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米国VCが好む起業家の7つの特徴(その3: 聞く力)+おまけ: アドバイスの聞き方

DCMの原です。前回までは起業家の7つの特徴で、学習する力、思考の明瞭さ、常識を疑うことを前提とした経験、説得力、について書いてきました。今回は5つ目のアドバイスを聞く力です。
前回も書きましたが、アドバイスを聞く力は、簡単に聞こえますが、最も難しいスキルではないかと思っています。なぜそれが大切で、なぜ難しいのか、またおまけとしてどのようにアドバイスを聞けばいいかについて書きました。

B-2. Coachability: アドバイスを聞く力

「彼/彼女は"Coachable(コーチされる力がある)"かな?」DCMに入って起業家のこういう点も見るんだと思ったスキルが、相手のアドバイスを聞く力です。起業家は組織、人事、経営、プロダクト、戦略、財務、マーケティング、常に複数の課題を解かなければなりません。また、それらの課題は常に起業家にとっては初めて直面する、経験のない課題であることがほとんどで、何より全ての課題を自分で調べて熟考している時間はありません。
そんな中で、他人からアドバイスをもらって、その人の課題解決能力や知識や経験を"レバレッジ"することは起業家にとってもとても大切なスキルだと思います。前のポストで書いたように、Know-it-all(何でも知っている)より、Learn-it-all(何でも学びとる)ことが大切で、他の人からのアドバイスはとても大切な情報源なのです。

自分の"盲点"を知っている人からのアドバイス

ビルゲイツはウォーレンバフェットとネブラスカ大学で行った学生向けの対談で、アドバイスを誰にもらっているかと質問され、ビルゲイツは下記のように自分の"盲点"を知っている人、と答えました。

If I had some really tough decision, I talked to my dad, I talked to Warren, I had talked to my wife Melinda. So I have enough people know me and actually know where my judgement is not the strongest. They're good at correcting whatever those blind spots are. And I think it's good to encourage your friends and advisors to really give them that license. A small number of people that you can turn to on certain key things is a great asset. 
難しい意思決定をしなければいけない時は、父やバフェットや妻のメリンダに話を聞いてもらった。僕のことをよく知る人、僕の判断が間違いやすいのはどういう意思決定をするときか知っている人、に囲まれてきた。彼らは僕の"盲点"がどこか知っていて、それらを修正してくれるのがうまい。友人やアドバイザーにそういう自分の"盲点"を修正してくれるようお願いするのがいいと思う。鍵となる意思決定をするときに頼れる人たちはすばらしい資産だと思います。

今まで自分が解いたことがない課題に対して、自分の判断力や知識がいまいち働かない"盲点"がどこか、まずは認識することが大切です。プロダクトを作ることが主な仕事であったときから、財務、組織、マーケティング、戦略、と"盲点"はどんどん増えていきます。その時の会社の課題に応じ、誰の意見がその盲点を補ってくれるか書き出してみて、定期的にその人たちにアドバイスをもらうことをお勧めします。

批判を求めろ

アドバイス以上に、批判すら求めろ、という事をいう起業家も多いです。代表的なのはイーロンマスク。「常に批判を求めろ。よく考え抜かれた批判は、何をやっているにしても、黄金と同じだけの価値がある」とイーロンマスクは言います。ジェフベゾスはこのように言います。

My approach to criticism, and what I teach and preach inside Amazon, is when you're criticized, first look in a mirror and decide are your critics right?
If they're right, change
Amazon社内でも教えたり伝えたりしている私の批判的な意見へのアプローチは、批判的な意見をもらったときはまず鏡を見て批判されている内容は正しいかを判断しろということです。もし批判されている内容が正しければ、自分の意見を変えましょう。

アドバイスや厳しい意見に対しては、耳を塞ぐわけでもなく、冷静に判断していきましょう。
NFLの名コーチ、トムランドリーの言葉です。「コーチとは、自分がなれると思っている人物になれるように、聞きたくないことを聞かせ、見たくないものを見せてくれる人だ」。アドバイスの中には耳が痛いこともあると思います。ただその中にある"黄金"を探してみてください。

(アドバイスのうまい聞き方についてはこの記事の後半に書きましたので、興味ある方は読んでいただけたらうれしいです。)

Coachabilityの資質

"アドバイスを聞く"人が持っている性格とはどのようなものなのでしょうか。
スティーブ・ジョブズ、エリック・シュミット(グーグル元会長兼CEO)、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン(共にグーグル共同創業者)などのコーチだったビルキャンベルについての本「1兆ドルコーチ」にこのような記載があります。

ビルが求めたコーチャブルな資質とは、「正直さ」と「謙虚さ」、「あきらめず努力を厭わない姿勢」、「つねに学ぼうとする意欲」である。

最初のポストで書いた、"学ぶ力、考える力"が、アドバイスをうまく聞く源泉であると思います。正直に、謙虚に、常に学ぶ姿勢を忘れず、冷静に、他の人の知見、知恵、経験、視点を生かしていくことがまず第一歩かと思います。

Coachabilityの確かめ方

ベンチャー投資家として、起業家のCoachability(アドバイスを聞く力)を、一度のmtgで判断することはとても難しいです。(アドバイスを聞く力がないことはすぐわかります)
僕個人としては起業家の人になるべく資金調達前から会って、一緒に事業について議論したりするようにしています。CADDiの加藤さん、10Xの矢本さん、HERPの庄田さん、Chompyの大見さん、みなさん半年以上事業について議論したりしていました。一緒にクライアントに会いに行ったり、エキスパートインタビューを一緒にしたり、ホワイトボードを使って問題解決をしたり、その時間を過ごす中で自然とわかるのではないかと思います。
これはアドバイスをする人に対する精査にもなると思います。アドバイスをする人にその資質があるか、自分との相性はどうか、確かめることが重要ではないでしょうか。

難しさ: アドバイスは全て正しいわけではない

一方で、このアドバイスを聞く、厳しい意見を聞く、というスキルは思っているよりとても難しいです。なぜならアドバイスが正しいこと自体が少ないからです。Sun Microsystemsの創業者でKhosla VenturesのVinod Kohslaは様々なインタビューで繰り返しこう言います

Knowing whose advice to take and on what topic may be the single most difficult decision an entrepreneur has to make.
起業家にとって最も難しい意思決定は、どの人のアドバイスを、どのトピックにおいて聞くべきか、を判断することです。

経験あるエンジェル投資家から、資金調達のときにVCから、取締役会で株主から、他の起業家仲間から、起業家は常にいろんな人からいろんな意見を言われます。
ほとんどのケースで皆違う事を言い、経験もあるから全部それらしく聞こえ、頭は混乱してきて、全部やろうとしてきます。そんな時はまずこの言葉を思い出しましょう。"フィードバックのほとんどはゴミ。大切なのは残りのいいアドバイスはどれか判断すること" (Flatiron創業者)。
アドバイスは命令ではありません。正しいアドバイスを冷静に取り入れて、事業の成功確度を上げましょう。

自分を信じる

そして、アドバイスを聞くことが、スタートアップにとっては普通の企業より一層難しい理由は常に革新的なことをしているからです。ジェフベゾスのインタビューの続きです。

If you're gonna do anything new or innovative, you have to be willing to be misunderstood. If you can't afford to be misunderstood, then for Goodness sake, don't do anything new or innovative.
もし新しいこと、革新的なことを成し遂げたいなら、"誰からも理解されないこと"を避けてはいけない。"誰からも理解されないこと"が耐えられないなら、頼むから新しいことや革新的なことをやらないでほしい。

いろんな人にアドバイスをもらった結果、多くの人に「やめた方がいいよ」「うまくいかないよ」と言われることは多々あります。
ただ、誰もがうまくいくよ、というアイデアは大きな成果にはなりません。皆と意見が違った時、かつ、自分が考えていたことが正しかった時、その時に"のみ"大きな成功がやってきます
自分が信じていることが絶対に正しいという確信、自分にしか知らない論点や情報があるなら、誰になんて言われようが最後は自分を信じましょう。

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おまけ: アドバイスの聞き方

ここからはアドバイスを受けるときに気をつけるべき点について書きます。

アドバイスの聞き方1: 自分の仮説と相手の仮説をブレークダウンして比較する

Step 1: 自分の仮説をブレークダウンして書き出す

僕がアドバイスなどから自分の考えをアップデートするときに頭の中で気をつけていることがあります。
まず、1) 自分の考えと前提になっている仮説をしっかりと具体的に書き出す、そして2) その仮説の裏付けとなっているデータや情報を書く、ということです。
例えば、この事業ではXXというセグメントを狙いたい、価格はXXにしたいという時、その前提としている考えと仮説があるはずです。「競合の価格がXXである」、「スイッチングコストが高く価格を上げてもユーザーがチャーンしない」etc. それを書き出し、それを証明するデータや情報を書きましょう。
これが、まず何よりも大切で、もっとも難しいです。正しい結論、仮説が持てているか、正しい情報から判断しているか、何度も何度も書き出して毎日訓練しつづけるしかないかと思います。新卒のときにお世話になった安宅さんの「イシューからはじめよ」をまず読んでみることをおすすめします。
投資も同じです。投資する際には必ず投資仮説を書きます。その仮説をサポートするために日々事例集めやユーザーに話を聞いたりしています。仮説は常に書き続け、進化させていきます。逆に言うと、投資した時の投資仮説がそのまま長期的に更新されないことはないです。

Step 2: アドバイスをしている人の仮説の前提を聞く

アドバイスをする人は、大抵忙しかったり、結論しか言わないことが多いです。「それはやめたほうがいいと思うよ。」、「こうした方がいいと思うよ。」起業家がそこで理由を聞かずに鵜呑みにするケースを多く聞きます。絶対に、なぜかそう思うか聞いてください。その人の考えの前提になっている仮説やロジックをこちらからブレークダウンしにいきましょう。「価格を決めるときは競合の価格だけでなくお客さんの予算も理解しないといけないよ。多分もっと払えるよ。」自分が考えていなかった"論点"を教えてくれるかもしれません。
そして、その人がそう思っている理由、データ、経験について聞きましょう。「だって競合より高いから逃げられちゃうじゃん」、そういう風に言っている人はスイッチングコストが低い事業の経験から言っているかもしれません。

Step 3: 自分と相手の仮説を比較する

自分とその人の仮説の違いが理解できて、前提としているデータや経験がわかったら、どちらの仮説、データや経験が正しそうか判断しましょう。
自分が知らない論点があるなら考慮しましょう。そして自分が知らない論点、データがあるなら冷静に自分の仮説を調整することが大切かと思います。一方で、自分の方がより正しいデータ、深い仮説を持っていると思うなら、アドバイスは無視しましょう。
これはアドバイスだけでなく、ユーザーからのフィードバックを聞く時、データから自分の仮説をアップデートするときも常に同じです。簡単に聞こえますがとても難しいです。

アドバイスの聞き方2:アドバイスしている人が自分と自分の事業に対してどれだけ理解しているか把握する

ここでもう一つ思い出したいのは、先に出したイーロンマスクの言葉です。「常に批判を求めろ。よく"考え抜かれた"批判は、何をやっているにしても、黄金と同じだけの価値がある」。ここで言われているように、"考え抜かれた"意見でなければ価値はありません。世の中にはアドバイスやフィードバックをするときに、悪意はなくても"とりあえず何か言わないと"という気持ちで行われるアドバイスはとても多い(むしろそれがほとんど)です。

"考え抜く"とは何か、それは事業とアドバイスを受ける人についての理解度、それを前提にしたときに使った思考時間だと思います。
この理解度というのは、類似事業に対する"経験"や"論点"だけではありません。その事業でこれまで何を試してきたか、どういう仮説を検証してどういう判断を下してきたか。その事業の"変遷"を知っていることはとても大切です。
また、先のビルゲイツからの引用にもあるように起業家の考え方の"盲点"を知っていることがとても大切になるのです。
その人が、自分の"盲点"と事業の"変遷"を知った上で、どれだけ時間をかけて考え抜いてそのアドバイスや厳しい意見を言っているか、それも冷静に判断しましょう。

アドバイスの聞き方3: 謙虚さを保ちバイアスをなくす

アドバイスを聞く力の資質に"謙虚さ"があることは上で書きました。ただし、謙虚に、オープンに、相手にアドバイスを求め、アドバイスを元に自分の仮説を修正していく姿勢は、残念ながら成功と共に減っていくことが多いです。
このポストのテーマである「7つの起業家の特徴」の中で、唯一経験をつけるにつれて減っていく特徴だといってもいいかもしれません。ここにもアドバイスを聞く力の難しさがあります。
スタートアップの世界では経験はとくに陳腐化しやすいです。ユーザーのニーズ、新しい技術、競合環境、ビジネスモデルなど、日々変化していく世界では、経験を得ても常に謙虚に知らないという姿勢でいたいです。
とくに、一次情報や新しいトレンドについては、経験がある人よりも、若い人、勉強をしている人、現場に近い人が詳しいことがほとんどです。経験にあぐらをかかず、バイアスなく正しい情報でアップデートしましょう。

アドバイスの聞き方4: いい人に囲まれる

アドバイスをもらう能力は、結局はそのアドバイスをする人の能力です。先のバフェットとゲイツのインタビューでバフェットはこのように言います。

You will move in the direction of the people that you associate with. So it’s important to associate with people that are better than yourself.
結局関わる人間と同じ方向にむかうことになる。なので、あなたより優れていると思える人と一緒にいることが大切である。

あなたがどれだけ"Coachable"であったとしても、アドバイスの質が低かったら元も子もないです。
起業家が日々経験している課題の深さも強度も、誰にもかないません。基本的には起業家は常に誰よりも早く成長していくのだと思います。アドバイスをする人はあなたと同じように、ただしあなたが持たない情報や論点を、日々猛スピードでラーニングしているか。そういう人に囲まれてください。
それがあなた自身の成長にもつながるはずです。
よく言うことですが、人間は自分の周りにいる5人の平均になります。自分がアドバイスを聞きたい、切磋琢磨していきたいと思える5人に囲まれて、そういう人たちからアドバイスや刺激を受け続けてください。

おまけのまとめ

以上書いてきたことをまとめると下のようになります。

1. 自分の考えや仮説をブレークダウンして、そのもとにある情報を書き出し、相手の考えや仮説と比較する。自分が持っている論点と情報より豊富なら自分の考えをアップデートする
2. アドバイスしている人が自分の"盲点"と自分の事業の"変遷"と"論点"に対してどれだけ理解しているか把握する。その上でどれだけ時間を使ってくれているかを考える
3. 謙虚さは減っていくことを自覚した上で、バイアスなく自分が知らない情報を学びとる
4. 自分が切磋琢磨したい、アドバイスを受けたい、と思える人に囲まれる

プロ野球の世界でも、多くのコーチやOBから様々な異なるアドバイスをもらった結果、フォームを崩してしまいプロ入り前の才能が無駄になってしまうケースはとても多いです。そのOBもコーチも悪意はなく、みなその選手をよくしようと必死に自分の経験からアドバイスを行っているのです。
ただ問題は、その選手の体の動きに対する理解が少なかったり、これまでのフォームやトレーニングの変遷について知らなかったり、自分と体格が異なっていたり、アドバイスが一貫していないことだと思います。

ただそこで「アドバイスなんて正しくないから全て無視しよう」、と考えるのはもったいないです。一つのアドバイスで何もかもが好転することが多々あります。
球界を代表する投手である阪神の藤川球児投手、入団から5年間思ったような成績が残せずクビ寸前でした。その藤川選手に対して、当時の二軍投手コーチ山口高志がかけた「球児、右足ちゃうか?」の一言。この一言で藤川投手が覚醒したことはあまりにも有名な話です。

僕もベンチャーキャピタリストとして、正しいアドバイスができるように日々勉強し、起業家の方から切磋琢磨したい5人に選ばれるように努力し続けたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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