が湧かない。具体的に絞り込め。」

"Focus(絞り込め)"は、DCMが日本の起業家の方に対して言う頻度が多い言葉の一つでもあります。ピッチを聞いていても、まだプロダクトが明確にユーザーに刺さっていない初期の頃から複数事業の話、プラットフォーム化の話などを語る起業家が多いです。一方でアメリカではUberの資料Dropboxの資料などを見るとわかるように、初期のプロダクトとそのピッチはとてもシンプルです。シンプルに絞り込まれたペインポイントと、それを解決するユニークで真似のできないプロダクト。そして投資をした後にも"Focus(絞り込め)"と言い続けます。一つのカスタマーセグメントに、一つのペインポイントに、一つのプロダクト、リソースのないスタートアップは全ての力と頭をそこに集中。Zoom、Dropbox、Airbnbなどよく使われるさまざまなアプリでも、一つのペインポイントに集中して大きくなった企業は数えきれません。

一方で、長期的な視点を持つこと、高い目線でものを見ることも、起業家の大切なスキルで、ユーザー視点を深く持つ起業家はたまにそこが足りなくなることもあります。ただ、それを定期的に持つための議論相手として複数の業界や歴史を見ている投資家がいるのだと思います。起業家が毎日ペインポイントとプロダクトと組織に集中できるように、日々歴史を勉強するのが投資家の役目です。

A-3. Domain expertise: (業界によっては)常識を疑うことを前提とした経験

領域での経験はあったほうがいいと言うケースと、ない方がいいと言うケースに分かれます。Y CombinatorのSam Altmanはスタートアップのエキサイティングなことは若くても経験がなくても互角の勝負ができること、と言い、サンマイクロシステムズの創業者でKhosla VenturesのVinod Khoslaはこのように経験のネガティブな側面について触れています

"But you don't want experience to have you, guide you into doing what others have already done in that same business and not innovate. That is the result of too much experience. So mixing the right experience, where you can identify the problems, with first principles thinking from fresh new ideas. "
「経験に基づいて、他の人が今までその事業でやった事を繰り返し、イノベーションを起こさないことは避けないければならない。これは往々にして"多すぎる経験"の結果として起こる。なので、事業の課題を把握できる"適切な経験"とまったく新しい考えからなる"第一原理思考"の両方を持っていないといけない。」

ここでいう"第一原理思考(First principles thinking)"とはイーロンマスクが提唱している、これまではこうやって来た、他の人はこうやっている、など業界の常識をとっぱらってゼロベースで考え新しいアプローチで課題を解くことです。経験がついてくると、これまでのベストプラクティスや知見が溜まってきて多くのケースで効率的に問題解決ができるようになります。ただし、改善や効率化ではなく、全く新しい解決策が求められるスタートアップでは、これまでの常識に基づく最適解を行っていると、これまでの知見がどこよりも溜まっている大手企業には勝てません。

それでは経験はいらないのか、経験をネガティブに捉えるVinod Khoslaはこのようにも言います。

"Some domains need a lot of expertise. So if you're doing a blood test like Theranos, you can drop out of school and start that. But eventually, it's a serious physics and chemistry problem. And you have to get that talent on board... If you're going to solve healthcare with AI, you're going to need expertise. So it depends on the domain."
「いくつかの領域では、経験がたくさん必要になる。もしあなたがセラノスのような血液検査をやるなら大学を出てすぐに起業できるかもしれないが、すぐに物理と化学の複雑な問題に直面し、それができる人材が絶対にいないといけない。... もしヘルスケアの課題をAIで解こうとするなら、その経験が必要になるだろう。経験が必要かどうかは事業領域による。」

DCMが投資するヘルスケアスタートアップのLinc'wellはClinic Forというクリニックの運営支援とSui+というD2Cの製薬事業を行っています。人の命や健康を預かりミスが許されない領域、こういう領域では"第一原理思考"ではなく、これまで正しいと証明されてきた、ないしは、考えられてきたやり方(常識)の比重が大きくなります。Linc'wellではCEOの金子和真さんは8年間医師を勤めた後、共同創業者の山本遼佑さんと共にマッキンゼーで製薬企業に7年間コンサルティングをしてきました。

スタートアップ起業家にとって、"経験"とは時に武器になり時に思考停止をもたらす諸刃の剣です。なので、常識を疑い、本質的に疑問を持ち続け、新しい考えに耳を傾け、常にアンラーンする"経験者"こそが強力な人材なのではないかと考えています。なので、経験は必要か、という問いに対しては、"業界によっては"、"常識を疑うことを前提として"、と条件をつけることにしました。

つづく

あまりに長くなってきたので、この記事はここで一旦終わりにし、また次回続きを書きたいと思います。起業家の特徴、僕が投資する起業家の紹介はまだまだつづきます。ここまでお読みいただきありがとうございました。



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